2012年08月27日

黒子のバスケで汝は人狼なりや?[誠凛編その4]

というわけで、表題通りですが黒バスで人狼を題材に書いてみました の第四弾です。
連作となっておりますので、お読み頂く際はお手数ですが[その1]からお願い致します。


以下、注意事項です。


・このお話は黒子のバスケの登場人物が対面式の「汝は人狼なりや?」をするお話です
・あくまでゲームをするお話ですのでシリアス要素はほぼありません
・むしろコメディ寄りです
・基本的に火神ん視点でお話が進む小説で、ログ形式ではありません

・中の人の参戦経験はC国で数度ある程度です
・F国ログも読み込んでおりますが、今回はC国仕様(狂人が囁きに参加できる)です
・役職配分は村5狼2占霊狂狩の11+1人村です
・吊り手計算が苦手なので間違ったらすみませんorz


状況の動く三日目。ここは実際のゲームでも結構ターニングポイントだったりしますよね、少人数だと特に。村でも狼でも初手吊りは避けたいと毎回思います……。

まだまだ続きますのでゆっくり続きを書いていければと思っています。

「はい、いいわよ全員目を開けてー」
 耳へ届いたカントクの声に、火神はゆっくりまぶたを開いた。
 流石に二連続で欠伸をしたら注意が飛んでくると思っていたので、今回は少ししか眠くならずに済んだとホッと胸をなで下ろす。
 処刑されてしまった河原に、お前の分まで頑張るからなとドロップアウト者のいるスペースをちらりと見ると、そこに居るのは何故か河原一人では無かった。
 二人並んで体育座りをしながらこちらを見ている。どういうことだと火神がじっと二人と見ているうちにふと水戸部と目が合い、まるで頑張れと応援しているような笑顔で、ひらひら手を振られてしまう。
 無口で長身でいぶし銀な先輩が見せた、意外と似合っている可愛い仕草に、いったいどう返したものかと火神は反応に困った。
 とりあえず、軽く頭を下げて会釈を返してみる。
「ねーカントク、何で河原だけじゃなくって水戸部もそっちいんの?」
 首をちょこんと傾けた小金井が挙手してリコに問いかけた。
 火神も聞きたかったその問いは、全員が同じように思っていたらしく、じっと皆の視線が集中したところでおもむろに咳払いをしたリコが「それはね」と神妙な面持ちで頷く。
「今日襲撃されたのは水戸部君ってわけ。だから今日の脱落者は二名よ」
 えっ、と申し合わせたように全員が驚きの声をあげた。
 確かに今日から襲撃が始まるのは判っていたが、やはり実際にドロップアウト者が出るのを見て驚きを隠せない。
 そもそも何故水戸部が襲撃されたのか、火神には理由が全く想像出来なかった。
「ということで、狼側からの襲撃を受けた水戸部君は、狩人の護衛もついていなかったので狼に食べられてしまいました。そして河原君は処刑されました。現在、残っているのは九名。状況確認、良いわね?」
 良いわね、と言われても火神は未だ軽く混乱している。目を瞑る直前の会話が処刑と占いのことばかりだったので、襲撃のことは頭からすこーんと抜けていたのだ。
「水戸部ー! 敵は討ってやるからなー!」
「小金井先輩、俺は?」
「うん、河原の分もついでに!」
「俺はついでですか」
 がくんと肩を落とした河原の頭を水戸部が優しく撫でているのを見ながら、火神は頭を抱えた。
(マジ、なんで水戸部センパイが襲われたんだ?)
