2012年09月02日

黒子のバスケで汝は人狼なりや?[誠凛編その5]

というわけで、表題通りですが黒バスで人狼を題材に書いてみました の第五弾です。
連作となっておりますので、お読み頂く際はお手数ですが[その1]からお願い致します。


以下、注意事項です。


・このお話は黒子のバスケの登場人物が対面式の「汝は人狼なりや?」をするお話です
・あくまでゲームをするお話ですのでシリアス要素はほぼありません
・むしろコメディ寄りです
・基本的に火神ん視点でお話が進む小説で、ログ形式ではありません

・中の人の参戦経験はC国で数度ある程度です
・F国ログも読み込んでおりますが、今回はC国仕様(狂人が囁きに参加できる)です
・役職配分は村5狼2占霊狂狩の11+1人村です
・吊り手計算が苦手なので間違ったらすみませんorz


推理の飛び交う四日目です。人数が少ない場合、早いとここでゲーム終了ですね。
果たして五日目は訪れるのか。少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。



 気のせいか、今回は目を瞑っている時間が長いような気がする――狼陣営の話し合いはジェスチャーなので時間制限が特に設けられていないからかもしれない。
 加えて霊能者に処刑された福田の判定を伝えるのと、占い師に占い結果を伝える作業もあるのだから仕方ないかと、目を閉じたまま火神はリコの声を待った。
 このままではまた眠気がやってくるのではという心配がなくなはい。
 が、火神の不安に反して頭はしっかり目が覚めていた。冴え渡っている、と言えるほど頭脳明晰でないのが残念だったが。
(……にしても、遅くねえ?)
 話し合いをしているときは十分という時間が異様に早く感じられる所為か、その分目を瞑っているこの時間がやたら長く感じられる。気配を察して狼を探そうという努力は最早捨てた。それで判っても面白くない。
 早く声が掛からないかと火神は腕を組みながら、無意識に指先で腕を突いていた。
「はーい、お待たせ。皆、目を開けて良いわよ」
 誰が聞いてもわかるほど楽しそうなリコの声に火神を含めた一同が目を開けた。
 前回のこともあって、真っ先に視線を寄せたのはドロップアウト組が座っている方向だった。
 そこに処刑された福田以外の人物が居るか、気になって当然だろう。
 案の定というか、そこに居たのは四人。前回ドロップアウトエリアに行った水戸部と河原、今回処刑対象となった福田、そして――。
「…………へ?」
 声に出すつもりは無かったのだが、思わず喉の奥から漏れた本音がぽろりと呆気なく火神の口端からこぼれ落ちた。
 困ったように微笑みながら、先程水戸部がやったように手をひらひら振りながら、もう片方の空いた手で頬をぽりぽり掻いているのは、占い師をカミングアウトしたばかりの降旗だった。
 目を瞬かせ困惑しているのは火神だけでなく、その場に居る全員が同じ感想を抱いたらしく、最もぽかんとして口をあんぐり開けたままでいるのは、同じく占い師のカミングアウトをした日向だ。
(占い師、襲撃って……おい、狩人何やってんだよ。それとも、もういねーのか?)
