2012年09月14日

黒子のバスケで汝は人狼なりや?[誠凛編その6]

というわけで、表題通りですが黒バスで人狼を題材に書いてみました の第七弾です。
連作となっておりますので、お読み頂く際はお手数ですが[その1]からお願い致します。


以下、注意事項です。


・このお話は黒子のバスケの登場人物が対面式の「汝は人狼なりや?」をするお話です
・あくまでゲームをするお話ですのでシリアス要素はほぼありません
・むしろコメディ寄りです
・基本的に火神ん視点でお話が進む小説で、ログ形式ではありません

・中の人の参戦経験はC国で数度ある程度です
・F国ログも読み込んでおりますが、今回はC国仕様(狂人が囁きに参加できる)です
・役職配分は村5狼2占霊狂狩の11+1人村です
・吊り手計算が苦手なので間違ったらすみませんorz


夏からこちら体調を崩しておりまして、更新が遅くなりました。ジャンプ感想も書けなかったのが悔しいというか……一番の盛り上がりの時に! 次回感想更新時に41号の黒バス感想を併せて書きたいなと思っております。


ゲームも佳境を迎えました、5日目です。この辺りに来るとどちらの陣営も胃がきりきり痛みますね。人を疑うって難しい。ロックオン思考もそれはそれで難しい。
ちなみに余談ですが、自分はとある身内村で「中庸・無難・そつが無い」という三拍子を頂きまして、主張が薄く潜伏臭がしているということで吊られました……狼でも村でも同様に。主張って難しいorz

さて、次回は結果発表&エピローグになりますが、コミックシティスパークの原稿の合間を縫う形になりますので、少々遅くなるかもしれません。今しばらくお待ち頂ければ幸いです。




「さー、全員目を開けて良いわよ!」
 囁きのような物が聞こえていた気がしないでもない、ほぼ無音の暗闇から突如引き戻された火神は、今までで一番長かった気のする切り替え時間から戻るべく目を開けた。
 若干眩しさに目が眩むものの、二、三まばたきをすればすぐに慣れる。
(……つーか……ゲーム終わりじゃねえの? 続行?)
 これまであった筈のリコからの声が無かったのでてっきりゲーム終了――つまりは狼陣営の勝ちで幕が閉じたのだとばかり思っていた。
 ゲームマスターであるリコから終了が宣言されていないということは終わっていないのだろう。
 負け戦で無くなったのは嬉しいのだが、いったい誰が襲撃に遭ってしまったのか。
 ふと円座を囲む面子をぐるりと見渡すと、お約束のように二名欠けて、残り五人になっていた。一人は処刑の決まった木吉。そしてもう一人は――。
(はああああああああああああっ?!)
 勢いのままに大声を出さなかった自分を心から褒めてやりたい。
 ぶん、と音が出る勢いで首を回した火神がドロップアウトエリアを見遣ったそこには、既知の四人である一年ベンチ組と水戸部に加え、笑顔を崩さずにこにこ顔の木吉と――先程までこの場をまとめてくれていたはずの伊月が、苦笑いを浮かべて座っていた。
 つまりこの場で最も信頼に足る真霊が欠けてしまったのである。
(え。え、ちょっと待て。狩人って伊月センパイ護ってたんじゃねえの? まさかもういねえの? ……それとも他を護ってたとか……いやいやいや、ありえねえだろ誰を護るってんだよこの場面で。占い師かもしれない日向センパイ? それはねーよ、本物が確定してる伊月センパイに対して日向センパイはまだ本物か確定してないんだぜ。っつーことはやっぱ狩人はもういなくって、あっちの誰かってことか。って、決めつけんのはまだ早いか?)