 うううううんと唸る火神を余所に、「さー、存分に悩みなさい」と楽しげに笑ってからリコが「三日目いくわよー、開始!」とストップウォッチのボタンをかちりと押した。
「んじゃ、三日目は確認しなきゃいけないこと沢山あるからさくさくいこう。まず最初――占い師と霊能者は、昨日と同じく狼を見つけてた場合だけ名乗りを挙げて、見つけてない場合はとりあえず反応しない、でいいかな」
 先程、二日目で十分という時間が短かったのを痛感したのか、伊月が手早く質問に入る。
「なー伊月」
「ん? 何コガ」
「占い師は狼見つけるまで隠れてた方が良いのは判るんだけどさ。霊能者はもう出てもいいんじゃないの? 霊能者って、河原が人間だったか判ってるんだよな、確か」
「あ、うん」
「ならさ、推理の情報欲しいし。狩人も護る人決まるし」
 ふむ、と伊月が小金井に頷き、それから全員の顔を見る。
 視線がどうだろうと問いかけているのは判るが、たった今襲撃に因る犠牲者を出したばかりで、皆悩んでいるようだった。
「俺、出て良いと思います」
 沈黙を破ってそう言った声の主――降旗に、全員の視線が集まる。
「人狼ゲームってセオリーが色々あるんだけど、初めてやる人がいっぱい居るとこでは逆に邪魔になりかねないんですよね。だから、さくっと河原がどっちだったか判った方が吊り手計算も楽になると思うんです」
「降旗君。横から口を挟んですみませんが、吊り手計算って何ですか?」
「あ、悪い黒子。これ人狼の専門用語っていうか……えっと……簡単に言えば、村が全滅するまで後何回吊りが、処刑回数が残ってるかっていう計算のことなんだよ。例えばさ、今って残ってるの九人だろ? グッジョブが……あ、これ護衛成功のことな。それが出なければ、毎日二人ずつ減っていくだろ?」
 こくん、と黒子が頷く。聞きながら情報を処理し理解しているようだが、これが出来てどうして成績が並みなんだろうと、つくづく面白い奴だよなあと火神は相棒の横顔をじっと見つめた。
(毎日二人ずつ減る……あ、処刑と襲撃でってことか)
 つまりこの三日目が終わって四日目を迎えたとき、人数は七人に減るということだ。
 もし狩人が襲撃先を上手く護衛できたなら六人になるか、と火神は指を折る。
「で、人狼ゲームってのは狼陣営のが村人より多くなった時点で村は負ける。三人いる狼陣営が一人も減らなかった場合を仮定して、村が負けるのは最速で三対二で総人数が五人になったとき。そうならないように、残り人数が五人になる前に、確実に一人は処刑しないと不味いんだよ」
「ふむ」
「もし今日霊能者に出て貰って、処刑された河原が狼と人間どちらだったのか俺達に判れば、村には余裕があとどれくらいあるか判るって寸法さ。今のトコ、河原が人間だったとしたら、今日と明日のうちに狼陣営を吊らないと村が負ける。狼だったら一日余裕が出来る。この情報って、大きいだろ? だからはっきりさせる為に、霊能者に出て貰って河原の結果を聞きたいんだ」
「よく判りました。やっぱり経験者の意見は大きいですね」
 丁寧な降旗の説明を聞いて、周りからは何となく納得したらしい空気が流れているが、傍で聞いていた火神はまだ説明を理解するのに頭をフル回転の真っ最中だった。
 とりあえず役職をオープンにすること自体は賛成派だったので、特に口を挟まず成り行きを見守ることにする。
「霊能者は出るってことでいいのかな。――なら、言わせて貰う。俺は霊能者だよ。河原の結果は、残念ながら人間だった」
 静かな口調で伊月がそう宣言する。
 少しばかりの沈黙があり、他に名乗り出る者は居なかった。
 言葉通りホッと息を吐いて胸をなで下ろした伊月が「対抗はいないみたいだな」と安心したように微笑んだ。