 ぎりっと奥歯を噛みしめて顔をしかめた火神だったが、すぐにハッとその考えを撤回して思い直す。
 本物がどちらか判らない占い師が二人に、確定した霊能者が一人。
 余程のギャンブラーでなければ、占い師のどちらかへ護衛につくのは難しい。
 おまけに昨日の二人からは、どちらが明確に怪しいというような言動があったわけではないのだ。
 自分がもしその立場だったらと想定すると、火神の疑問は案外あっという間に氷解した。
(文句言ってマジ悪い、狩人。多分俺でも伊月センパイ選んで護る)
「というわけで、今日襲撃に遭ったのは降旗君よ。彼もネタ晴らしは最後でっていうことだから、普通に観戦組に回って貰ったから。それと、伊月君」
「なに?」
「ストップウォッチを押す前に、霊結果を発表して」
「いいの?」
 こくりと首肯するリコを見てから、眉間に皺を寄せた伊月は少し弱った口調で続けた。
「福田は……人間だったよ」
 はあっと各所から深いため息が漏れ伝わる。
 勿論火神も目を閉じている間に感じた嫌な予兆が当たってしまい、同様の気分だった。
「さて、伊月君から霊結果の発表もあったことだし、四日目を始める前に、とある仮説について言及しておくわ。これは本来参加者が気付いて対策・思案するべきだし、最初に渡したプリントにも書いてあることなんだけど、今回は初めての人が殆どだし。私から状況を宣言させて貰うわね」
 仁王立ちしたリコが、最初に渡された説明書きのプリントを軽く指で弾き、残った面々をぐるりと見回す。
「一応、昨日降旗君が軽く説明してたことだけど、今残っているのは七名。この中にまだ狂人が生き残っているかいないか、その判断は皆次第だけれど、もしもいた仮定として。そのうえで今日、狼も狂人も吊れず、護衛成功もなかった場合。二人減って残りは五人」
 ここまでは良い? とリコが問い、幾人かが怪訝な顔をしつつも一同が頷いた。
「このうち狼二と狂人一、人間二になるのは判るわね? つまり狼の数は人間と同じになってしまうから、村の負けになるわ。そのつもりで今日という一日を頑張って頂戴」
「あの、すみません」
「何? 黒子君」
「狼と人間の数、同じでも村の負けでしたっけ」
 そうよ、とリコが質問を投げた黒子に向かってこくんと頷いた。
「それも、最初に渡したプリントに書いてあるわ」
 どれどれと皆がプリントを取り出して確認する。
 火神も探してみるのだが、細かなルール説明の部分は言い回しが小難しいうえに漢字が多用されていて、火神はその特徴的な眉をしかめながら該当箇所を探すが、なかなか見つからない。
 お手上げだと思った火神は、恥を忍んで隣の相棒を肘で軽く突いた。
「何ですか火神君」
「おい、なあ黒子。これのどこに書いてあんだ?」
「ここです」
 あっさりと指さされたその場所には、確かにリコの言う通りの内容が記されていた。
「あと、これは降旗君がした説明の補足にもなるしプリントにもあるけど、狂人が狼との会話に参加できるこの方式を、C国っていうのね。ここのルールでは、狂人を人間にカウントしないの。だから、例え人間である狂人が村に残っていたとしても三対二にはならず、同数になるってこと」
「あー……よく判んねえけど、狂人が残ってたら今日は確実に狼吊れってことであってるか? ……ですか」
「簡単に言えばそういうこと。じゃ、全員把握したわね。それを頭に入れてゲームを再開するわよ――それじゃ、はじめっ」
 はじめ、と言われても――内心吐いた独白は、おそらくこの場全員が同時に浮かんだ台詞だろうと火神は思う。
 気まずげな視線がゆらゆらと彷徨い、なんとなく皆が見てしまうのはやはり、残された占い師である日向だった。
「あー、お前ら気持ちは判るがあんまこっち見んな。穴が空くっての」
「……日向、すまない」
「何だよ木吉」
「俺もお前を見てたから……俺は、お前に穴を空けようとしたんじゃない。そんなつもりは無かった、判ってくれ」
「ダァホ! んな物の例えを本気にすんな! 言葉のあやだっつの!」
「でも、もし空いたら困るだろ? 服ならまだしも、躯とか」
「だから空かねえって言ってんだろがあああああ」
 真面目くさった表情を浮かべ何処までも本気な口調で心配そうな顔をしている木吉に、ぎゃんぎゃんと日向が噛みつくように叫んだ。
 日向の額に薄ら浮かんだ血管が、本気でクラッチタイムに入りかけているのではと錯覚させる。
 喧嘩というよりも悪友同士がじゃれ合っているようにも見えるので、相手は年上なのについつい微笑ましく見てしまう。