 混乱の極地とはまさにこのことを言うのかもしれない。
 降旗が襲撃に遭ったさっきよりも状況の把握が追いつかない火神は、ぐあーと叫びながら頭をがしがしと掻いた。
 考えすぎて頭から湯気が出て、知恵熱が出てきそうだ。
「というわけで、今回襲撃されたのは伊月君よ。ゲームは未だ続行」
「なーカントク。なんでさっきの相談時間は無言だったんだ?」
 疑問に思ったらしい日向がリコに問いを投げる。
「声をかけなかった理由? 深い意味は無いわよ。ただなんか皆、ゲームが終了しちゃうかドキドキしてるみたいだったから、教えないほうが目を開けたときの反応が楽しいかと思ってね。すぐに相談時間の声出したら、村の存続が判っちゃうでしょ?」
 ルン、と擬音が鳴りそうなくらい楽しげなリコの言葉も耳は入ってくるのだが、火神の脳内はそれどころではない。
 それほどに、伊月の襲撃が衝撃だったのだ。
「さて、今回の現状把握は……そうね、自分達でした方が面白そうよね。じゃーこのまま五日目行くわよ。はじめっ」
 ピッと軽快な笛の音が五日目を知らせるが、場に残された五人の誰も言葉を発さない。
 火神自身も黙っていて良いとは決して思わないし、十分しか無いのだから時間を無為にしてはダメだと思うのに、上手いこと会話を始められないのだ。
 これまで伊月が先陣を切って議題を出し、まとめてくれていたありがたさを今更ながら実感する。
(あー、クソッ。狼の奴ら、何でまとめ役の伊月センパイを喰っちまうんだよ! 議論が始まんねーじゃんか)
 流石にこれは八つ当たりだと判っているので、火神は表に出さずに心の中で叫ぶ。
 狼陣営が誰を襲おうと自由なのだ。それくらいは判っている、つもりだ。
 だがこうも沈黙が続くと苛々してしまうのもまた確かで、ふとドロップアウトエリアを見るとにこにこしている木吉の隣で伊月が心配そうにこちらを見ていた。
 退場した相手にゲームの場を心配されているようでは、仇も討てないと火神はぐっと拳を握りしめる。
(ダメだダメだダメだ、サクッと切り替えていかねーと。伊月センパイがやられたのは残念すぎるけど、ゲームが続いてるってのは良いことなんだから)
 ゲームが続いている、イコールまだ自分達に勝ち目があるのだということを改めて確認した火神はふと、腕を組んだままだんまりを決め込んでいる人物へと視線を寄せた。
 同じだんまりでも、何を言えば良いのか迷っている風な自分達とは明らかに異なる、『何も言う気が無い』という雰囲気を醸し出しているのは、もう一人の占い候補である日向だった。
 思わずじっと見つめていると、自分の視線に気付いた日向にふいっと目を反らされる。
 何だよ、と火神は敬語を忘れた文句を口にしそうになったが、それより先に土田が口を開いた。
「とりあえず、日向。お前が狂人ってことであってるよな」
「俺は占い師だぜ?」
 問いかけと言うよりも確認するような土田の口調に、肩をすくめた日向がニッと笑って答えるが、土田は「違うだろ」とゆっくりと首を振った。
「決めつけてっけど、証明できるのか? 土田」
「勿論出来るさ。伊月がもう居ないから木吉の結果は確かめようが無いけど、こうして村が続いているって事が、木吉が狼であり、ここに狼はもう一人しか居ないって証明になる」
「…………」
「あ、成る程。そうでしたね」
 ぽんっと手を叩き、どうして気付かなかったんでしょうと言わんばかりの得心顔な黒子とは対照的に、火神は顔にクエスチョンマークを張り付けて首を傾げた。
「土田センパイ、どういうことっすか」
「俺もわかんね。教えてツッチー!」
「んーとな火神。小金井。それに黒子は判ってるみたいだけど聞いてくれ。先ず前提に、狼の人数が村人と同等もしくはそれ以上になったとき、村は負ける。そしてこのC国ルールでは狂人は人間としてカウントされない。五人残されているこの状況で、日向が狂人と仮定したなら、狼が未だ二人残っていないとゲームは終わっていることになるんだ」
 うんうん、と火神と小金井が同時に頷く。
