2014年02月19日

二兎両失――秋嵐乱心(緑高+中高)

夏コミの締め切りが終わりましたね。申し込みジャンルはギリギリまで悩んだのですが、初志貫徹。やはりラグナロクオンラインに致しました。受かりましたらば、生体関係の新刊と、出来れば冒険者主体のお話も書けたらなと。
スパコミやラグフェスの申し込みももう目前なのですが、ゴールデンウィーク近辺はリアル都合の関係で予定がはっきり立ちにくいので、こちらも悩んでいる最中です。とりあえず、七月のDC東京は緑高プチがあるので是非出たいと! 最近とみに原稿速度が遅く、黒子っち誕生日話もフォロワー様へのおたんじょーび贈呈物もまだ書き途中というていたらくでありますが、秀徳オンリーで出した準備号の続きも早く仕上げてしまいたいですね。



そんな同人関連の近況でありますが、今回は秋嵐乱心の続きをUPさせて頂こうかと思います。短めです。暗いです。シリアス一直線です。相変わらずすれ違いまくってます。ひたすら高尾君の心境です。次回でようやくもう一度、糸が絡まり合う、筈です。



毎度ながら注意書きです。

・このシリーズは全編を通して緑高・緑高前提の中高を含みます。
・物語開始時から緑高を前提としております。
・直接的な濡れ場は御座いませんが、そういう過程も含んでおります。
・着地目標は緑高のハッピーエンドですが、そこまでの道程は基本的にすれ違いシリアスです。

これまでのお話は以下になります(UP順)。

・人事不省(中谷×高尾)
・公私混同(相田景虎&中谷仁亮)
・暗中模索(緑間×高尾)
・青息独白(緑間×高尾)
・満心創痍(中谷×高尾)
・宣戦布告(中谷&緑間)
・因果応報(中谷×高尾)
・二兎両失(高尾和成)