(伊月センパイが霊能者。ってことは、村人なんだよな。狼の騙りもいないし、決まりってことか)
「確定ですね」
 これまた晴れやかな顔をした降旗が頷く。
「降旗、お前何でそんな嬉しそうなんだ?」
「そりゃ、能力者の確定はやっぱ安心するからさ。黒子や皆は納得してくれたけど、実際霊能者のカミングアウトを勧めたの俺だし。ここで対抗がきて、かえって村が混乱したら戦犯ものだったから、実は内心ひやひやしてた。賭けに勝てて良かったよ」
 ぺろっと悪戯っぽく舌を出す降旗の表情に、火神は意外なギャンブル性を見た気がした。
 一年生の中でも比較的落ち着いていながらも、好きな人が居てその子に振り向いて貰うためにバスケを始めたと例の入部恒例行事で言い切った。
 そんな降旗の印象は、男子高校生らしいノリの健全なチャラさを持ちながらも、ベンチ入りメンバーとしてテーピングの技術をカントクから習ったり、合宿の為に水戸部から料理を習ったりと、なんだかんだ真面目なムードメーカー――だったのだが。
(俺も教えたことあったよなあ、料理。だから真面目っつー印象のが強かったけど、意外と駆け引きとか平気でやってのけそーだな。そういやポジションもポイントガードだし、そりゃ頭回んなきゃ務まんねーか)
「ん? 河原の結果しか判らないんですか? 水戸部先輩の結果は?」
 怪訝そうに首を傾げた福田が挙手して伊月へ問いかける。
 それに対し、またも横から答えたのは降旗である。
 経験者だと解説大変だよなあと、火神は他人事のように感心した。
「あのな福田、狼は狼を食えないんだよ。だから、水戸部先輩が狂人の可能性はあるけど、狼ってことは絶対にないんだ」
「共食いできないってわけか」
「そーゆーこと。ま、狂人を食ってたらその場合は共食いって言っても良いかもしれないけど、この場面で狂人を食っても仲間を減らすだけだし、多分ない思う」
 考えているうちにまた新しい情報が入ってきて一瞬混乱した火神だったが、降旗と福田の会話から得た情報を加えて脳内を整理する。
 ――この三十分で、半年分以上の勉強をした気になっているのだが、言うとお小言の集中砲火になるのは目に見えているので大人しく黙って考えを進めた。
(えーと。伊月センパイが霊能者なのは確定で、その伊月センパイが言ってるから、河原も人間。降旗の説が正しいなら水戸部センパイも人間で。喰われた水戸部センパイはともかく、処刑された河原が狂人かどうかってのはまだ判らねえ。で、村にはまだ狼が二匹まるまる残ってる、か)
 吊り手計算とやらは、正直『計算』という単語が聞こえた途端、火神の脳は考えることを拒否していた。
 とにかく、村に余裕がどれくらい残っているかが判るらしいことだけは理解したので、一度話題に出たことだし、誰かが教えてくれるだろうと楽観視することに決定だ。
 ふむう、と火神は瞳を動かして全員の様子を眺めてみる。
 狼にとって、占い師より重要度が低いとはいえ、霊能者がハッキリするのは歓迎できない事態の筈だ。少なくとも火神は、自分だったら確実に焦っているだろうと思う。
 少しは慌てたり動揺したりといった感情が表に出ないだろうかと観察してみたのだが、怪しい片鱗は全く見えないのだ。
 こういう洞察力はそれなりにある方だと思っていたのだがと、火神は内心落胆した。
 もっとも、仲間であるというフィルターがかかって冷静に観察できていないことを、火神自身は気付いていない。
(……なーんか違和感あるって思った木吉センパイも、こうしてっと別に怪しくないしな)
 伊月が霊能者に確定し、疑う人間が一人減ったお陰で範囲は狭まったとはいえ、この七人の中に狼陣営がいるなど信じ難い。
(七人中三人居たら、ほぼ半分じゃねーか)