「もし日向が本物の占い師ならば、人間と判定の出た木吉が処刑された時点で、狼は一人も犠牲になっていないはずなんだ。何故なら、それまでに処刑された人達は伊月が人間だったと判定しているからね。つまり木吉が狼だったからこそ、村はこうして続いている。その木吉に人間だと判定を出した日向は、狼側だ」
 きっぱり言い切った土田の瞳は真っ直ぐ日向を射貫いていた。
 ダジャレ好きな伊月にクラッチタイムの日向、笑顔の変人と名高い木吉など、色々あくの強い個性豊か過ぎる面々が集まった先輩方の中で、緩衝材のような物腰の柔らかさで優しい笑みを常に忘れない印象だった土田が、こうも強い語調で話すのを初めて聞いた気がする。
 いや、テスト前の強化合宿でも土田は結構スパルタだった気がする。その時に見せた厳しさを含んだ真面目な顔も今とさして変わらなかったかもしれないと思い直す火神である。
「あー……気付くとしたらお前か黒子だと思ってたけど、やっぱりだったな。そこまで理路整然と説明されちゃ、なんも反論出来ねえわ。でも土田。俺が狼側だって断定するとしても、狂人じゃなく狼だって可能性もあるの忘れてないか? だとしたら、俺を狂人だと思い込んで放っておくのは危険だぜ」
 まるで狼カミングアウトと自吊りを推奨するような日向の発言に火神はぎょっとする。
 けれど真面目な表情を浮かべた土田が、やはりゆっくりと首を振った。
「それもない。降旗が本物の占い師なら、あいつが既に占った結果、日向が人間だって出てる」
「チッ、覚えてたか。村の吊り手消費させてやろうと思ったのに」
「そりゃ。ちゃんとメモ取っておいたからさ」
「お前ってそーいう地道な作業得意だったな、そういえば」
 悔しそうに舌打つ日向に向かい、ニコッと目を細めてようやくいつもの笑みに戻った土田が満足そうに頷いた。
 そして状況をかみ砕いて説明してくれたことに火神は心から感謝し、普段あまり目立たないように見えるが頭の回転が速いのだなと土田を見る目を改める。もっとも強化勉強会で頭が良いのは一応知っているつもりだったが。
「つーこって、完全にバレちまったからカミングアウトすっけど。土田が説明したとおり、俺が狂人だ。悪いなー騙してて」
 いつもの仕草でかしかしと頭を掻いている日向に悪びれた様子は全くない。ひょいっと肩をすくめた仕草からは、仕事をやりきったあとの安堵のような、けれど途中でばれてしまったことの悔しさのようなものが感じられた。
「日向が偽者だったのかー。俺すっかり騙された。さっきの時点で降旗と半々くらいだったからなあ」
「さーな。コガが本物だって思ってくれんなら本物かもしんねーよ?」
「え?」
 にやりと口角を持ち上げた日向に、動揺した小金井が穴蔵から顔を出した小動物のように首をきょろきょろさせた。
(なんつーか……野うさぎかプレーリードッグみてえ)
 春先にひょこっと地中から顔を覗かせる齧歯類を重ねてしまうが、流石に年長の相手に向かって言うことではないという弁えがあったので、火神は心の中だけで呟く。
「小金井先輩、誘導されないで下さい。土田先輩の言う通りであってます」
「だな。……あー、です。つーこって、日向センパイは狂人、人狼は残り一人ってワケっす」
 自分で発した言葉の意味を火神は噛みしめる。
 残ったのは自分を含めて四人。自分が人狼で無いのは自分がよく判っている。
 つまり小金井に黒子、土田の中に人狼が確実に潜んでいるということなのだ。
「でもって今日の処刑も、確実に狼やんねーといけねーってことか。いや……おい黒子、今日もし日向センパイ処刑したらどーなんだ?」
「狩人が既に居ないこと前提ですが、狂人がいなくなって人間が喰われてマイナス二。つまり、残った三人でガチバトルです」
「……それ、メチャクチャ頭痛くなりそーだなおい」
 二対一で信用勝負など、考えるだけで頭が痛い。
 というかその状況で上手く信用を勝ち取れるか自信などない。よしんば上手く処刑を免れたとしても、信用した相手は実は狼で、仲間である村人をむざむざ処刑したという結果が待っているかも知れないのだ。