 以前そんなことを一年生同士の雑談で話題にしたら、降旗に「お前と黒子がやり合ってるときもあんなもんだよ」と笑われてしまった。
 その時は何も言い返せなかったのだが、自分はここまで黒子に過剰反応はしていないと、激昂した日向の様子を目の当たりにして、火神はうんうんと頷く。
「あー、日向。木吉。とりあえず時間も無いし、話を進めて良いか?」
 仲裁に入った伊月がいきりたつ日向の背中をまあまあと宥めるように叩き、困ったように木吉へ笑いかける。
 機嫌の悪い毛を逆立てた野良猫を宥める飼い主か、やんちゃ坊主の喧嘩を諫める保父のようだと、火神の目には見えた。
 今日の伊月はひたすら困り通しだと火神は、今日もキューティクルでサラサラヘアーな先輩に対し、お疲れ様っすと胸の内で心からの労りと賛辞を贈った。
 まとめ役の心労や如何に、としみじみ思う。
「とりあえず考えないといけないのは、まだ狂人が存在しているか。それから、狼が誰なのか。そして、降旗が襲われた理由だ。正直俺もまだ結構混乱してるから、意見がある人はどんどん言ってくれ」
「考えか。さしあたって降旗が襲われた理由だけど、そりゃ降旗が本物だからなんじゃないのか? 狼達からは本物がどっちか判ってたんだし」
「だよな。仲間を喰って本物残すってことはないよなー。日向が偽者なんじゃないの?」
 土田と小金井の会話を聞いて、黒子がゆっくり首を横に振った。
「普通に考えれば、お二人の意見になると思います。ただ、実際はわかりません。可能性は低いですが、勘と腕が良いと狼側に思われた狩人が、本物の占い師はすでに見破られていて、どちらの本物に護衛がついてるか判らないから、今日の処は臨時措置として喰うのに安全な仲間をお弁当にしたのかもしれません。狼側にとって怖いのは、処刑もそうですが、狩人の護衛成功のはずです」
 脳内が推理モードなのか、淡々と語る黒子の横顔を見ながら、火神は発言に若干の違和感を感じていた。
 先程はするりと納得がいったはずの黒子が語った内容は、今度は何故かちくりと火神の胸に小さな棘となって刺さった。
(……それ、本当にそうか? いや、まだ狩人が健在なら考え方としちゃ間違っては居ない……のか)
 黒子の発言が意外だったのは小金井も同じだったようで、感心したように腕を組んだ。
「ほへー、そういう風にも考えられるか」
「ええ。狩人の勘が良かったら怖いでしょうから」
「まあそーだよなっ」
 うんうんと小金井が笑顔で首を縦に振った。
「それに、対抗して出ている方をあえて襲撃することで、日向先輩の占い師としての信用を落とすことにもなります。実際に、土田先輩と小金井先輩は日向先輩を偽者だと思ったわけですし。――あくまで、一つの説ですから、日向先輩が狂人という可能性は勿論捨ててませんけど」
 日向が偽ではないかと最初に訴えた土田も「確かにその可能性は捨てちゃダメだな」と納得したように頷く。
 自分には到底出来なさそうな論理展開に、火神は内心舌を巻いた。
(コイツの考え方って全方向から見てるよなあ。視野が広いっつーか。ま、そーでなきゃパス回しなんて出来ないだろうけど)
 占いの真偽をきっぱり決めつけるのは難しい。
 本物は喰われると頭から思い込んでいた火神からすれば、状況から判断して日向を偽と決め打っても良いと思っていたのだが、黒子の言うことも一理ある。
 ならば自分の勘は何を告げているかというと、どうしても木吉への違和感が拭えないままなのだ。
 先程黒子に感じた違和感はあくまで発言内容からであって、それを言ってしまえば初日から意見が分かれたり同調したりしているので、勘というには違う――気がする。
 だが木吉に対しての感覚は何か、理由の明確で無いもの。しいて表現するならば、透明な真綿で包まれ温かいにもかかわらず、正体の見えないまま生殺与奪を握られているような感覚なのだ。
 味方であったならこれほど頼りになる人物はいないと思っているが、いざ敵だったらと思うとこれほど脅威な人間はいない。
 これまでの発言内容はすっとぼけたものばかりだし、助け船を出して貰ったことはあるものの、勘と感覚でしか物を言っていないのに、三回のフェーズを経てなお何故こんなに木吉が気になるのか、火神自身にも判らなかった。
(木吉センパイを他に疑ってた人は……えっと、確か俺メモったよなあ、処刑希望相手。二日目に水戸部センパイが挙げてるだけで、他はいないと。三日目は……あーそっか、降旗の占い先に指定されたから処刑希望に挙がってないのか)
 そこで火神は首を傾げる。
(ん? 木吉センパイが降旗の占い先になった日に、降旗が襲撃された意味って、なんかあんのか?)
