2013年07月02日

私的ハムレット――主花(ペルソナ4)

お布団で横になりつつあいぽんさんでぽちぽちしてましたっていうパターンが最近増えつつあります。
あとあれです、原稿してると唐突に他の話が浮かぶ時があるというか。

そんなノリで書いてしまった短い話。今回は主花であります。付き合ってる二人が微妙にいちゃいちゃしてるだけです。

演劇をかじっていたこともありましてシェイクスピア作品は結構好きです。基本の物語骨子は同じでも、演出家さん次第で登場人物達の印象が全く変わったりするのがまた良いですよね。個人的に思い入れが強いのはヴェニスの商人だったりします。ポーシャさんのチートっぷりとシャイロックの悪人っぷり、そして特にアントーニオとバッサーニオの仲良しっぷりが。もう。初読の時は思わなかったはずなのに、腐った目で見てしまうと色々滾るものがあります。

というわけで本文は折り畳みで。時期は基地攻略後、文化祭前。本編のネタバレはほぼない、はずです。主人公の名前は出てきませんが、多分自宅ゲーム番長。





「陽介だったら何が似合うかな……うーん、レアティーズとか」
「んあ。チーズケーキがどした?」
 毎日が珍道中だった修学旅行も無事終わり、休む間もなくマヨナカテレビに映った直斗の救出も無事成功。次なる学校行事である文化祭を控えた、ある日の放課後。
 探索で休んだ分を取り戻すべくバイトに励んでいた陽介だったが、今日は珍しくシフトが入っていないというので、なら久しぶりにうちにこないかと俺は恋人を遊びに誘った。
 とはいうものの、特別何をするでもなく。堂島家の二階でゴロゴロ寛いで、陽介はファッション雑誌を、俺は演劇部で小沢から貰った台本を眺め、二人でまったり穏やかな時間を過ごしていた。
 陽介を誘ったとき、久しぶりに二人きりになれるのだし、いちゃいちゃしたい下心がなかったわけじゃないが、今日は階下に菜々子がいるので自重している。ふわふわ遊ぶハニーブラウンの髪先から垣間見える白い肌とかうなじとか、なかなか誘惑は多いけれど、まあなんとかなるだろう。
 で、心の声を思わず口にしてしまった冒頭に戻るわけだが。
「チーズケーキじゃなくて、レアティーズだよ陽介。ハムレットの登場人物」
「あー、えっとシェークスピア……だっけ」
 床に俯せながら肘を着いていた陽介がゆっくり体をおこし、胡座をかいて自信なさげに首を傾げる。一応、原作者が誰かという程度の知識はあるらしい。
「そう。こないだの昼休み、文化祭のクラスの出し物でハムレット上演するところがあるって言ってたろ。その話聞いて、演劇部にも台本ないかなって思ってさ。聞いてみたら、昔上演したときのがあるって、小沢がこれくれたんだ」
 そういやお前演劇部にも入ってたっけ、と陽介が四つ這いで此方に寄ってきて、台本をしげしげと覗き込む。
「はー、年季の入った手作り台本だこと。端なんて黄色くなってんじゃん」
「藁半紙だからな」
「そんで、これ読んでたわけ? ったくホントに趣味の幅が広いな相棒」
「うん。本は好きだし」
「俺からしたら、それ自体が信じらんねーの。活字ばっかの本とか読んでたらぜってー眠くなる自信あるわ」
「だから成績上がらないんだな、勿体無い」
「うっせーよ、こんにゃろ」
「って、痛いってば陽介」
 じゃれついてきた陽介に、言うほど痛くないヘッドロックをされながら、結構本心なんだけどなと俺は内心呟く。
 飽きっぽく集中力が持続しないだけで、陽介の理解力は決して低くないのを、定期テスト前の勉強会で知っている。
 特捜隊の参謀を担い、頭の回転も早い。真面目に勉強すれば其れなりに成績も上がるだろうに。その飽きっぽいのが致命的なんだろうが。
「ちなみに陽介、ハムレットの内容は知ってる?」
「んー、なんとなくは。あれだろ、ハムレットって王子なんだろ」
「うん。他には?」
「えーっと、あと……なんだっけ」
「……陽介、それしか知らないレベルをなんとなくとは言わないぞ」
「うっ」
 陽介らしいけどな、と笑うと、陽介はうっせーと唇を突き出し、いじけた顔をしてそっぽを向いた――ちくしょう可愛い。下に菜々子が居なければ、このまま押し倒してしまいたいと思うくらい。
 いかん、自重自重。