時系列は以下の通りとなっております。
暗中模索→青息独白→人事不省→満心創痍→因果応報→公私混同→二兎両失→宣戦布告

以上の内容でも問題ないという方のみ、お進み下さいませ。


「――待……っ……!」
 何かを言いかけた唇が言葉をハッキリ紡ぐ直前に、高尾は目を覚ました。涙の膜でぼやけた視界が、夢の終わりを教えてくれる。
(いまの、ゆめ、か?)
 急激に世界が転換した感覚が、まだ意識の上澄みに残っている。触覚から確認するように、ぐ、と拳を握りしめた。手の甲で瞼を擦り、溜まった雫を拭い去ると、視界が一気にクリアになる。
 間違いない、こちらが現実だ。
(夢だった)
 寝起きと泣き過ぎで頭が鉛の様に重い。よいせ、と高尾は軽く身体を起こして肘をつく。
 遮光性能の高いカーテンがひかれているとはいえ、無灯の自室はまだ十分に明るい。今朝、体温を計った後に粥と薬を摂って、すぐ横になった。それから随分寝た気がするのだが、いったい今は何時なのか。
 ちらり、部屋の壁掛け時計を見上げると、時刻は昼を大きく過ぎていた。たまたま仕事が休みだった母親が家に居るはずなのだが、声を掛けられた記憶がない。どうやら昼食よりも、睡眠を優先してくれたらしい。
 ふと枕元を見遣ると、そこには体温計と共に『目が覚めたら熱を測って、起き上がれるようなら降りてくること』とメモ紙があった。
 へーい、と心の中で返答し、とりあえず指示に従って、ベッドに転がったまま体温計を脇に挟んだ。程なくして電子音を鳴らした体温計を引き抜いて、デジタル表示を確認する。
(……七度二分、か。まだ微熱ってるけど、昨日は八度あったし。だいぶ下がったよな)
 っつかそうでなきゃ困る、と高尾は体温計をケースにしまい、枕元に放った。
 あー、あー、と試しに声を出してみる。ここ二日酷かった、ひりひりと腫れを感じさせる喉の痛みもようやく引いた。声を出すのが昨日よりだいぶ楽だ。
(熱出したのなんか、久しぶりだな。ま、風邪ひいたのは完璧自業自得なんだけど)
 あの夜――緑間からの留守電を聞いた高尾は、茫然自失のあまり、碌に髪も体も乾かさないまま意識を落とした。
 当然ながら、しっかり体調を崩して高熱を出し、寝込んで今日が通算三日目。土日を挟んで月曜日だ。
 今朝、起床時の感覚では、まだ熱っぽいものの、体はだいぶ復調していた。関節の痛みも鳴りを潜め、この程度なら気合いで学校に行けると思った。
 が、正直いって気が重いどころの話ではない。中谷と気不味いのは勿論だが、一番は緑間だ。あんな留守電を聞かされて、いったいどんな顔をして逢えば良いのか。逃げようにも、緑間とはクラスが同じで、席も前後しているのだ。
 それに普段から緑間とつるんでいる為、周囲から自分達はセットのように扱われている。なのにいきなり余所余所しくなどしたら、俺達何かありましたと自ら吹聴しているようなものだ。いつもなら難なく躱せる好奇の目も、まあ出来なくはないが、今の精神状態には毒でしかない。
 未だ風邪が酷いのだと、仮病を使ってズル休みすることも考えた。
 が、わざわざそんな事をするまでも無かった。結局、朝の時点でまだ熱があった為、親に休むよう言い渡され――今に至る。
(っつっても、永遠に学校休んでるわけにもいかねーし。逃げたってしゃーないんだけどさ……)
 はあ、と溜息を吐いた高尾は、沈黙を貫いているスマートフォンを手にとった。真っ暗な画面に、自分の情けない顔が薄ら映り込む。
「……ヒッデェ顔」
 ふは、と自嘲に口端を歪める。
 あの夜からこちら、スマートフォンの電源はずっと切ったままだ。
 具合が悪くてつい電源を入れ忘れている、というのは建前だ。そんなのは自身が一番解っている。緑間からの入電を怖がり、同時に入電が途切れることも恐れていた。
 電源を落としてしまえば、全て判らずに済む。
(や、そんだけじゃねえか)
 あの留守電が入っているという事実から、目を背けているだけなのだ。
 見るのもイヤなら留守電ごと消してしまえばいい。だがこのまま緑間と別れることになるなら、あの凛としたテノールを残せるのはこれが最後かも知れない。
 そう思うと、どんなに酷い内容だろうと、未練がましくも消せなかった。
 これからどうしようか――階下に降りる気力もなく、高尾は部屋の天井を見つめた。
「真ちゃんと、話さなきゃなあ……」
 どんなに嫌でも、そのイベントだけは避けて通れない。例えどんな結果が待とうとも、腹をくくらねばならないのだ。
(真ちゃんに、許して貰えないだろうけど、とにかく謝る。酷いこと言って、裏切って、電話も返さなくてごめんって。それから――……それから、俺は、何て言えばいい?)