 つまり、今日狼を処刑できなかった場合、狩人が護衛しているところに狼が襲撃しにこない限り、明日は背水の陣になってしまうのだ。
 なんとかしてもう少し、処刑投票先の範囲を狭めたい。
「それじゃ、晴れて霊能者が確定したってことで、引き続きまとめをやらせて貰うよ。頼りないかもしれないけど頑張るから、改めて宜しくな。じゃ、今日どうするかなんだけど……占い師、ホントどうしようか」
「なあ伊月。俺思うんだけど、占い師にもそろそろ出て貰っていいんじゃないかな」
 困ったように目を細めて土田が挙手し、意見を述べる。
「僕は反対です。表に一人能力者が出ているのに、狩人の護衛先がブレるのはあまり歓迎できません。狼を見つけてからにして欲しいです」
 あくまで能力者は隠れている派らしく、黒子が即座に反対意見を口にした。
「俺は表に出る派かな。隠れてた方が安全とは言えねーんじゃねえの、そろそろ」
「ん。日向、どゆこと?」
「あー、だからな。河原が狂人だったか俺には判んねーけど、もし違うとしたら狼達は三人残ってんだろ。俺達は今九人だ。てことは単純計算で、占い師が今夜喰われる確率は、九分の一じゃなく六分の一なんだよ。対して、占い師は自分と伊月以外から狼を見つけ出さなきゃなんねー。こっちは七分の一だ。なら占い師に今日出て貰って、情報落とした方が良いってだけだ」
「すげー日向! 学年末テストの順位、俺よか低いとは思えないな!」
「おまっ、一言多いんだよコガ。つか勉強関係ねーし」
 身を乗り出した日向が手を伸ばし、小金井の頭を軽いノリで叩く。
 じゃれ合い始めた日向と小金井をみながら、福田が首を傾げた。
「……小金井先輩って、勉強は平均並って言ってましたよね」
「うん、いつも大体真ん中へん。あでも今回はちょっと頑張ったから、いつもより良かったんだ!」
 えへん、と腰に手を当てて胸を張る姿はなんだか子供っぽく見えて、質問した福田や自分と同い年に見えてしまう。
 たまに見せる格好良い部分もあるのだが、やはり普段の印象はあんな感じだ。これで先輩風を吹かすから余計に可愛いんだよなと火神は思う。
「その小金井先輩より下だったとか、日向センパイ、眼鏡なのに……」
「うっせーぞ福田。眼鏡が全員頭良いと思うなっていつも言ってんだろが」
「その台詞、毎回言ってるよなー日向。もういっそコンタクトにしちゃえば?」
「あのなあコガ。コンタクトにしたところで順位が上がるわけじゃねーだろが」
 すっかり雑談と化し始めている場だが、さっきの日向は言った意見は火神の中で強く残っていた。
 ゲームが始まってこれまであまり意見を聞かず印象が薄かったのだが、流石主将、決めるときは決めるらしい。
 何故なら日向の意見は、殆ど火神が思った危惧を代弁してくれたようなものだったからだ。
「あ、俺日向センパイと同じで。残りの人数考えたら、もし今日処刑を外しちまって占い師も喰われたりしたら怖いってのと、あと前から言ってる通り、情報欲しいんで」
「にしても黒子は慎重派だなあ。俺も、最初っからフルオープン……で良いんだっけ降旗。それが良いって言ってたから、今回もそれで行こう」
「あ、はい木吉先輩。フルオープンであってます。俺も、同じく意見は変えずにフルオープンで判りやすく、で。もう二回占いしてるわけだし、その結果も知りたいです」
 再び雑談から推理へと会話が移行し、バラバラと意見が出始めたのを見計らったのか、伊月が「よし」と頷く。
 火神も含め一同が一旦口をつぐみ、まとめの指針を待った。
「とりあえず決を採ってみよう。全体的に占い師に出て貰うって希望が多かったみたいだから……反対の奴、挙手してみて――あれ、誰もいない?」
「ここにいます」
 ぎょっとした皆が、声がした方向でおとなしく挙止している黒子へ視線を寄せた。