「まあ簡単に説明するとだ。ある日ハムレットの父王が死んでしまって、そのあとすぐに母親が叔父と再婚するんだ。で、ハムレットは父王の幽霊に会って、父王から真実を、叔父に毒殺されたことを聞かされて、復讐を誓うんだよ」
「復讐……あ、なんか内容思い出してきた、気がする。あっちのガッコいたとき、授業でやったんだった。確かすげー昼ドラみたいな話だよな」
「お前、天下のシェークスピア四大悲劇を昼ドラ呼ばわりか」
 まあ実際ドロドロした愛憎劇で、なんだかんだ登場人物は皆して自分勝手だしぐだぐだしてるし、昼ドラって比喩は当たらずといえども遠からずなんだが。
「だって昼ドラじゃん。ハムレットに振られた上に父親殺されて、狂って死んじゃうコいたろ。あれはすげー可哀想だった」
「オフィーリアな。おまけに兄のレアティーズもハムレットに殺されるからな。まあその時はオフィーリア死んでるし、レアティーズは自分で用意した毒の剣で死ぬわけだから、ある意味自業自得だけど」
「あ、そうそうレアティーズ! なんだっけ、そいつがどうとか言ったんだよなお前」
「やっと話が戻ってきたか。うん、もし特捜隊でハムレットを演じるってなったら、誰がどれやったら合うかなって思ってさ」
 真っ先に思いついたのが、陽介のレアティーズだった。父親に引き続き、大切な妹を喪って怒り悲しむ彼が、小西先輩の仇を取らんとしている姿に重なった。
 翻訳者の解釈にも因るが、弟王にハムレットとの決闘を唆され、卑怯な手段と判っていても、復讐という本懐を遂げることを優先して毒を塗った剣を取り、けれどその切っ先は自分に刺さって。最期の時にかつての友人ハムレットへと赦しを請うたレアティーズ。
 真っ直ぐで不器用で、作中様々な事象に振り回される剣豪という役どころは、陽介に似合うことだろう。
「なーる。でもさ、だったらレアティーズは俺っていうより相棒だろ」
 まさかのチョイスに目を丸くすると、「だってさー」と陽介がさも当たり前のように続けた。
「レアティーズって、妹であるオフィーリアを死に追いやったハムレットを殺す為に、いい友人だった相手に対して毒の剣で試合するんだよな? お前も菜々子ちゃんの為ならそんくらいやりそう」
「……否定出来ないな……だが」
 傷つきやすく可憐で純粋な悲劇の乙女が菜々子か。確かに似合っているかもしれない、が、しかし。
「ん、なに?」
「菜々子がオフィーリアの場合、ハムレットを俺以外の誰にもやらせられないな。正直ハムレットの性格は俺の性分じゃないんだが、それでも菜々子と恋仲だなんて誰あろうと許さん」
「役のうえでだろ。お芝居だろ」
「それでもダメだ」
「無駄に男前に言い切りやがったな、このシスコンめ。っつか、ハムレットは女性不信になったんだか狂った振りしてだか、オフィーリアに暴言吐くんだよな。なんだっけ、お前なんて最初から愛してない、尼寺に行っちまえーとか。お前、演技でも菜々子ちゃんにそんなん言えんの?」
「うっ。そこは演出に口を出してシーンをカットする方向で」
「ダメだろそれ、物語が進まないじゃん」 
 くつくつとおかしげに陽介が笑うのを軽く睨む。仕方ないだろう、菜々子に酷いことなんて言えるはずない。
「それだと相棒がハムレットで俺がレアティーズ?」
「そうなるな」
 あー、うーん、と唸りながら陽介が腕を組んで、なにやら真剣に考えこむ。
「どうした」
「あー……なんかさ、大事な人の復讐だとしても、殺すつもりでお前と剣を切り結ぶとかヤダなーと思っちゃいました。例えお芝居でもさ。それに、その」
 一旦そこで言葉を切った陽介が、もごもごと口籠り、視線を彷徨わせる。先を促すようにじっとみつめると、陽介は観念したように息を吐いた。
「最後は手酷く振られて狂っちまうとしても、お前がハムレットやるんなら、恋人役は、あー、俺がやりたいっつーか。や、判ってんよ? 俺がヒロインとか、ねーよ? おまけにアンハッピーな結末だぜ? でも幾ら菜々子ちゃんでも、お前が俺以外に甘いセリフ言ってんのとか、見たらぜってー妬くなあって。さっき、役のうえの話じゃんって言ったのは俺なんだけどさ」
 困ったように頬をかき、はにかむ陽介の笑みに心臓を撃ち抜かれた俺は、無防備な体を引き寄せて胸に閉じ込める。
