2012年11月23日

遅刻しました11/22。

11/22はいい夫婦の日、ということでSSを書いてみました。

どこで書こうかなーと真っ先に思いついたのが黒バスの日向主将とリコたん。
あの二人って可愛いですよね。加えて信頼しあってる感じがたまりません!


というわけで、今回はとてもNLです。ノマカプです。
あと、妙に木吉先輩が出張ってきてますが基本は順リコです。順→←リコの両片想い。
木吉先輩の立ち位置は、読者様のご想像にお任せ致しますという感じで。


それでも宜しければ、折り畳み先からお進み下さいませ。 監督と主将――部という一つの団体において、かたや大局を見据え指示を出す役割、一方は内部からメンバーを支える精神的支柱の役割を担う為、互いに意思の疎通が出来ていなければチーム全体の強化は難しい、のは重々判っているのだが。
(…………それ、出来てんのかね、俺ら)
 部活後のマジバにて真剣にディスカッションを重ねている木吉とリコの会話を横目に眺めながら、日向は片肘を着いた掌に顎を乗せ、ずずっとシェイクをすする。
 今日のテーマもやはり火神と黒子のスーパールーキー二人が中心で、アメリカへと短期交換留学している火神と、壁を乗り越えようとしている黒子の成長を心配するリコに、木吉があいつらなら大丈夫だと、何の根拠も無しに鷹揚な笑みを浮かべた。
 他のメンバーの前では監督という立場の手前、皆に気強く発破をかける側であるリコが珍しく弱気な顔をしていて、木吉もそんなリコを安心させようとしているのが手に取るように判る。
 ツーカーというか、解り合っているというか。
(つーか、この場に俺いらなくね?)
 部のこれからを論じているのだから、誠凛バスケ部の主将を務める身としてはこの場に居続けて話に参加するべきなのは判っているのだが、なんとなく胃の辺りが原因不明のむかつきを覚えていて、今飲んでいるシェイクも半ば惰性で流し込んではいるが、正直もう残してしまいたい。
 そもそも日向は、誠凛バスケ部創設者である木吉こそが主将を務めるのだと思っていた。クラッチタイムなどと呼ばれる通り、正直自分が短気なのはよく判っている。性分も実力もキャプテンシーも、どう考えても日向と比べて木吉のほうが勝っていると、客観的に見てもそう思う。
 ところがその主将に日向を推したのは木吉だった。まさかの推薦に首をぶんぶん振った日向だったが、意外にも周りは自分を支持してくれた。
(何より、あいつが――頑張ろうって)
 跳ねっ返りな瞳に強い意志の光を宿して、私も監督として頑張るから日向君も主将頑張って、と。主将を引き受けたあの日、他ならぬリコが自分の手を強く握って、日向君ならやれると、そう言ってくれたから、日向はこれまで主将を張って来られたのだ。笠松や今吉、大坪といった自分にない強かさや統率力、牽引力を持つ強力なライバル校の主将達と並んでも、少しでも引け目を感じないように努力してきたつもりだった。
 だが――。
 夏合宿のあの日からずっと日向の脳裏にこびりついて離れない、二人の――リコの言葉が脳内で再生される。


 その会話を聞いてしまったのは、全くの偶然だった。
 夜も時間を惜しんで練習しようとボールを持って宿の外へと出ていったは良いものの、汗を拭うタオルを忘れたことに気がついた日向は、一旦宿へと戻ってきていたのだ。
 マッサージチェアで寛いでいる木吉と、風呂道具を手にしたリコ。二人の会話を立ち聞きするつもりもなく、素通りするつもりだったのだが、丁度聞こえてきたリコの言葉に、つい足を止めてしまった。
「なんで自分でバスケ部創ったのに、主将やらなかったの?」
 それは深い意味など含まれていない、何気ない響きを持った問いかけだった。
 インターハイのリベンジを誓い、ウィンターカップに向けて練習に励んでいる皆には決して見せられない、けれど心の奥底に揺らめき続けていた、本当に自分が主将で良いのかという不安が、今更のように顔を覗かせたのが判った。
 柱の陰に隠れ、息を潜めて木吉の回答を待つ。
 どくん、どくんと心臓が嫌に大きく脈を打つ中、やれやれといった風の表情で苦笑した木吉がリコの疑問に答える。
 だが全身を硬直させた日向の耳に、木吉の言葉は入ってこなかった。いや、音としては聞こえていたのだが、自身のぐるぐる渦を巻く思考に手一杯で、言葉として形成されていなかったのだ。
(何で、今更。お前が、木吉にそんなこと聞いてンだよ)
 疑問に思うならば出て行って、リコに質問の真意を問いただせば良いだけなのに、日向の両足は足裏が廊下に縫い止められてしまったようにその場から動くことが出来なかった。 
 このままこの場に居ても良いことなど一つも無い――そう判断した日向が、がちがちに強ばった脚に無理遣り力を入れ、音を立てずくるりと二人に背を向けたその時だった。
「日向君に文句はないけど。鉄平も向いてるわ、やっぱり」
 背を向けたあとだった為、どんな顔で言ったか判らないリコの一言が鋭い刃となって日向を貫いた。