 それでも緑間が好きなのだと。赦されるなら側に居たいと、言って良いのだろうか。
(…………俺は。真ちゃん、が、好きだよ)
 今でも、高尾が心から想いを寄せているのはただ一人、緑間だけだ。高尾の胸を熱く、痛くさせられるのも。
 その、はずなのだが。
(あんな夢ばっか、見るから。ワケわかんなくなる)
 高熱と頭痛のお陰で、起きている時は余計なことを考えずに済んでいた。その弊害なのか、眠りに落ちて見る夢はどれも幸せで、そして泣ける内容ばかりだった。
 シチュエーションは違えど、話の大筋はだいたいどれも同じで、登場人物は自分と緑間。最初こそいつも通りのたわいもない話で盛り上がっている。楽しくて嬉しくて。緑間が大好きで。緑間も自分を見てくれていて。なのに些細なすれ違いが大きな喧嘩に発展し、最後は緑間を怒らせてしまう。去って行く背中を引き止めようとしているのに、喉が詰まって何も言葉が出てこない――そこで、たいてい目が覚める。その度に、頬が濡れているという醜態を晒していた。
 更に最悪なのは、そこで起きずに夢の続きがある時だ。
 穏やかな顔をした中谷が何処からか現れ、沈む高尾を慰めてくれるのだ。何も言わず、ただ優しく頭を撫でて、広い胸に包み込んでくれる。高尾の存在を肯定してくれる。居た堪れなさに逃げようとしても、やんわり離してくれない温かな腕中。あの時、車中で抱きしめられた腕の強さを思いださせる。中谷の温度は、許容される安心に浸らせてくれた。
 そんな夢から目覚めたときの自己嫌悪は、泣いて目覚める時の比ではない。夢に性的な内容が含まれていないのが、せめてもの救いだった。
 夢は、無意識に抱いている願望が現れるという。無論、過去体験が反映されているだけかもしれない。
 もしもこれが、前者のケースだとすると。
 高尾が求めているのは、確かに緑間だ。だが同時に、中谷にも救って欲しがっていることにならないだろうか。
 慰めを欲する心が果たして恋と呼べるのか、高尾には解らない。だが緑間以外の手を、温もりを求めている時点で、恋人に対する背信だと思われた。
(……やっぱサイテーだ、俺。結局、監督に揺れてんじゃん。こんなんで真ちゃんに許して貰いたいとか、ましてや元サヤ願うとかマジないわ)
 この三日、夢から覚める度に幾度も思った。緑間の傍らにいる資格も、中谷に安らぎを求める資格も自分にはないと。
 もっとも、中谷に関しては直に想いを告げられたわけではない。あくまで、高尾が雰囲気を感じとっただけだ。自分を生徒としてしか見ていない可能性も充分高い。
(謝って、余計なことは言わないで、別れる。釈明はしねえ。……罵られるのは覚悟しとこう)
 正直、怖い。ただでさえ緑間の性分は潔癖なきらいがある。恋人以外に身を任せた理由を釈明しないならば、ただの軽薄な行為だったと思われて終わるだろう。
 あの瞳に軽蔑の色が浮かんでいるのを想像しただけで、辛さに涙が滲んだ。
 だが諍いが原因で中谷に縋ったと素直に話せば、実直な緑間は自分を責めるに違いない。そんな風に緑間を苦しめるならば、憎まれる方が幾らかマシだ。
(うん、それで良い)
 親友で、相棒で。最高のエース様な恋人。それら全てを兼ねる者など、これからの人生、きっともう現れない。
 だが全ては身から出た錆。二兎を追う者は一兎をも得ず。否、得る資格すらないのだから。
(多分、部活も辞めなきゃな。監督は俺も必要だって言ってくれたけど、あんときとは事情が違うし。俺とエース様、どっちかしか取れないっつったら、答えは一つっしょ)
 直接の対話を恐れ、逃避するのはそろそろ止めにしなければならない。
 己の出した結論を胸に受け止めた高尾は、体を起こしてベッドから降りた。若干眩暈が残っているが、立っていられない程では無い。涙に濡れた両頬をぱしんと叩き、女々しい自分に喝を入れた。
 ボサボサの髪を手櫛で流し、気に入りのカチューシャをする。これを持って行った夏合宿を思い出し、未練がチクリと高尾の胸を苛んだ。
(……思い出にできるさ。っつか、しなきゃな)
 苦い思いを胸の奥深い所へ閉じ込めるように、静かに首肯する。
 決着は、明日。先ずは朝、緑間に約束を取り付けて昼休みに話をする。その結果を携えて、放課後中谷の元を訪れる。
 ――それで、全てが終わるのだ。
「うし、メシ食って体力つけっか!」
 何にせよ、腹が減っては戦に立ち向かえない。病魔を完全に追い出し、気力を充実させねば。
 階下にいる母親に遅い昼食を頼むべく、高尾は部屋を出た。
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