 ううーんと火神が獣のような唸り声をあげたそのとき、伊月が口を開いた。
「占いの真偽は、黒子が言うようにどちらも可能性があり得ると思う。ただ俺が考えたのは、狼陣営は木吉の結果を出されると困ったのかなってことだ」
 まさに今同じ事を考えていた火神はがばっと顔を上げ、伊月の真剣な表情を真っ直ぐに見た。
 少々大袈裟な反応だったかと自分でも思う。実際、こちらを見た伊月が「どうした火神」と首を傾げているし、皆も怪訝な顔をしていた。
 照れを隠すように頭を掻いてから、火神は「や、何でも無いんで続けて下さい」と伊月に手を差し出して先を促す。
「先ず、両者の真偽から推測してみるけど、占い師を名乗っていた降旗が襲撃された。これだけ見れば、本物は降旗のように感じるよな。降旗が真占と仮定すると、降旗が占って人間と出た日向は狂人。つまり、村にまだ狂人は存在していることになる。そして日向が人間だと判定し、降旗が占うはずだった木吉の結果がでない。つまり、木吉への疑いが深くなる」
 うんうん、と一同が話しについて来ているのを確認した伊月が、更に話を続ける。
 火神はというと実は少々混乱気味だったが、丁度その可能性を考えていたお陰でなんとか話しについていけていた。
「次に、日向が真占と仮定してだ。狼が仲間である降旗を喰うメリットは、日向の信用を落とすことと――同時に、木吉の信用を落とすこと。そしてここで俺達が人間である木吉を吊ってしまうと、狂人が居ない分まだ吊り手に余裕はあるが、残りから狼を探すのは非常に困難になる」
「なー伊月。なんで木吉の信用も落ちんの? 日向だけじゃないの?」
「それはコガ、日向が占った結果、木吉が人間と言われてるからさ。日向が木吉を占ったときは別に木吉を占えって指定されてたわけじゃないから、単にスケープゴートにされてる可能性もあるけどな」
「あ、なーる」
「これは日向が狂人で、今日の吊りを日向にした場合に起こる事態なんだけど、明日が狼二匹が残った状態で残り五人になる。明日俺が食われていなければ、四人の中から二人をヒットさせる、つまり可能性は二分の一。俺が食われてたら五分の二。状況は厳しいまま明日に繋がる」
 ふうっと息を吐いた伊月のサラサラな前髪の裏に、薄ら汗が滲んでいるのが見える。
「どっちの可能性もある。でも出来るだけ今日のうちに狼を吊らないとヤバいのはわかるよな。そこで、皆の意見を聞きたい。占いの真偽を含めて、今日の処刑を誰にしたいと思ってるか」
 一瞬押し黙った皆の口が、何を言おうか迷うようにもごもごと動く――が、そのどれもが声にならない。
 この状況でヘタな発言をすれば疑いを持たれ、自分が処刑される側になるのは明白だ。
 かといって意見を何も言わないのも良くないと火神は必死に考える。特筆して意見があるように見えないと言われて降旗と小金井から処刑票を貰ったのはついさっきのことなのだ。
 迷う雰囲気の中、先陣を切ったのは木吉だった。
「俺は難しい立場だけど、やっぱ人間判定をくれた占い師は信じたいなあ。ってことで、日向はとっといて他から狼探したい」
「僕も今のところは木吉先輩と同意見です。安全策は日向先輩を処刑することですが、あくまで今日一日村の寿命が伸びるだけですし。ただ、だからといって安直に木吉先輩を処刑というのもどうかなと迷ってます。木吉先輩はスケープゴートにされてる可能性が高いですし」 
「俺は、うーん。やっぱり本物が喰われたって可能性を信じる。だから今日は木吉かな、悪いけど。霊結果も出るんだから、木吉の結果を見れば日向が本物かどうか判る」