 聞かなかったフリをするのは簡単だった。これまで抱えていた不安が多少増えたくらいで、そんなことを気にするくらいだったら少しでも多く練習をしなければと、ただがむしゃらにバスケットに打ち込めば、夜はいやな夢も見ないでぐっすり眠れた。
 ただ――今日のように、今のように。頼りがいのある木吉と、そんな木吉を頼りにしているリコのツーショットを見ていると、自分の存在意義はなんだろうと考えてしまうのだ。
 スリーポイントシューターとしての自分は誠凛にとって必要だと自負できる。そうと言えるだけの練習を積んできたし、シュート練習で犠牲にしてきた物も沢山ある。自分で言い出したこととはいえ、リコの手によってへし折られた、哀れな武将達の残骸を前にして、選手としての自分が要らないなどとは言えない。
 だが主将としてはどうなのだろうか。
 強豪校の主将をいやと言うほど目の当たりにし、新設校の為に手本となるべき先輩が誠凛にいなかったこともあり、一年生時から主将を務めていたのも相まって、日向の自己評価は極端に低い。
 それゆえ他己評価、とりわけ幼馴染であるリコからの評価というのは、日向の自信に直結する。
 ましてや比較対象は無冠の五将と呼ばれる実力を有し、皆を励ますことにかけては天下一品の穏やかで何処か気の抜けた性分の、日向自身が認める相手なのだ。何においても木吉に敵うはずがない――それは日向のなかで決定づけられた格付けだった。
 だからこそ、木吉を前にすると主将である自分のアイデンティティーがこうも簡単に揺らぐのかも知れない。 
(……やっぱ今でも、木吉のが良かったって思ってンのかな)
 うだうだと考えている自分に苛立った日向は、二人に気付かれないように小さく舌打ちし、はあっとため息を一つ吐いた。
「日向君?」
 ディスカッションに熱が入っていたのか、お陰でこちらの変調は見咎められなかったらしいが、流石に溜息には気付いたのか、リコが怪訝そうにこちらを向いた。
「どうしたの、さっきから黙っちゃって」
「いんや、別に。お前らの話聞いてただけだぜ」
「日向は聞き上手だからなあ」
「や、確かに聞いてはいたけど、俺は単に黙ってただけだからな木吉」
 天然発言で変な持ち上げ方をする木吉にぱたぱたと手を振りツッコミを入れてから、日向は手にしていたシェイクの容器をトレイに乗せて立ち上がった。
「あれ、日向君もう帰るの?」
「あー。ちょい寄るとこあってさ。新しいバッシュ見てこうと思ってたの忘れてた」
「こんな時間に? もうお店しまってるでしょ」
「駅前のショップならまだやってるだろ。つーことで、あとの話は二人に任せたわ。なんかあったらメールか電話くれ」
 確かにバッシュを見たいと思っていたのは事実だが、別に急ぐ用事でもない。週末が晴れだったなら行こうと思っていた程度だったのだが、ていの良い言い訳が咄嗟に出てこなかった。
 怪訝にこちらを見上げるリコと、何かを見透かすように真顔でじっと見つめてくる木吉に「悪いな」と片手を挙げて、日向はマジバを後にした。