 想像するだけで胃に穴が空きそうだった。
「ですね。出来れば今日のうちに決着をつけたいところです」
 力強く頷いた黒子がぐっと拳を握りしめた。
「先輩方はどうですか。今日の処刑、日向先輩を避ける方向で良いと思いますか?」
 ん、と顔を見合わせた二人が合意するように首肯し、それぞれ「いいよ」「俺もオッケー」と返答した。
「じゃ、今日はこの四人から決めましょう」
 いつの間にやら会話の主導権を握っている黒子がそう宣言する。
 当然といえば当然なのだが、すっかり議論から蚊帳の外になってしまった日向は苦笑いを浮かべながら自分達を見ていた。
 気にする必要など無いと言ってしまえばそれまでなのだが、何となく気になってしまい、火神がチラチラと日向へ視線をやると、しっしっとまるで追い払うような仕草をされる。
「俺のことはいーから、そっちに集中しろこのダアホ」
「す、スイマセン」
 何か間違った怒られ方のような気がしなくはないが、日向言うことはもっともであり火神の為を思っての言葉なのは理解出来たので、軽く日向へ頭を下げてから火神は考えに集中しようと腕を組んだ。
 ――が、横から再びぼそりと突っ込みが入る。
「どうせ、日向先輩が議論には入れないのが気まずい、とでも思ってたんですよね」
「どうせって言うな。つか何で判んだよ」
「さっきも言ったでしょう。火神君は判りやすいんです」
「……悪かったな、ポーかフェイスとか苦手なんだよ」
「ま、それが火神君の良さでもあるんですけどね」
 ふうっと呆れたように息を吐く黒子に「悪かったな」と悪態をつくと、くすりと小さく笑われてなんだか居心地が悪い。
「日向先輩に関しては、今は仕方ありません。狼陣営だということがはっきり判った以上、下手に情報を貰うのは混乱の元です。あくまで日向先輩が狂人だったという事実だけを元に、推理を組み立てていくべきだと僕は思います」
「判ってっけどよ」
「あーもー、黒子の言う通りなんだからこれ以上時間無駄にすんじゃねーよ。この後の練習三倍にされてーか、このバ火神が」
「へっ、あ、いやそれは」
 ヤバい目が笑ってねえクラッチタイム入ってやがる――。
 だらりと嫌な汗が背中を伝うが、火神はこのゲームの後しっかり練習もあるのかと内心ホッとしていた。
 ゲームに勝とうが負けようが、練習もトレーニングも無しで解散にでもなったら自主練に行こうと思っていたのである。
 一日体を動かさないままだと、それだけで鈍ってしまいそうな気がしていたのだ。
「判ったらその皺が少ない脳に学習って意味をぶっ込んで、さっさと議論始めやがれ」
「う、ウッス」
「日向先輩もああ言ってることですし、とりあえず頑張って議論してみましょう。なんとなく、でも何かしら疑問点があったら言うのが一番かもしれませんし」
「確かにな。そういう黒子は、何かあるのか?」
 土田の問いに、一瞬「んん……」と黒子が俯いて逡巡する。
「俺としては、確白の伊月襲撃が少し引っかかってるかな……どうしてなんだろうって。いや、伊月を襲撃することの得も判るんだけど、狼陣営は随分な賭けに出たものだよな。勝ったから良いようなものの、狩人が居るか判らない以上、危険な橋じゃないか」
「僕は妥当だと思いますけどね。昨日の時点で木吉先輩を外してたら村が終わってたんですし、木吉先輩の結果を僕達に見せたくないってのは理由になりません。ただ単に、皆から確実に人間だと判っている伊月先輩を襲撃して、狼か人間か判らない灰色状態の幅を狭めたくなかったんじゃないでしょうか」
 顎に拳を当て、考え込むような黒子の言葉にうーんと喉を鳴らしてから火神は曖昧に頷く。
 狼か人間か判らない、灰色の幅。確かにそこへ狼が潜伏しているならば、選択肢を狭めるのは悪手だろう。
 四分の一と三分の一。どちらが大きいかなど数学の苦手な火神ですら判る問題である。
(でも狩人が護ってたら、護衛成功が発生するんだよな。確か黒子が言ってたよなあ、狼側にとって護衛成功は怖い物だって。……ん?)