「えー。でもツッチー。木吉が人間だったら負けちゃうんだぜ?」
「そりゃそうだけど。でもコガ、日向以外の人間を処刑しても同じじゃないか? なら俺としては、今のところ一番怪しく見える木吉になるなあ」
「むー」
「俺は木吉を除いてくれるならとりあえずはってとこだ。占い師の俺から見て、確実に人間なわけだし。かといって狼の見当がついてるかっちゃ、ついてねーんだけど」
「ま、日向の立場からしたらそうなるよな。で、火神は? ずっと黙ってるけど」
「あ、俺っすか……そうすね。ぶっちゃけ言えば、根拠は特にないんであんま言ってなかったんですけど、最初っからどーも木吉センパイに違和感があって。助け船とか出して貰ったし、疑いたくないんすけど。自分の勘に従うなら木吉センパイっす」
「そういえば火神、二日目の占い先希望に木吉を挙げたときも勘って言ってたな」
 処刑先と占い先希望をメモ取った紙を眺めながら言う伊月に、火神はこくんと頷く。
「あとやっぱ、今日降旗が何で喰われたのかなって思うと、木吉センパイの占い結果、降旗に見られたくなかったんじゃねーかなって。木吉センパイが狼ってんなら、納得なんです」
「成る程、皆の意見はよく判ったけど、結構意見割れてるな。このままじゃ埒があかない」
 腕を組んで瞳を伏せ、しばし思案に耽った伊月が、不意にゆっくりとまぶたを持ち上げた。
 その双眸はイーグルアイが発動しているのかと思うくらい強い意思の光が感じられ、衆目を否応なしに集める。
 自然と口内の唾液を飲み込んだ火神は、ごくりと喉を鳴動させた。
「……皆。この場は俺に預けてくれないか? ――今日の処刑は、木吉にしたい」
 驚きに目を見開いたのが小金井。一瞬理解が遅れた後に、ぽかんと口を開いた土田に、黒子が隣で息を呑む音が聞こえた。
 眉根をひそめた日向が静かに伊月へ視線を送り、火神も驚愕に口をパクパクさせた。
 たまげたのはドロップアウト組も同じようで、一年生トリオが小声で「マジか」と囁き合っているのが聞こえるし、水戸部は静かに伊月を見つめているが目をパチパチさせているし、ふと顔を上げるとゲームマスターであるリコですら目を丸くしている。
 まとめ役である伊月の発言に一同が言葉を失う中、くくっと笑みが漏れたのが聞こえ――誰の声音だったのかと視線で探すと、その主はやはり木吉からだった。
 一人目を細めて優しい表情をしている木吉が、笑みを浮かべたまま伊月に向いた。
「独断でそれはないなあ伊月。自己弁護は見苦しいし信憑性が薄いけど、負けたくないから言わせて貰う。俺を吊ったら、村が終わるよ?」
 緩やかな川の流れのように穏やかで、けれど力強さを感じる木吉の言葉に、伊月が反論も無く押し黙っている。
 傍で聞いている火神も、内心で一旦は伊月の決定に賛同したはずなのに、ついそれを撤回したくなってしまう。
 俺を吊ったら村が終わる――それは何の根拠もないたった一言なのに、無条件に心へ入ってくるのは木吉という男の人徳なのだろうか。
 違和感を覚えている相手であり、本能のどこかが危険信号を鳴らしているのに、こうして柔和そのものな木吉の言葉を聞くとやはり――根拠を挙げられていないのも手伝って、木吉が狼というのは自分の気のせいなのではという気がしてくるのだ。
(村が終わるって言われっと、なあ)
 それはとりもなおさず、自分達村人側が負けると言うことだ。
 負けたくない。ドロップアウト組をもう一度見ると、自分が投票してしまった福田と川原の姿。襲撃に遭ってしまった水戸部と降旗の姿。