 隣に座っている火神ですらも、伊月と同じく反対者が居ないのかと一瞬思ってしまった位なのだ。伊月が見落とすのも無理はない。
「悪い黒子、見落とした」
「……構いませんけど」
 表情には殆ど表れなかったが、微妙に変化した黒子の声音と語尾に火神はピーンと反応する。
 あ、これは怒ってる――というより拗ねてやがると、火神は口を押さえて、緩む口元をぐっと引き締め、腹からこみあげてくる笑いを必死に堪えた。
 チームとしてやってきて一年、これだけ長く一緒に居れば誠凛メンバーが黒子を見失うこともだいぶ少なく無くなってきた。
 ではあるが、それでもちょっと気を抜くと見落としてしまう場面もあるのだ、こんな風に。
 久々にその気分を味わったらしい黒子が伊月に対してほんの少し見せた、駄々っ子のようにいじけた感情を垣間見て可愛く、そして面白く思うなという方が無理だろう。
 肩を上下させているのがバレたのか、隣の黒子がちろんと瞳で威嚇してくる。
「……火神君」
「なっ、何でもねえよ?」
「後で報復します」
「すんなよ! 何する気だよ! つか俺、まだ何も言ってねえし!」
「火神君の考えなんて手に取るように判りますし」
「お前がミスディレってんのが悪いんだろが」
「別に今はそんなつもりもなく、堂々と自己主張してたんですが」
 どこがだどこが、と突っ込みを返したかったが、これ以上黒子と漫才をして時間を食っては、まとめている伊月に申し訳ないと、火神は口をつぐんで肩をがっくり落とした。
「よーし。じゃ反対は黒子だけってことで、賛成者多数で占い師はカミングアウト。――黒子、ごめんな。ついでに、誰を占ってきたかも言ってくれ」 
 まとめ役である伊月の言葉に、二人から手が上がった。
(――げ。マジかよ)
 占い師だと主張する挙手をしている二人の顔を見比べ、火神は内心勘弁してくれと呻いた。
 どちらが本物か、占い師が二人出た場合は信用勝負になり、判断は村人に委ねられる――のだが。
「……まさか対抗が日向先輩とは思いませんでした」
「そりゃ俺の台詞だよ。ったく経験者相手に信用勝負とか、初心者には荷が重いっつーの。ま、負ける気はねーけど?」
 緊張気味に頬をひくつかせ困ったように対抗の日向を見る降旗に、不敵な笑みを浮かべてクラッチタイムに入ったのかと思わせる日向。
 どちらも狼には見えない。狂人にも見えない。
 降旗は頼りになる発言ばかりしてくれていたし、日向は初めの方で印象が薄かったものの、説得力があるうえに自分が同調する意見を聞いたばかりだ。
「とりあえず、二人とも一日目と二日目に誰を占ってきたか、理由付きで教えてくれるか? あ、えーと先ず挙手が早かった降旗から」
「えっと、俺は一日目に伊月先輩です。場のまとめ役だったので、此処が狼だったら誘導が怖いなと思いました。二日目は……実は、日向先輩なんですよね、これが」
「俺かよ!」
 思わず突っ込んでしまったらしい日向に、たははと困ったように降旗が頬を掻く。
「理由は、自分視点で白が出た伊月先輩に同調してる節が多く見えたので。まとめに沿って潜伏するのは狼の常套手段かなと思ったんです。まさかその日向先輩が対抗に出るとは思いもしませんでしたよ、ホント」
「成る程な。じゃ次、日向は?」
「あー。俺は一日目に水戸部。あいつが無口なのは性格だししゃーないけど、初めのうちに身の潔白出しといた方がヘタに疑うこともないと思った。二日目は木吉だ。怪しいっつか、フルオープンを推してたのは木吉らしいっちゃらしいが、このゲーム的な理由としちゃ、降旗や火神と比べると薄くてな。表に出て襲われンのもやだし、出来る限り隠れてたかった俺的としちゃ、いまいち信用がなー。ま、結果は白だったけど」