 明るい店内にいたので気付かなかったが、部活を終えてからマジバに寄ったのだから当然の如く辺りはすっかり暗くなっていて、通り過ぎゆく車のヘッドライトがやけに眩しく感じられる。
 とぼとぼと覇気の無い足取りで一応現在の目的地であるスポーツショップに向う道すがら、何やってんだかと日向は自嘲の笑みを浮かべた。
 途中、小さな公園を目にした日向はショップへ向いていた足を九十度回転させ、そのまま空席のベンチへ真っ直ぐ向かい、どさりと腰掛ける。
 外気で冷え切っていたベンチが尻に冷たいが、この際文句は言うまい。例えこの公園のベンチに比べて百倍は温かく過ごしやすくとも、あのままマジバで二人を見続けるよりはマシだった。
 忙しなく店を出てしまったが、こうして落ち着いて一人になるとよく判る。自分は逃げ出したのだ、あの場から。
 あれ以上リコの前で、木吉の前で、自分の不甲斐なさを実感したくなくて。
(や、ちげえわ。っつーか、それだけじゃねえってのも判ってんだよ)
 高みを目指し目標を見据え、真剣な眼差しで木吉と向かい合うリコの横顔は綺麗だった。自分に向いていないからこそ綺麗なのかもしれない思うと、悔しさに苦さが滲んだ。
 何事にも真摯に取り組むリコの、あの顔が昔から好きで、けれど木吉には何もかも敵わない。
 自分の弱さ全てを頭で理解していても、心情として簡単に受け入れられるものではない。
 なっさけねえ、とぼやいた日向はベンチに背中を預けて寄りかかり、そのまま星一つ瞬きを見せない、暗い都会の曇天を見上げた。 
「何がよ」
「……おわっ! 本物?!」
 空を見上げていた視界にぬっと現れたのは、ここにいる筈のないリコの顔で、心の中で描いていた顔が口をへの字に曲げていきなり現れたことに驚いた日向は間の抜けた声を上げる。
 慌てて勢いよく顔を上げてしまった日向の額と、背後から覗き込んでいたらしいリコの額が、盛大にごつんと音を立てて衝突した。
「痛っ!」
「っつー……つかカントク、何でこんなとこにいんだよ」
「それはこっちの台詞なんですけど。ショップ行ったのかと思ったらこんなとこで油売ってるし。まったくもう、行き違いになるとこだったじゃない」
 相当に痛かったのだろう、片手で額をさすりつつ、腰にもう片手を当てて仁王立ちしながら憤慨しているリコの言葉を聞いて日向は眉をしかめた。
「つーか、木吉はどうしたよ。話してたんじゃなかったのか」
「日向君が居ないんじゃ、話し続けたって意味ないでしょ。自分で解散しといて何言ってるのよ」
 さも当然のように言って隣に腰掛けたリコを、目を丸くした日向が唖然と見返す。
 何を言っている、はこちらの台詞だった。
 二人がディスカッションを交わしている最中、日向は一度たりとも有用な発言をしていない。たまに相づちを打ったり、同意を求められて頷く程度だった。
 にもかかわらず、自分が居なくなったから解散したという言葉に納得がいかず、加えて悶々と自分の弱さについて考えていたことも重なって、普段ならばスルーして適当にお茶を濁すところを、日向はつい食って掛かってしまった。
「俺が抜けたって別に話は続けられるだろーが」
「そりゃ鉄平と二人で話を続けたって良かったかもしれないけど、その鉄平が言ったのよ。日向君がいないんじゃ、今日は帰るかって」
「そんなん、止めりゃ良かっただろ。まだ話そうっていや済むことじゃねえの」
「私も鉄平の意見に同意だったもの。聞き役が居てくれないんじゃ、意味ないわ」
「……聞き役?」
 そうよ、と背中を丸めたリコが大腿に両肘を着いて、上向きに開いた掌に顎を乗せた。
「日向君がツッコミ入れて修正してくれるって判ってるから、私と鉄平で好きなこと言えるのよ。チームと同じ。幾ら伊月君がボケても、黒子君と火神君が漫才を始めても、鉄平が天然なことを言い始めても、私が無茶なことを言っても、全部日向君が軌道修正してくれる。だって――日向君は、誠凛バスケ部の主将だもの」
 街灯の明かりに照らされたリコの横顔が、そうはっきり告げる。
 まるでこちらの悩んでいたことを知っているかのような物言いに、日向は思わず息を呑んだ。
「……なんてね。日向君追いかけて、そう言ってこいって私に言ったの、鉄平なんだけど」
「木吉が?」
 店を出る直前の、何もかもを見透かすような視線を思い出す。
 あの天然でそれ以上に有能な、一癖も二癖もある男は、自分の悩みを見抜いていたとでもいうのだろうか――内心の敗北感を知ってか知らずか、リコが「うん、実は」と決まり悪げに頷いた。
「ねえ日向君。夏合宿の時、鉄平と私が話してるの、聞いてた?」
「ばっ、聞いてねえよ」
「何の話かって聞かない時点で語るに落ちてるわね、それ」