 そこでふと、火神はあることを思いつく。
(もし狩人が生きてて、護衛が成功してたらどうなってたんだ? ここに残ってる人間が一人増えて、えーっと六人ってことだろ? だから残りの吊り数は……)
 吊り手計算をしようとして頭がこんがらがった火神は、隣の黒子へ語りかけた。
「なあおい黒子。もし残り人数が六人の場合って、今日と状況同じだったのか」
「六人って、狼を一人処刑できて、狼と狂人が一人ずつ残っている状況の六人ですか?」
「おう」
「ええっと……進行が5>3の奇数から6>4>2の偶数になります。その場合、もし今日狼を吊れないで狂人が残っても、明日が必ず来ます」
「つーことは、狼にとって不利ってことだよな」
「はい。吊り手が増えるわけですから」
 多分、と付け加える黒子も若干自信がないらしい。経験者である降旗ならばこれで合っているかさくっと教えてくれるだろうが、残念ながら彼はドロップエリアに居る。
 ぐぬう、と火神は恨めしげにドロップエリアを一瞥してから思考にダイブした。
(つまり、相当な賭だったってのは確かなのか。もしくは狩人がもう居ないって確信があったか。すげーな狼)
 それを踏まえて、伊月襲撃の理由を考えるとやはり、護衛成功の危険性を真霊食いの美味さが上回ったということになる。
「これ、もしかしたら言っちゃ不味いかもしれないんすけど、いいっすか」
 視線を彷徨わせながら発言した火神に、四人が注目する。
 それぞれ頷いたり「どうぞ」と促されたりと同意を得られたのを確認してから火神は一つ呼吸をし、口を開いた。
「狩人って、本当にもういないんすかね」
「……いないから、伊月は襲撃されたんじゃ無いのか?」
 首を傾げた土田に、火神は頬を掻きながら答えた。
「俺実は、ぶっちゃけ小金井センパイが狩人だと思ってたんです」
「あ、僕もです」
「……お前もかよ、黒子」
「奇偶ですね。あ、続きどうぞ」
「あー……えっと、最初からずっと狩人がどーのって気にしてたじゃないすか」
「お、おう。だって大事な役職護って貰いたくて必死だったからなー」
「その気持ちは判るっす。でも、そう思わせることで狼らしさを消してたって風にも……思えるんすよね」
「えええっ?」
「や、跳び箱の隅を突くみたいで悪いんすけど」
「火神君、重箱です」
「うっせーよ! あー、えっと。土田センパイはどっちかっていうと無難であんま疑いようが無くって。黒子はとんがった意見が多くて、狼ならもっと隠れて大人しいんじゃねって思うんで、残ったこんなかで一番不可解かもって思うのが……小金井センパイでした」
「や、え、火神。俺、狼と違うよ!」
「さっきの伊月センパイじゃねーっすけど、あと勘で木吉センパイに投票した俺が言ってもあんま説得力ないっすけど……感情じゃなくって言葉で説得してくれ、ださい」
「言葉でっても。ほんと、狩人の仕事が楽しそうだったから一番気になってただけなんだよなー。他のことも考えてたけど、皆言われちゃってたから発言してなかっただけで、判らないこと優先に聞いてただけで、俺は違うよ?」
 困ったように両手で頬を抱えながら言葉を探している小金井を見ていると、なんだか小動物を苛めているみたいで、火神は罪悪感が沸いてきてしまう。
 疑われていることに焦りつつもしゅんと落ち込んでいるのが判る小金井の瞳は、本気で違のだと自分に訴えているように見えて、思わず前言撤回をしたくなった火神はそれを意思の力で踏ん張り止めた。
 説得ゲームなのだから、情に流されてはいけない。
 いけないのは、重々わかっているのだが。
(さっきの伊月センパイもこんな気持ちだったんかな。いや、伊月センパイは当たってたから良いけど、俺これで小金井センパイが無実だったらマジどーすんだ)
 うむむむむと唸っていた小金井が、ハッと思いだしたように顔を上げ、「そーだよ!」と叫んでからびしっと火神を指さした。
「逆に言えば、この場面で決め打ってくる火神こそ怪しい気がする!」
「はい?!」
「今思えば、火神も途中で急に意見少なくなったりしてたの、俺気になってたんだよな。誰かの意見を待って、追従っての? して疑われないようにしてたんじゃって」
 そーくるか、と火神は言葉に詰まった。