 肩をすくめた日向が説明を終えると、シンと誰も何も発言できずに場が静まり返る。
 無理もない、と火神は思う。
 この二人のうち、確実にどちらかが偽者なのだが、どちらの言っていることも間違っているように聞こえないのだ。
「……な、なあなあ。ホントにどっちかが偽者?」
「占い師は一人しか居ないからなあ……」
 小金井と土田が眉を八の字にして、困ったように顔を見合わせる。
「と、とりあえずだ。……どうしようか」
 まとめ役である伊月も混乱している様子で、誰か助け船はとキョロキョロ見回したが、誰も彼もがうんうん唸ってしまっている。
 かといって、混乱しているのは火神も同様で何も良い考えなど浮かんでこないのだ。
 というか、今日のフェーズではまともに意見を言えていない気がする。もう少し頑張りたいと思ってはいるが、二人の占い師を前にして火神の思考はすっかり空転状態に陥ってしまっていた。
「あの、伊月先輩」
「何だ福田」
「降旗がもし本物だとしたら、日向先輩は狂人ってことになるんですよね。そして、日向先輩が本物なら、降旗が狼か狂人か判らない」
「……そう、だな」
「なら、今日は日向先輩に降旗を占って貰って、降旗に木吉先輩を占って貰うのはどうでしょう。そうすれば、片っぽしか占い結果出てない人が居なくなるんじゃないですか?」
「それ良さそうだな!」
 ぽんっと手を打った小金井に、ふるふるっと首を振って反対意見を挙げたのは黒子だった。
「僕としては、占い師同士が占うのは勿体ない気がします」
「何でだ?」
 首を傾げた火神に、黒子がこんこんと説明を加える。
「狼がわざわざ表に出て占い師を騙る可能性が低いと思うからです。役割としては、普通に考えたら狂人が騙るんじゃないんですか? なので、日向先輩が本物だった場合、占いを無駄にしてしまいます。なので、気になった人を占う方が良いと思います」
「あー……なる」
 確かに、偽者の烙印を押されるかもしれない騙りに、わざわざ狼が出てくるかと言われれば、火神的にはノーだ。
 もし狂人がいなければ仕方なく出てくるかもしれないが、役目を考えればここは狂人が騙っていると考えるのがベターだろう。
 とすれば、どちらかが偽者なのは事実だとしても、結果は白が出る可能性が高いなら、わざわざ占いを消費するのも勿体ないという黒子の意見は理解出来る。
「さて、どうしたもんかな。カントク、後何分?」
「もうすぐあと四分よ」
「……よし、先ずは多数決。福田の案と黒子の案、どっちが良いか挙手だ。福田の案が良いと思う奴、手挙げてくれ」
 伊月の声に、複数の手が挙がる。
「えっと、俺と福田とコガ、土田と……あれ、降旗も?」
「俺としては、木吉先輩の結果が見たいだけってのがあります。襲撃に遭った水戸部先輩が人間だったのは判りますけど、木吉先輩がどっちかは未だ判らないし。俺視点では日向先輩はその、偽者なんで、その人が白結果出した人は気になるんです」
「そういうことか。えっと……四対五。僅差だけど福田の案でいこう。日向は降旗、降旗は木吉を占ってくれ」
「俺は降旗占っても黒子の言う通り多分白だろーなってのがあるから反対したいとこだけど、それで皆が安心するっつーなら仕方ないな」
 ぼやいて頭を掻いた日向が伊月に頷き、木吉が降旗を見て「頼んだぞ、降旗」と目尻を下げて笑う。
「意見は却下されちゃいましたが、初めて意見が合いましたね火神君」
「さっきのお前の意見が説得力あったんだよ。正直言って俺にはどっちの占い師が正しいかわかんねーし、それならちっとでも情報多い方がいーからな」
「君らしいです。でも報復は忘れませんから」
「そこは忘れとけよ!」
「あーほら火神、黒子。そろそろ時間も無いし、処刑の投票に入るから静かにな。判ってると思うけど、俺と降旗に日向、それから木吉は抜いて考えてくれ。時間はさっきと同じく三十秒で。カントク、カウントと集計宜しく」