「……るせーよ」
「さっき日向君が店を出てった後にね。鉄平が何の脈絡も無しに、それ教えてくれたの。多分日向君はあの時の話を聞いてたって。……夏合宿の後から日向君、あからさまに練習量増やしたじゃない。勿論、ウィンターカップに向けて頑張ってるなとは思ってたけど、やっぱちょっとおかしいなって感じてた」
「気付いてたのかよ」
「当然でしょ。私を誰だと思ってるの」
 くるっとこちらを向いて頬を膨らませたリコに、誠凛バスケ部の有能な目をお持ちのカントク様です、と日向は肩をすくめる。
 こうしてリコがわざわざ自分を追ってきた切欠が木吉だというのは敵から塩を送られたようで結構悔しい。あいつは上杉謙信か、と胸中で吐き捨てる。
 だが合宿以降の練習量増加や自分の変化に気付いてくれていたことは素直に嬉しい。もっとも、あくまで監督として気にかけてくれていたのだろうが、それでも。
「……なあ、リコ」
「なっ――何よ。急に名前で呼ばないでよ、びっくりするじゃない」
「んじゃカントク」
「いいわよ、別に言い直さなくても」
「俺が、誠凛の主将で良いのか?」
「それ同じ事次に聞いてきたら、はっ倒すから」
「はっ倒されんのかよ?!」
 機嫌の急降下したリコの声音に本気を感じ取った日向が両肩を抱くように大袈裟に震えると、上半身を起こしたリコが「あのねえ」と日向の真正面を向いて息巻いた。
「確かに、夏合宿で私は鉄平に聞いたわ。どうして主将をやらなかったのかって。でもそれは――日向君を否定したわけじゃない。そこまで聞いてたか知らないけど、日向君に文句はないの。どころか、誠凛の主将は日向君じゃなきゃダメなのよ!」
「ワリーけど、そこまでの自信は持てねえわ」
 リコがこうまで言ってくれる以上自分を卑下するつもりはないが、木吉と比較して勝っている部分を見つけられないのだから仕方が無い。
 そう思っての言葉だったのだが、リコの様相が不満げなものから崩れないのを見遣って日向は苦笑を漏らした。
「それに、私だって」
「何だよ」
「…………日向君が、主将をやってくれてるから。日向君の声で発破かけてくれるから皆、気合い入れてプレイ出来るし――それに、その。私も、安心して監督業が出来るんだからね。そこのとこ、しっかり覚えといて」
「皆はともかく、カントクの場合それこそ別に木吉でも変わんねえだろ」
「――――っとに、もう、バカ!」
 唐突に怒鳴られてわけの判らない日向は、目を瞬かせて白黒させる。
「な、なんだよいきなり」
「別に! あーもう、怒鳴ったらなんかお腹空いてきちゃったじゃない。日向君の所為だからね」
「ちょ、待ておい人の所為にすんな。つか、さっきマジバでバーガー食ってたろうが」
「誰もハンバーガーが食べたいなんて言ってないわよ。クレープなら食べたいけど」
「……それ、どう違うんだよ」
「甘い物は別腹なの」
 さっきいきなり怒鳴られた理由はわからなくとも、ちら、と横目で見られた視線の意味するところくらいは理解出来る。
 財布に幾ら入ってたかなーと勘定しながら、クレープの二個くらいならたいしたことないかと観念した日向は、ベンチから立ち上がってうーんと背筋を伸ばしてから、リコに向かって手を差し伸べた。
「んじゃ、食いにいくか」
「うん」 
 頷いて自分の手を取ったリコの笑顔が、果たして街灯の明かり効果なるものでもあるのか、いつもの十割増しくらい可愛く見えてしまい、一瞬この手を思い切り引いて抱きしめてしまいたい衝動に駆られる――流石に、そこまでの勇気はないが。
 よいせっとリコが立ち上がったその時、日向の携帯が着信を知らせてブルッと震える。震動のパターンからメールだろうと携帯を取り出すと、そこに表示されていたのは木吉の名前で。
 一体何だよと画面を開いてメールの文面を見た日向の額に青筋が浮かんだ。
「――っ、あんの野郎!」
「何、どしたの? 誰から?」
「何でもねえから気にすんな!」
 そんなこと言われたって、と携帯を覗いてこようとするリコを巧みにかわし、日向は苦々しい表情で携帯を鞄に突っ込んだ。
「ほら行くぞリコ」
「あ、待ってよ日向君」
 慌てたリコが着いてくるのを気配で察してはいるが、照れと焦燥と悔しさがない交ぜになって後ろを振り返れない。
『リコと上手くいったか? あ、上手くいったって、変な意味じゃないぞ。正しい意味だからな?』
 まるで二人の様子を見ていたかのような木吉の送ってきた文面に、正しい意味ってどういうことだっつーの、と胸中で木吉に毒づいてから、日向はリコと共に公園を後にした。 
タグ:日向×リコ
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