 確かに小金井の弁も一理ある。実際、自分で考えていても先に発言されてしまい、「自分もそう思う」で終わらせた場面は幾つもあった。それを突っ込まれれば、火神は反論の術を持たない。
 あくまで決定的な言葉や状況が根拠なのではなく、お互い印象論で疑っているに過ぎないのだから。
「や、それは……その、考えてることを先に言われちまって。だから同意しただけで、意見がなかったっつーわけじゃないし。……ですし」
「んじゃ俺だって同じだし!」
 水掛け論だ、と火神は思う。
 もっと時間がたっぷりあって、言葉が記録されるという掲示板形式の人狼ゲームならば言葉の一つ一つを精査する余裕もあるだろうが、生憎これは対面式だ。
 印象的な言葉や遣り取り、雰囲気で探っていくしか無いのだ。
 小金井が狼だという決定的な要素は無い。だが火神は、ならば土田と黒子から狼らしさを感じられるかと言われると、答えはノーだった。
(……いや、嘘だな。黒子に引っかかる物を感じないかっつったら、あるにはある。でもはっきりしねえ)
 土田に関しては、これまでの発言は無難であり、更に今日の議論からいけば村人だろうという印象が強い。
 けれど黒子は――意見の相違、そして思考の方向性が異なるが故に幾度か処刑投票に自分を選んだ。
 別にそれがどうというわけではないのだが、人狼ゲーム初心者でありながら、視野を広く多角的な物の見方をしている意見は、それが『出来るから』なのではないかという気もしてくる。
 狼は村人の知り得ない、陣営の内訳という答えを知っている。
 観察眼に優れた黒子の性格を鑑みればおかしいことは無いのだが、狼の立場に立って考えられるというのは、狼だからこそなのではという疑念もあるのだ。
「俺はコガが狼には見えないんだよな」
「ツッチー!」
「いやそこで目潤ませるなって。だからって、俺には火神が狼にも見えない」
「……それって、僕なら見えるって言ってますか?」
「うーん、悪いな黒子。実はそうなんだ」
 目を細めた笑顔を崩さないまま、土田は黒子に向かって頷いた。
「これっていう状況証拠もなにもないんだけどな。さっき、伊月の襲撃理由の話、してただろ?」
「はい」
「それがなんとなく、狼側からの視点に聞こえたんだ。伊月のこと、皆からは確実に人間だと判ってる、って。もの凄く些細なことだけど、それって黒子自身は含まれてないような言い方だよな、そこでいう『皆』っていうのは村側の筈なのにって。うん、それだけだ」
「一応、多角的に見てるつもりですから。第三者っぽく聞こえても仕方ないかもしれませんね」
「うん、そうかもしれない。ここまでの黒子はそうやってたからな。ただ、小金井と火神に比べたとき、疑う要素にはなるって位だ」
 バチっと二人の間に火花が散ったように見えたのは、火神の気のせいでは無いだろう。
 どちらが正しいか、火神には判別出来ない。黒子のスタイルは一貫していると言ってしまえばそれまでだし、土田の気になる点も判らなくは無いからだ。
「さーてそろそろ時間だけど、投票に入っていいかしら?」
 ストップウォッチを手にしたリコが、五人をぐるりと見渡した。
 もうそんな時間なのかと火神は内心舌打つ。初めの沈黙していた時間を取り戻せるなら取り戻したい。
 これ以上議論して何が判るかと言われると水掛け論の続きにしかならないかもしれないが、もう少し時間があれば何か判るかもしれないという気持ちは嫌が追うにも火神を焦らせる。
 セメントのようにドロドロと流れの悪くなった思考を火神が抱えていると、「すみません」と黒子が声をあげる。
「提案なんですけど、今日は最初みたいに自由投票にしませんか」
「自由投票?」
「はい」
 こくん、と黒子が頷く。
「このままじゃ、誰も決定打が無いように見えるんです。それは僕も同じなんですけど。この状況で昨日みたいに票をまとめるのって難しくありませんか?」
「……うーん。確かに」
 困っているのを隠しもせず、眉を八の字にした小金井が黒子に頷いた。
「うん、俺も賛成。自由投票でいっぺんに決めるなら、狂人に票操作される心配も無いしな。やー、俺も言おうと思ってた案なんだけど、黒子から言い出されると俺、投票先揺らいじゃうなあ」
「どうぞ揺らいじゃって下さい、土田先輩」
 何こいつら怖い――誠凛バスケ部の中でも大人しい気性であるはずの二人が浮かべる笑顔の応酬に、どこか薄ら寒いものを感じる。