 もしかしたら降旗は味方ではないかもしれないが、やはり彼らの仇を取って無事勝ってゲームを終えたいと思う。
 そんな思いもあってか、木吉の「村が終わる」という言葉は、まとめ役である伊月が決断したならそれもありかと思っていたはずの火神の心を、かなり揺さぶった。
「伊月。本当に俺が本物じゃないと思ってるのか。俺が信用できないか?」
 畳みかけるように静かな口調で語る日向に、伊月が一瞬揺らいで負けそうに見えた――が、深呼吸を一つした後に伊月が見せた瞳にはある種の決意が宿っていると火神は感じた。
「――日向。それに木吉。この場面で情に訴えてくるのは、俺にとって疑い要素になるよ。身の潔白を訴えたいなら、なにがしかの根拠をもって俺を説得してみせてくれ。この時間内に、二人が俺に信じさせてくれるだけの発言を見せてくれたなら、決定を覆すかもしれない」
 かっけえ、と素直に火神は感動した。
(この人、決断力と胆力あるんだな)
 率直に言って、伊月の判断は賭だ。
 普段の伊月は慎重を期する性格だと火神は感じている。それが多数決ではなく独断で決定を希望するなど、かなり思い切った発言だった。
 更には苦渋に違いない決断を揺さぶられるような発言を二人からされて、けれど流されずに踏ん張って、説得して見せてくれと言い切ったのだ。
 直接言われたわけでは無い火神でさえ、木吉と日向の言葉は聞いていてつい流されかけたのに、だ。
 それをはね除けて見せた発言は常日頃の伊月を思うとかなり意外であったが、そのぶん衝撃を受けるくらいに格好良かった。
「なら、逆に聞かせて貰おうかな。伊月、俺の処刑を決定づけた要素はなんだ?」
「一番は襲撃されずに残った日向からの白判定だよ、木吉。そして今日、降旗から占い結果が出るはずだったけれど、襲撃により結果が出なかった。片側占いしかされていないスケープゴートにされている可能性も、勿論考えてる。だけど――今日降旗が襲撃されたのは、お前の占い結果を出されたくなかったからだと思ってるよ」
「俺自身の問題じゃなく、状況判断か。それは、俺にとって不可抗力だから反論も説得もしようが無いなあ。しいていうなら、日向に『何で俺を占ったんだ!』っていうくらいしかない」
「……そこに関しては、悪いと思ってるよ。だから木吉がスケープゴートの可能性も捨ててないって言ってるんだ」
 弱ったような伊月の口調が尻すぼみになるのは、どちらの可能性もあると理解しているからこそだろう。
「つまり降旗との信用勝負は俺の負け、ってことか」
 それは少し違う、と伊月が日向を振り返り、緩慢に首を横に振る。
「正確には、状況が俺にそう思わせただけだよ日向。俺の目から見て降旗の印象は、発言は皆の為になってたけど、それはあくまでこの場唯一の経験者として発した助言であって、内容は狼陣営と仮定しても違和感ない。特に、役職のフルオープンを望むのは、襲撃しやすくなるということでもあるだろ。狼陣営なら、発言を疑われて吊られたとしても、狂人だから実害は少ない」
「なら俺は?」
「俺から見た日向個人の印象としては、目立たないようにしていたのは襲撃されないように上手く隠れていたとも思える。役職もフルオープンは反対してたし、おかしな動きは見えないよ。ただ、これまでの状況を整理して、結果的に日向へ疑いの天秤が傾いたっていうだけだ」
「そこまで考えてても変わらないってわけか。そりゃ、説得しろってのが無理だ、伊月。つーか、人間判定を出した相手を処刑されて勝負に負けるって、占い師としては立つ瀬ねえな」