 きゅう、と腕に力を込めて抱きしめ、たまたま良い位置にあった耳殻を悪戯に食むと、ひうっと啼いた陽介がわたわたと身を捩った。
「お、おま。下に菜々子ちゃんいんだろ!」
「ああ、愛しのオフィーリア。君をこよなく愛している。私の肉体が私の物である限り、この身は永遠に君の僕だ」
「流石センセイ、台本さらっと読んだだけでセリフ覚えちゃったわけ? っつか耳元でイイ声ヤメテ!」
「ふふん。忙しいから舞台に立つのは断ってるけど、これでも演劇部の星と呼ばれているからな」
「サッカー部でも呼ばれてませんでしたっけ?」
「そっちはエースだ」
「エースに星に、相変わらず万能だなお前!」
「お褒めに預かり光栄だな。で、陽介。続き、しないの? 俺、他の台詞も覚えてるんだけど」
 演技がかった手つきで頬から首筋にかけてのラインを指先でなぞってやると、大袈裟なくらいぶんぶか首を振った陽介が叫んだ。
「い、いやもういい!」
「なんだ、それは残念。ヤるべきかヤらざるべきか、それが問題だって言おうと思ったのに」
「いや言っちゃってるからね? っつか俺でも知ってる名言をなんかガッカリな感じにしないで下さい相棒! 無駄にいい声なのが余計残念だっつーの!」
「ちょっと本気を出してみた」
 にっこり笑ってそう言ってやると、首まで真っ赤に染めた陽介ががくりと肩を落とす。熟した果実を思わせる首下に唇を寄せると、んっと鼻に掛かった甘い声が陽介の喉から漏れた。
「お前さ。演劇部でも、いつもこんなんやってんの……?」
「――してないよ。陽介以外とラブシーンなんて、しない。そういうのもあって、舞台に立つのは遠慮してるんだ。役を貰っといて、恋人が居るんでそういうシーンは出来ません、なんて言えないだろ」
 なら良いけど、と落ち着かない様子で陽介が目線を下げ、居たたまれない気持ちを伝えてくるように俺の襟元をぎゅっと掴む。
 本当は練習の一環であるエチュードで、部の女の子と恋人同士の演技をすることもある。が、実際こんなに密着はしないから嘘は言っていない。
 その説明をしても良いのだが、今の俺の伝達力では誤解を生むのが目に見えているし、その結果、今後演劇部に顔を出す度、陽介に要らぬ心配をかける事になる気がするので、今はそういうことにしておく。
 陽介を騙しているようで少々気分は後ろめたいが、真実全てを伝えることが幸せに繋がるわけじゃ無い。これが二人の為なんだ――ハムレットの登場人物顔負けに自分勝手なことを思いながら、本当は陽介が俺から離れようとする可能性が生まれるのを恐れ、少しでも防ぎたいだけなのを知っている。
 もしも今、俺のシャドウが生まれたら。きっと臆病な俺を見て嘲り嗤うのだろうなと思いながら、襟元で握られた陽介の手を優しく撫でた。
 傍から見れば、恋人の不安を優しく宥めている図、だろう。本質は全く逆で、俺の方が陽介の体温に癒されているのだけれど。
「相棒?」
「んー……陽介の手が気持ち良くってつい、何時までも触ってたくなる。ダメ?」
「触んのはいーけど、手つきやらしーんだよ、お前っ」
「俺の手、嫌いじゃないくせに」
「なっ」
「ほら、図星」
 ちゅ、ちゅと頬に繰り返しキスを贈り、振り払われた手をきゅっと握れば今度はされるがままになってくれる。
 ああ、やっぱり可愛い、どうしてくれよう。いや、今はどうも出来ないんだけど。
「……なあ、相棒。やっぱ、オフィーリアは誰かに任せる。お前の恋人役やんなら、ハッピーエンドがいい」
「なら陽介には――花村陽介っていう、俺の恋人役を生涯お願いしたいな。勿論、結末はハッピーエンドだから安心していいよ」
「ばっ、お前って、ほんとばか……」
 消え入りそうな声音でぶつぶつ言う陽介に、「でもそんな俺のことが好きなんだよな?」と追撃してやると、ウサギみたいに紅く充血した涙目で睨まれた。
 ちょこっとかさついた唇を舌先で舐めてやると、ひくっと肩が揺れる。
「答えて、陽介」
「……好き、だよ……もーお前、言質取ったかんな。恋人役、一生やってやるから覚悟しとけよ……!」
 勿論、と。 微笑んでから俺は、羞恥に甘く震えている陽介の唇へ、そっと口吻けた。
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