 いや、大人しいとは言っても黒子は案外手が早い方だが。
 そう思ったのは火神だけでは無かったらしく、意外なものを見る目をしているリコを筆頭に、ドロップアウトエリアの面々も二人の様子に驚いているようだ。
 ただその中でも降旗だけが、どこかわくわくした顔つきをしていた。初心者ばかりが集まっているのでそんな場面は殆どないが、先程の木吉と伊月のように、きっと本来の人狼ゲームというのはこういった議論の殴り合いが醍醐味なのだろう。
「じゃーいくわよー。一応シンキングタイムとるからね」
 空気をぴりっと引き締めるようにリコが宣言し、ピッと笛の音が響き渡る。
 ふうっと深く息を吐いた火神は、腕を組んで俯く。
(やっぱ俺は、初志貫徹……か)
 狩人じゃないかと思っていた小金井が残っているのにも関わらず、真霊が襲撃された。この引っかかりをそのままにしておくのは、やはり出来ない。
 狂人である日向はいったい誰に投票するのだろうと思った矢先、ふと今更気になったのが、何故日向は木吉を占い対象にしたのかということだ。
 狼ならば占い対象に挙がること自体、避けて通りたいはず。狂人が狼と相談できるこの村のルールでは、事前にその辺りを打ち合わせられたはずなのだ。
 もしも日向が木吉を占ったと言わなければ、もしかしたら今も狼は二人いたかもしれない。
 ならば、いったい何故なのだろう。
(……もしかして、突発でつい口から出ちまっただけとか? あれ、占い師のカミングアウトってどんな流れだったっけか)
 一時間も経っていないはずなのだが、時の流れが濃密で上手く思い出せない。
(えーと、確か三日目だよな。言い出したのは土田センパイで、日向センパイはそれに賛成した……んだっけ?)
 そこまで考えて、火神は頑なに役職潜伏派だった人物に思い至る。
(――黒子)
 たった一人、あの場面で潜伏派だったのは黒子だ。他の全員が占い師に出てきて欲しいと言っている中、能力者の保護を重視していると発言し、それは最初からずっと言っていた。
 狼ならば普通、能力者は早く出てきて欲しいはず。
 だから黒子が狼の筈はない。それ自体には怪しむべき箇所は無い。
(……本当にそうか?)
 対して、狼陣営でフルオープンを主張していた木吉。黒子とはどこまでも主張が真逆だった。相談している仲間同士とは思えなかった。
 だが――彼がフルオープンを希望することで、黒子はあくまで仲間では無いという印象を残そうとしているのだとしたら。
(でも、狩人の件はどーすんだ。そっちも引っかかってるんだぞ!)
 どちらも推論の域を出ない。決定的な確信を持てないのだ。
 これで実は土田が狼でした、なんて結果だとしたら火神は確実に脱力する自信がある。そしてその可能性もゼロでは無いのがこのゲームの怖いところだった。
「はーいそこまで!」
 部屋に響いたリコの無情な声に思考を強引に断ち切られ、火神は顔を上げた。
 未だ結論は、出ていない。
 ぐっと握った掌からじんわりと汗が滲んだ。
「じゃ、いっせーので投票相手を指して頂戴。いくわよー、いっせーのーせ!」
(もうどうにでもなれ!)
 最後に火神が頼ったのはやはり勘で――思考を放棄して目を瞑り、一番怪しいと感じた奴を指してしまえと脳が体に命令する。
「えーっと集計するわね。っても五人だとあっという間ねえ……あら、意外。一番多かったのは黒子君ね。完璧に割れてるわね−、票。投票したのは小金井君と土田君、火神君。で、黒子君と日向君が小金井君に投票、と。投票理由も聞いていく?」
 散々迷った挙げ句、火神が指したのは黒子だった。
 しかもおそらくそれで黒子の処刑が決まってしまったことに、火神の胸中に動揺が走っていた。
 隣から視線が送られているのを感じるが、見返す事が出来ない。
「じゃ、順番に言ってって。小金井君から」
「俺はー、火神にしようと思ったんだけどツッチーが俺のこと信じてくれたからさ。その信じたツッチーが言ったことが、なんか説得力あったから。他力本願だけどさ」
「土田君は?」
「俺はさっき言ったので全部だよ。あとこれは結果論になるけど、同時とはいえ日向と投票先が被ってるのが黒子だけってのは意味ありげだなと思う」
「じゃー、火神君」
