2012年08月21日

黒子のバスケで汝は人狼なりや?[誠凛編その3]

というわけで、表題通りですが黒バスで人狼を題材に書いてみました の第三弾です。
[その1][その2]の続きとなっております。
続き物ですので、お読み頂く際はお手数ですが[その1]からお願い致します。


以下、注意事項です。


・このお話は黒子のバスケの登場人物が対面式の「汝は人狼なりや?」をするお話です
・あくまでゲームをするお話ですのでシリアス要素はほぼありません
・むしろコメディ寄りです
・基本的に火神ん視点でお話が進む小説で、ログ形式ではありません

・中の人の参戦経験はC国で数度ある程度です
・F国ログも読み込んでおりますが、今回はC国仕様(狂人が囁きに参加できる)です
・役職配分は村5狼2占霊狂狩の11+1人村です
・吊り手計算が苦手なので間違ったらすみませんorz


占い先に続いて処刑先も決めなければならない、ゲームが本格化する二日目です。
依然としてゲーム序盤です。
まだまだ続きますのでゆっくり続きを書いていければと思っています。





 二回目の暗闇時間を終えた一同が、リコの指示に従って目を開けた。
 先程よりも占い師とリコのやり取りが増えて幾分長めだった所為か、やはり目を開けた直後はしぱしぱと瞬かせてしまう。
 ふわあ、と眠気が連れてきた欠伸をひとつ吐き出すと、ちらりとリコから呆れた視線を送られた。
 気まずげに頭を掻いた火神だが、目を瞑っていたのに酸素不足の脳が反応しただけなので、少なくとも開始当初よりはやる気になっているのだから、見逃して欲しいと切実に思う。
 口元が緩んだリコの苦笑に、しょうがないわね、と言われたような気がして、火神はホッと胸をなで下ろした。
「はい、それじゃ二日目いくわよー。状況は、朝になったら私は狼に襲われて食べられちゃってましたってとこから。最初の犠牲者が出て、ここからがゲームの本番よ。今日からは処刑も始まるし、狩人の護衛が成功しない限り、この中の誰かが食べられてくからね」
 隣にいた黒子がこちらを向いて、手を口に当てながらこそこそと囁いてくる。
「火神君、火神君」
「何だよ。腹でも痛いのか?」
「違います。何か、あれだけ聞くとちょっと官能的ですよねと思って。狼に襲われたとか、食べられたとか」
「官能的? ……あー……おう、言われてみりゃ確かにそーかもな」
「だっ。ダァホ、お前ら何言ってんだ」
 即座に入った突っ込みに、火神は黒子と顔を見合わせて、ぽかんと日向を見遣った。
 ボソボソと声のトーンを落として黒子と二人だけで会話したつもりだったのだが、位置が近かった日向には聞こえていたらしい。
 ちなみに、国語の弱い火神は官能的という言葉が何を意味するか一瞬判らず、頭の中で検索してしまった。
(sensual――センシュアルって事で良いんだよな)
 訳に若干不安はあるものの、聞いたが最後、黒子から可哀想な目で見られることうけ合いなので黙っておく。
「え、だって思わねえ? ……ですか?」
 きょとんと首を傾げた火神は、やはり小声でリコに聞こえないよう日向に問い返した。
 狼に襲われる、というあくまで一般的に受ける言葉の印象として捉えただけのつもりで、リコがどうこうという深い意味は無かった。
 おそらくだが、黒子も読書が趣味だし、よく色んな本を読んでいるから、言い回しからそんな風に思っただけだろう。
 一般的に健全な男子高校生――にしては異性に対してかなり淡白な性質に見える黒子とはいえ、先程の発言に下心や他意があるようには感じられない。
(なんたってあの桐皇の美人マネージャーに水着で抱きつかれて平然としてるような奴だしな、こいつ)
 だが日向にとっては違ったようで、ほんのり頬を紅潮させて狼狽え、過剰な反応を見せる様子がなんだかおかしい。
 そういえば日向はリコの父親が勤めるこの相田スポーツジムと家が近所と言っていたし、詳しく聞いたことがないから推測でしかないが、もしかしたら中学が一緒というだけではなく幼馴染なのかもしれない。
 幼馴染の女の子が発した言葉に対して官能的と言われたら、そりゃあ反応もするかと火神は勝手に納得した。
「お前らな。んなこと言ってるってカントクにばれてみろ。狼に喰われる前に、俺らが死ぬっての」
「こらそこ! 何か言った?」
「いや何も!」
「言ってないです」
「っす!」
 リコの鋭い声が飛んだのに反射して日向と黒子が返したのに乗っかって、火神も慌てて頷く。
 ここでカントクであるリコの機嫌を損ねるような言動は、そのまま練習量に関わってくるので出来れば避けたいところだ。
 幸いにして、自分達の会話を単に雑談に興じているように見えたのか、そこまで気にしていなかったらしく、案外あっさりとリコからの追求は収まった。
 内心ホッとしているのは自分だけではないだろう。練習量が増えてとばっちりを食らう一同の顔も微妙な表情を浮かべていた。
 口は災いの元、被害については一蓮托生――火神はこの一年何度もリコによって思い知らされたことを改めて肝に銘じる。