「はいはーい。それじゃさっきと同じように、皆一斉に投票先を指さして頂戴ね。では、シンキングタイムスタート!」
 ピッ、と小気味よい笛の音が短く鳴り響く。
 さてどうしたもんか、と火神は腕を組んで悩んだ。
(つっても……日向センパイと伊月センパイ、降旗は除くから……小金井センパイと土田センパイ、木吉センパイに福田と黒子から選ぶんだろ? あ、占い対象だから木吉センパイも除外っと……って四人しかいねえ)
 狭まってくれたのは自分の希望通りなのだが、この中に二人――いや、木吉の結果次第なのでまだわからないが、確実に一人は狼が居るのだ。
 最初からの勘を信じるならば、投票したい相手は木吉になる。だがその木吉は、日向から白判定、つまり人間であると結果が出ている。
 占い師のどちらも本物に見えてしまっている火神からすれば、木吉は疑いの対象から外れる。
 だが逆に、その勘に従うと日向が偽者ということにもなるのだ。
 悩ましい問題だし木吉については未だに疑問が残っているが、今日降旗が占ってくれるのだし、その結果が出てからでも良いだろう。
(……っかんねー)
 そういえば狩人は果たして未だ残っているのだろうか――そこを考えた火神は、ドロップアウト組を見た。
 河原に並んで、にこにこと微笑んでいる水戸部の姿。もしかして、水戸部が襲われた理由は狩人だと思われたからなのでは無いだろうか。小金井が狩人ではないかと思っていたが、常にその意見に同意し頷いていた水戸部も条件は同じだ。
 もし小金井が狼で、水戸部の反応を試すためにあえて狩人の話題を振っていたとしたら。そうして水戸部が狩人だと思って襲撃したのだとしたら。
(いやいやいや、うがちすぎだっての俺)
 思えば小金井は今日も護衛先について真っ先に触れていた。今の推測が正しいなら、水戸部はもう居ないのだから、話題に触れる必要は無いだろう。
(とりあえず小金井センパイはまだ狩人の可能性あんし、パスだな。……まあ、今日も狩人狩人言ってて隠れる気ねーのかってんで信憑性薄いけど)
 残る三人のうち、黒子は考えが同じだったのが大きく、疑う余地は殆どない。能力者を出来るだけ保護していたいという一貫したスタイルも、狼には見えない。
(……福田か、土田センパイか)
 どちらも意見を言っていたが、大事なのは、どちらの意見がより狼に有利となるかだ。
 二人とも村側かもしれないが、狼だとしたら、自分達に不利になる意見は言わないはずなのだから。
 うがーっと頭をかきむしったところで、リコの笛がリミットを告げた。
(あーもうまだまとまってねえのに! も、いい。とりあえず途中まで考えてたやつでいこう)
「はーいそこまで! さーて皆、決まったかしら? 決まってないとしても決めること! いくわよー……せーのっ!」
 威勢の良いリコのかけ声に合わせ、全員が腕を上げて誰かを指し示した。
 今回は選択肢が狭まっている所為か、そんなに票はばらけていないように見える。
「えーっと、んー……僅差かしらねえ。一番多いのは、あら三票で福田君だわ。黒子君、日向君、火神君から入ってる。順に理由があったら言ってって?」
 うわ俺ですかまいったな、と福田はぽりぽり頬を掻く。
「僕は、自分と考え方が違った土田先輩と福田君で迷いました。どちらかというと占い能力の無駄遣いは控えたいと思ったので、今回の占い案を推した福田君を選びました」
「ま、俺も似たような理由だな。さっきも言ったけど、俺からしたら降旗を占う意味って薄いし。それを言い出した福田は占いを無駄にさせたい狼側なのかって、それが疑う要素だ」
「……すんません、俺も二人と殆ど同じっす。黒子の、占いの消費についての話に納得しちまったんで」