 順番に呼ばれているので声が掛かるのは判っていたが、心臓がどきりと大きく跳ねたのがわかるくらい、火神は未だ動揺していた。
 だが理由はきちんとある。それは、しっかり発言しなければならない。
「あー、えっと俺も小金井センパイと迷ったっす。ただ、土田センパイの言ってたことも気になって。そんで、考えたんすけど木吉センパイとことごとく逆の主張してたのって、黒子だよなあって。占い師のカミングアウトんときも、黒子一人が潜伏希望だったんすよね。あれすっげー印象に残ってて、能力者保護だから狼じゃ無いって思ってたけど、能力者を出したいって主張する役目は木吉センパイで、黒子は最初っから疑われないようにそう言ってたのかなって思ったら、小金井センパイよか黒子のが疑っちまったっていうか」
 つらつらと語ってしまったのは、隣に居る相棒への言い訳のような気がしてならない火神である。
 ふうっとため息が隣から聞こえ、それがまるで「もういいですよ」と言っているように火神には聞こえた。
「成る程ねー。日向君は、まあおいといて」
「おいとくのかよ! なんか寂しいじゃんかよ! 聞けよ!」
「だって狂人ってばれてるのに聞いても意味ないでしょーが」
 日向からの抗議をあっさりいなしたリコが黒子に向く。
 がっくり肩を落とした日向から哀愁が漂っているように見えるのは、火神の気のせいでは無い。
「黒子君は、小金井君にした理由ってある? あと、遺言があるならそれも一緒にね」
「小金井先輩を選んだのは消去法です。対話させて貰った土田先輩は意見の相違がある物の村側だなと思いましたし、火神君と小金井先輩を比べたとき、小金井先輩のほうが意見が薄いと感じたので。まさか狂人の日向先輩と投票先が被るとは思いもしませんでした。遺言は……そうですね、なんにせよこれでゲームが終わってしまうのがなんとなく寂しいです、とだけ」
「あら、感傷的ね。大丈夫よ、またもう一戦やるから」
 後半のくだりで寂しげな口調だった黒子の言葉に対し、あっけらかんと返したリコの発した内容を把握した瞬間、ドロップアウトエリアを含めた面々から「ええええええ」「マジか」「もっかいやんの?!」と驚きの声が上がる。
 それらの声音は『第二戦を歓迎していなくはないのだが、流石に連続はちょっと……』という気持ちが如実に表れていて、火神も同様の気持ちであった。
 負けていたらそれは悔しくてもう一戦やりたいと思う。それはもう思う。スポーツをやっている人間は基本的に負けず嫌いが揃っているのだ、負けてそのままは誰もがイヤだろう。
 が、正直このまま連続というのは勘弁して欲しいというのは、全員が同じ気持ちだった。
 ただでさえ普段使わない頭をフル回転させたのだから、せめて体を思いっきり動かして気分をすっきりさせたいのだ。
「やあねえ、心配しなくても今日じゃないわよ。頭を動かしたぶん、この後はしっかりトレーニングして貰いますからね。但し、キセキの世代が集まるっていう日の前に、必ず一回はやるわよ!」
 ぐっと拳を握ったリコを見て、改めて火神は今回の趣旨を思いだした。
 ――さっき黒子に突っ込まれたばかりなのだが、またも趣旨を忘れていたのは絶対内緒である。
 ざわめく周囲を黙らせるようにコホンとリコが咳払いをすると、一同の口が緊張で引き結ばれる。
「さーて。それじゃお待ちかね、結果発表よ」
「あれ。目瞑んないんすか」
「黒子君がどちら側でもゲームが終わるのには違いないから、今回そこは省略するわ。掲示板形式だったら、ちゃんと夜中のフェーズもあるんだけどね」
 ごくり、と火神は生唾を飲み込んだ。
 未だ隣の黒子を見ることは出来ない。
 もし同じ村の仲間なら――むざむざ処刑に送ったうえ、村が負ける方向に手を貸したことになるのだ。
 そしてもし狼であったなら――勝負には勝てるが、それまでの黒子との会話を思うとなんとも微妙な気分になる。
(あーもーなんだっつーんだこれ! いいからさっさと終われ! 終わってくれ!)
「第一回、誠凛バスケ部人狼ゲーム。勝敗の結果は――」
 水を打ったようにシンと静まり返る部屋の中、ゲームマスターであるリコが高らかに結果を宣言するのを、火神はモヤモヤする胸中を抱えながら聞いていた。
タグ:黒バス人狼
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