2013年12月08日

アンバランス・トライアングル――木順リコ

シリアスを書くと反動でラブラブが書きたくなります。これが連載の止まる主たる原因なのは判っているのですが、つい……。

というわけで。短いですが、誠凛を支える三本柱な人達のお話。木順リコ? 木日リコ? 表記がよく判らないです。日向主将とリコたんだと順リコなんですが、木吉先輩と日向主将だと木日なんですよね……。
明確なカプがあるかと言われると、多分、順リコのほんのりな両片想い。そこに木吉先輩が絡んで複雑化しているような。木吉先輩の立ち位置は、読む方のご想像にお任せ致します感じで。自分的には、木吉先輩は二人のことが、恋愛とか置いといてとても大好きなのだと思うのです。

続きは折り畳みであります。




 木吉、日向との作戦会議という名の寄り道は、予定よりかなり長引いてしまった。
 とっぷり日の暮れた外はすっかり真っ暗で、マジバを出た途端、くしゅん、とクシャミがでた。暖房の効いた店内と、冷たい外気の温度差に、リコは小さく体を震わせる。
 今日は一日暖かいという予報を信じて、防寒具を持たなかった。そして予報通り、確かに汗ばむくらいの陽気だった。
 だがそれは日中の話で、晩秋ともなれば、太陽が隠れれば当然ながら温度も下がる。
 コートは若干まだ早いとしても、せめてニットくらいは着てくるべきだった。失敗したな、と悔やんでも時すでに遅しだ。
「大丈夫か、リコ」
「平気よ。大体これくらい、この時期の体育館も同じようなものだし」
 心配げに眉尻を下げた木吉に、リコは笑って答える。
 寒くないとは言わないが、嘘は言っていない。実際これくらいの時期から、放課後の体育館は動いていないとかなり体が冷えるのだ。風が無い分、体感気温に差が出るだけで、似たようなものには違いない。
 が、その木吉の向こう側から渋い声音で追撃がきた。
「何が平気だ。無理すんじゃねーぞ、カントク。今は丈夫ンなったけど、お前昔は何かっつーと風邪ひいてたろーが」
「え、そうなのか? やっぱり駄目じゃないのか、無理したら」
「ちょっと日向君、大丈夫だって言ってるんだから余計なこと言わないでよね。鉄平も、それは昔の話って言ってるでしょ?」
 実際のところ、寒いのだとここで話していて、何かが解決するわけでもない。無理をするなと言われても、着るモノが無い以上、どうしようもないのだ。それくらいなら、さっさと帰ったほうがいい。
「ほら、行くわよ。突っ立ってたら、余計冷えちゃうわ」
 早足で歩き出そうとしたそのとき。リコの首が、ふわりと暖かな感触に包まれた。
 それはどう見てもマフラーで、深いブラウンの落ち着いた色合いが大人っぽい。頬に当たる柔らかな感触は、天日に干したふかふかの布団の心地良さを思い出す。
 振り返ると、木吉がにこにこ嬉しそうな笑顔を浮かべ、マフラーの端を持っていた。木吉の手が頭上を動き、リコの首にくるりともう一巡、マフラーが巻かれる。
「鉄平、なにこれ」
「見ての通り、マフラーだ。今朝ばあちゃんに渡されたんだよ、夜は寒くなるからって。良い色だろ、じいちゃんとお揃いなんだ」
「あー成る程、お祖父様とね。だからこんなシブい色合い……って、そうじゃなくて。私に渡してないで、自分で使いなさいよ、これ。ウィンターカップは目の前なのよ。鉄平に風邪なんてひかれたら、困るのは皆なんだからね」
「大丈夫。バカは風邪ひかないって言うだろ? リコは俺と違って頭が良いからな、万全の対策しておかないと」
「何言ってるのよ、鉄平は順位良い癖に――って、そういう問題じゃないから」
「ん?」
 まったくもう、とリコは肩を落とす。
 確かに寒さは感じていたから、有難くはあるのだが。監督として、スタメンである木吉の体調管理が優先だ。
「監督命令よ。このマフラーは鉄平がしてちょうだい」
 きっぱり言い切ると、困ったような木吉の目線がリコに注がれる。散歩を強請る大型犬を思わせる、木吉にこの目をされた場合、でもな、だってなと、なんだかんだ言いくるめられてしまう率が高い。
 作戦変更。リコは援軍を求めることにした。
「ね、日向君からも言ってやって。主将として、いま鉄平が風邪なんてひいたら困るでしょ?」
「あー、まあ、そりゃな」
 歯切れの悪い物言いながらも頷く日向に、木吉が僅かに眉間へ皺を寄せる。ちら、と木吉を見上げた日向が、仕方ねーなと言わんばかりに息を吐き、肩を竦めた。
 これで形勢は二対一だ。
「ほらね、解ったでしょ。気持ちは有難いけど、これは返すから鉄平が使って。それでさっさと帰っ……ち、ちょっと日向君、何してるわけ?」