 なんだか意見の追従のみになってしまったようで居心地が悪い火神は、つい謝ってから意見を述べる。
「他の票も言っていくわ。後は全部同数で二票ずつ。先ずは、黒子君に投票したのが鉄平と福田君」
「ちょっと慎重過ぎるのが違和感でなあ。あとは、意見が違ってた中から勘だ」
「今日の時点でも占いが隠れてるって意見は、なんか……変な感じがしたんで」
「次に、小金井君に投票したのが伊月君と土田君ね」
「コガに感じてたのは、あまり自分の意見がないかなって。能力者のカミングアウトについては言ってるけど、それ以外は質問が多いんだよね。これに関しちゃ、土田もそうなんだけど」
「あははは、確かに俺も人のこと言えないけど、伊月と大体同じだよ。コガから具体的な意見ってあまり聞いてないと思って」
 えーと不満げに唇を尖らせた小金井をスルーし、リコは集計発表を続ける。
「最後に、火神君へ投票したのが小金井君と降旗君」
「自分と意見が違ってたのが黒子と火神だったんだよなー。で、黒子はバリバリ意見言ってたから、火神にした」
「火神、昨日まで結構積極的だった気がするんだけど今日になって急に失速したっていうか。大人しくなった気がして。意見言って目立つのを避けようとしてるのかなと」
 二人の意見を聞いた火神は、ぎくりと生唾を飲み込む。
 れっきとした村人である以上、後ろめたいことは何も無いのだが、二人の言い分はもっともで、ろくな意見を言えていない。混乱していた、は言い訳にならないのだと痛感した。
「じゃ、残念だけど今日は福田君にドロップアウト組へ行って貰うわ。何か遺言とかある?」
「特にないです。あ、そですね。俺も河原と同じで、最後まで楽しみたいんで答え合わせは後でってことと……伊月先輩、俺の結果宜しくお願いします」
 ぺこりと下げた福田の頭を見遣って一瞬きょとんとした目をしてから、霊結果のことだと把握したらしい伊月が「任せとけ」と笑った。
 いちいち礼儀正しい奴だなあ、と福田を見ながら火神は思う。
 一旦話を始めると長いことで有名で、会話がなかなか終わらないのは短気な自分と合わないだろうと、今まであまり福田と深く話す機会はなかったのだが、しっかり自分の意見を言う姿をみていると見る目も変わる。
 特に、今日のように自分が混乱してしまうような状況の中でも、情報を整理し意見が言えるのは素直に尊敬する。
 今度マジバに誘って、二人で話をしてみるのも悪くないかもしれない。
「はい、じゃまた全員目を瞑ってね。――はい、狼側は目を開けて――」
 閉じたまぶたの向こう側で交わされている遣り取りで、次は一体何が起こるのか火神には皆目見当がつかない。
 が、確実にゴールへ向かっているのは感じられる。
 そのゴールに佇んでいるだろう勝利の女神は果たして誰に微笑むのだろうか。
(……なんか、票を入れたのは俺なんだけど、福田の最後の物言いからして、あいつ狼じゃ無いような気がしてんだよな。マジ、違ってたら悪い……)
 まだ結果は出ていないというのに、火神の胸中はやたら罪悪感でいっぱいになってくる。
 二日目に河原へ投票し、今日の霊結果が人間だったと聞いたのも手伝って、今度も外していたらどうしようという迷いが今更のように湧き上がっていた。
(いや、こんなんじゃダメだ。報いるためには、勝たねーと)
 狼ではないのに処刑された河原の為にもぜってー勝ってやる、と火神は、本来の目的である『黒子に自分はこのゲームをやれるのだと見せてやる』をすっかり忘れ、瞳を閉じたまま両頬をぺちんと叩いて気合いを入れた。
タグ:黒バス人狼
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