「……そう言われると辛いな。……こんな賭け、正直言って心臓に悪い。たかがゲームって言ってしまえばおしまいだけど、人狼って思いの外、神経摩耗するよ。顔が見えるから余計かもしれないけど、人を疑うのがこんなに大変だとは思わなかった。おまけに俺の判断一つで勝敗が決まるなんて、な。次のゲームがあるとしたら、まとめ役は引き受けたくないって切実に思う」
 項垂れて弱音を吐いた伊月を見ていると、確かにまとめ役の苦悩は計り知れないと火神は思う。
 自分達は意見を出しているだけだが、最終的な決断を委ねている分、プレッシャーがそこまで酷くない。
 なんとなく場の流れで進行役を請け負い、そのまま霊能者の役職確定でまとめ役になった伊月が途中で見せた弱気に対し、火神は「センパイなら出来る」と激励を贈ったが、あれはかえって彼を追い詰めてしまっていなかっただろうか。
 皆も同様の事を思ったらしく、労るような視線が伊月に集まる中、はあっとわざとらしいため息を吐いた日向が、項垂れて猫のように丸まった伊月の背中をばしっと叩いた。
 反動で背筋をピッと伸ばした伊月がぎょっとして日向を見返している。
「ダァホ。ンなの、お前いつもやってるこったろーが。何今更言ってんだよ」
「……は?」
「試合中、いくらでもそんな判断してきたろーが。チームオフェンスの要なポイントガードにそんな弱気でいられちゃ、こっちが困るっつの。良いから自分の判断に自信持てよ、司令塔。――ああー、まあ今回のゲームに関しては、俺の立場からしたら自信持たれても困るんだけどな」
「どっちだよ、日向」
 緊張の糸が張られていたような空気から一転、笑い合った二人の空気がほんわかと和んだ。
 最近は日向と木吉が良く一緒に居る場面を見たが、やはり日向と伊月も通じ合うものがあるんだと、こんな時には再実感する。
 良い雰囲気のところすみません、と横から口を挟んだのは黒子だった。
「僕は木吉先輩の処刑に――伊月先輩の決定を支持します。先程は木吉先輩に賛同しましたけど、この場面で情に訴える形の吊り回避は、狼側の悪あがきに見えますから」
「キツイなあ黒子。俺、そんなに悪あがきに見えるか?」
「はい、すみませんが見えてしまいます」
 口では謝りつつも遠慮無く言った黒子に、木吉がはっはっはと豪快に笑い、「見えるんなら、しょーがないな」とお手上げのポーズを作った。
「んー……俺はなんか、木吉と日向の話聞いてると二人の言うことが正しい気がしてくるからこれでいーのかなって思うけど……伊月が決めるんなら従う」
「俺もちょっと自信ないけど、伊月の案に一票投じるよ」
 いくばくか迷っているようなそぶりの小金井と土田が、それでも伊月の案へ賛成の手を挙げる。
 また最後になってしまったことに多少慌てつつ、火神も「伊月センパイの考えに賛成っす」と声をあげた。
「ありがとう、皆。これで負けたらごめんな」
「それで、あと一分だけどどうする? 賛成五票だから過半数として、このまま決定でいいのかしら?」
 リコが時を刻み続けるストップウォッチを見ながら意見を求めてきた。
 残り時間の宣言が随分遅いとは思ったが、おそらくここまで話の流れを途絶えさせないようという配慮だったのだろう。
 ちらりと木吉、日向を見たリコが伊月に視線を戻す。
「ああ。決定で頼むよ」
「判ったわ。なら、今日の処刑は鉄平に決定。鉄平、何か遺言はある?」
「遺言っても、ゲーム終わっちゃうしなあ。皆お疲れ様、ってくらいじゃないか」
「さーて、んじゃ終わっちまうなら占い先の希望は聞かなくていいな」