 狼狽するリコに、むすっと黙った日向からの返答はない。
 何を思ったか、日向が着ている学ランの上着を脱いだのだ。それの行く先は――リコの肩だった。
「は?」
 展開についていけないリコに、日向の体温が学ランを通して伝わってくる。汗の染みついた日向の香りがほんのり鼻腔に漂う。香水など使っている様子もない洒落っ気のなさが、如何にも日向らしい。
(暖かいけど、な、なんかこれって凄い恥ずかしいような――ってそうじゃない!)
 いくら長袖とはいえ、ワイシャツ一枚は晩秋にする格好ではない。慌てたリコは「これじゃ日向君が風邪ひくじゃない!」と学ランを返そうとしたが、日向の手に押しとどめられてしまった。
「ダァホ。そうそう風邪なんかひかねーよ。昔っから見てて知ってるだろ、俺が風邪程度で寝込んだことあったか?」
「それは……確かにそうだけど。子供の頃の話でしょ、それ。とにかく、ちゃんと制服着て。鉄平だけじゃない、日向君にだって、風邪ひかれたら困るんですけど?」
「ほんっと解ってねーな。俺は……」
「何よ?」
「……ッ、だから。俺はバカとまでは言わねーけど、二人よか順位は下だし。少なくともカントクよりは風邪に強いだろ」
 だから羽織ってろ、と。
 どうあっても返却させてくれる気はないらしい。
「ズルいなあ日向。マフラーと学ランじゃ、俺の負けじゃないか」
「……知るかダァホ。だいたい先にマフラー出したのはそっちだろが」
「勝負じゃないとは、言わないんだな」
「うっせー勝負じゃねえよバカ!」
 あっはっはと笑う木吉までもが、何故か学ランを脱いだ。しかも今度はそれを、日向の肩にかける。
「……おい。何考えてんだ、お前」
 抵抗すら忘れてげんなりした日向のコメントに、リコは全力で同意だった。追従するように「何考えてるの?」と呆れ気味に問えば、「悪いな、リコ」とマフラーを没収される。いや元々このマフラーは木吉のものなので、没収というのは間違っているのだが。
 手にしたマフラーを首に巻き、木吉が「うーん暖かい」と満足げに首肯した。
「おい木吉、これが何なのかいい加減に説明しろ!」
「何って……リコは日向の学ランで暖まる。日向は俺の学ランで暖まる。俺はリコに暖めて貰ったマフラーで暖まる。これで完璧だろ」
 さも最高の思いつきと言いたげな木吉を、リコは日向とともにポカンと見上げた。
 そして木吉の浮かべる満面の笑みを前に悟る。幼馴染である日向と長さに比べればまだまだだが、木吉とだってもう一年半の付き合いになるのだ。性格くらい、把握している。
 即ち――ああ、これは何を言っても無駄だと。
「……さ、帰りましょっか」
「ああ、そうだな」
「はあ? ちょっ、待てって! おかしいだろこれ! つか木吉の格好ヘンだろどう見ても!」
「どこがおかしいんだ? 暖かいぞー、マフラー」
「全部だよ全部! シャツ一枚とか、この時期に寒々しいんだよ見てて! そこにマフラーとかただの変なやつだろ!」
「何言ってるんだ。最初に脱いだのは日向じゃないか」
「それはっ……俺はいーんだよ、俺は。お前のはマフラーが変だっつの!」
「ああ。そうか、日向はつまり、リコに暖めて貰ったマフラーを俺がしてるのがイヤなんだな? 譲ってもいいが、今は俺が暖めたマフラーになってるぞ」
「ばっ、変な言い方すんな! つか、いらねえよ! マフラーも、この制服も!」
「おいおいダメだろ日向、それ脱いだらリコの心配が増えるじゃないか」
「今のお前にだきゃ言われたかねーよ!」
 きゃんきゃん吠えるスピッツの如く。どこまでもトボけた木吉に向かって、怒涛の勢いで日向がツッコむ。誠凛バスケ部の微笑ましい日常茶飯事な光景であるが、いつまでも放っておくわけにもいかない。やれやれと、リコは日向の肩に、ぽんと手を置いた。
「……んだよ」
「無駄に騒いでないで、さっさと帰るほうが建設的よ、日向君」
「そうだな、リコの言う通りだ。帰ろうぜ、日向」
 脱力した日向が、形勢不利と悟ったのか、ツッコミの代わりに大きな溜息を吐いた。
 やっと静かになった日向と、ずっと笑みを絶やさない木吉を、リコは順に見る。
 まったく、困った仲間達だ。バカでやんちゃで煩くて、いつまでも子供みたいで。でも、とても優しい心を持っている、頼もしい男子達。
 少しばかりの呆れと、心からの感謝を込めて、リコは二人に笑顔を向けた。
「ありがとね、二人とも」
 おう、と。まるでコートにいるように、先程まで喧々囂々していた二人の、息の合った声が唱和した。
タグ:日向×リコ
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