 ううーんと日向が両腕を伸ばしてふわあと欠伸をひとつして、にこにこ笑っている木吉はいつもと全く変わりなく、二人を見ているとやはり日向が偽者には見えないし、木吉も狼には見えなかった。
(これで二人とも狼と狂人でしたっつったら、相当なタヌキだよな)
 食わせ者で案外演技達者な先輩達であって欲しいと、火神は心から願ってしまう。
 敵を討ってやると決意した筈なのに。
 福田を処刑に導いてしまったのはほんの十数分前なのに、同じ過ちを繰り返してしまうのだろうか。
 そう思うと火神の胸にいいようのないやるせなさが胸にこみ上げてくる。
 だが今更決定を覆すことなど、出来るわけもないし、なら誰を代わりに処刑するかと問われたところで何も答えられないのだ。
「黒子」
「なんですか、火神君」
「このまま負けちまったら悪い」
「珍しく弱気ですね。まだ終わらないかもしれないんですよ?」
「……そう、だけどさ」
「大丈夫です。火神君は頑張りましたよ」
「負けちまうかもしれないのにか」
「勝敗は関係ないですよ。そりゃ、勝てたらそれに越したことはありませんけど、結構頑張ってるじゃないですか。思ってた以上に奮戦してますよ。これなら、彼らのところに君を連れて行っても恥ずかしくないです」
「…………」
「どうしたんですか、きょとんとして」
「いや…………そういや、そういう話だったよな」
「まさか忘れてたんですか、本来の目的」
「あー、その…………ゲームのこと考えすぎてだな」
「前言撤回です。火神君、もうちょっとその視野狭窄を何とかしましょう」
「しやきょう? なんだそれ」
「……もう良いです」
 はあっと呆れたようにため息を吐いた黒子が、直後に響いたリコの「それじゃ全員目を瞑ってー!」という声に目を閉じてしまう。
 リコに「ほらバ火神! さっさと目閉じる!」と言われ、慌てて火神が目を閉じるその直前、黒子の口元に笑みが見えたのは、気のせいでは無いはずだ。
 結局何も出来なかったのではという氷塊のような感情がごろりと転がっていた火神の胸中は、黒子と少し言葉を交わしただけで温度が上昇し、冷たく重い氷塊が溶けていくような気がした。
 バスケをしていてこんな思いはしたことがない。かつて青峰と試合をして負けたときは悔しかったし自分の無力感に苛まれたりもしたが、もがくこともあがくことも忘れなかった。
 何かが出来るはずと信じて、時には足への負担を押してまで、後悔の無いよう、常に全力で挑んでいくからだ。
 けれどこと頭を使うこのゲームにおいて、何が出来たのかと自ら証明できるものも、自信も無かった。
 これで自分の陣営が負けたら――そんな不安を払拭し、自分にも何かできていたのだと、そう言って貰いたかったのだ。
(ダッセェ、俺)
 時間ギリギリになって黒子へ話しかけた理由に今更気付いてしまった火神は、今の自分の顔を黒子に見られていなくて本当に良かったと心から安堵する。
(……どーなんだ、勝敗)
 これでゲームが終わるならば、リコから何かしら宣言があるだろう。
 もしも続くならば、これまでのように狼陣営から目を開けて、彼らの相談時間があるはずだ。
 けれど今回に限って一切の声は無く、先程からただ沈黙が続いている。
 いったいどんな結末が訪れるのか――おとなしく瞳を伏せながら火神は、ゲームマスターであるリコの声をただひたすら待っていた。
タグ:黒バス人狼
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