「ったくもう。さっさと二日目いくわよ。始めっ!」
 仁王立ちしたリコの手によって、問答無用と言わんばかりに、かちり、とストップウォッチのボタンが押された。
「あー……えっと、とりあえず俺が継続してまとめちゃって良いかな?」
 反対の空気がないのを読み取って、了承を得られたと判断したらしい伊月が頷いた。
「じゃ先ずは占い師。あ、まだ反応はするなよ。昨夜っていうとなんか変な感じだけど、占い結果で狼を見つけてた場合だけ、発言してくれ」
 シン、と静まった場でそれぞれの視線だけが交錯する。
 なんとはなしに、火神は一同の視線を追ってしまう。
 あからさまに周囲を探るようにしている日向に、静かに目線を動かさない黒子。
 ひたすら落ち着かない様子を見せているのは小金井に福田、河原だ。
 困ったように微笑んでいるのが土田で、そんな土田に目を合わせて僅か口元を穏やかにほころばせたのが水戸部だった。
 窺うように瞳をキョロキョロさせて反応を見ている降旗は、対面式では初めてとはいえ、流石経験者といったところか。
 そして最後に、黒子とはまた違った雰囲気でどっしり構えているのが木吉だ。
(……視線から占い師を探すのは、流石に無理か)
 むしろ火神からすれば、本物の占い師がいったいどんな態度をとるか全く予想がつかないので、探るだけ無駄かもしれない。
 ただ、強いて言えば――。
(占い師がどうとかはわかんねーけど、さっきからなんか気になる人がいるンだよな)
 発言内容はむしろ自分と同調できる内容ばかりなので、こんな風に疑うのはゲームの趣旨として間違っている気はする。
 だが火神の中に潜む何か――根拠がなんなのかも判らないが、野生の感覚としか言いようのないものが訴える。
 人の良さそうな笑顔。果たしてこれが仮初めのもので、その正体は狼であったりするのだろうか。
「…………」
「どした? 火神。俺の顔になんかついてるか?」
「あ、いえ何もねえっす」
 そうか、と鷹揚に笑う木吉に火神は頭を掻いて曖昧に返した。
 先刻、自分に助け船を出してくれた相手を疑いたくはないし、実際のところものすごく疑わしいというほどでもなく、何となく気に掛かるという程度なのだが。 
(木吉センパイの何が引っかかるんだろーな。わっかんねー)
 腕を組んで先程の十分間を思いだしてみても、別に木吉一人を気にかけていたわけではないので、助け船を出して貰ったことしか印象にない。
 はた、と火神はもしかしてこれって、とあることに思い至る。
(このゲームって、印象強い何かがねーと信頼得るの難しいんじゃねえの? 逆に言えば、なんか一回悪い印象持たれたらやべえんじゃ。うわ、さっきの流れ考えたら俺もしかしなくても不味い? 黒子に話した内容で皆が納得し照れてたら良いんだけどな……)
 現に今、木吉と降旗に対して火神は無条件に近い形で疑いを持っていない。
 不思議なもので、木吉に対しては心の何処かに違和感を持っているものの、同じ意見だったという事実が心理的に疑うことを拒んでいた。
「見つけてない、みたいだな。ならこの後の議題は、占い師にこのまま隠れてて貰うかと、占いたい奴と……ああ、今日から処刑が始まるんだっけ。それも決めなきゃな」
 何気なく付け足された伊月の言葉に、空気がぴりっと引き締まる。
 喰われてしまうのは狼側の意図によるものなので純粋に『被害』なのだが、処刑となると明らかに『加害』だ。
 たかがゲームと判っているが、自分の一票で誰かがゲームからドロップアウトすると思うと気分が良い物ではない。
 もしそんなことを口にしたら考えすぎと言われるのだろうが。
「火神君」
「なんだよ黒子」
「全部が全部とは言いませんが、火神君て案外、考えてること判りやすいですよね」
「どーいう意味だ」
「火神君の性格からして、誰かを疑うのって苦手なんじゃないですか?」
 訳知り顔で言われるのは好きではないが、黒子に言われた内容は間違っていないので否定しようがない。
「……るせーよ。黙っとけっての」
「頑張って下さい。このゲームは人を疑うゲームなので」
 ポーカーフェイスと精神力鍛えるにはいいですよ、とにっこり付け加えられればぐうの音も出ない。
 不満の意を伝えるように火神はチッと舌打ちし、ふいっと黒子から顔をそらした。
「処刑の投票についてだけど、俺から提案があるんだけど良いかな」
「何だ伊月?」
 首を傾げた日向の問いに、うん、と伊月が頷いた。
「基本は多数決で決める――で良いんだよね? けどもし、それで能力者に処刑票が集まってしまった場合は、カミングアウトして処刑を回避して欲しい」
 伊月の言葉に、んー、と小金井が唸る。
「なあなあ伊月。それって占い師だけ? 狩人は?」
「個人的に、狩人は潜伏してて欲しいかな」
「何でー?」
 更に上がった小金井の問いを補足するように、ひょこっと首を前に軽く突きだした降旗が続けた。
「えーとですね小金井先輩。狩人はカミングアウトしない方が村に有利なんですよ。何でかっていうと、狩人は自分で自分を護れないから、「俺が狩人だ!」ってカミングアウトしたところで、自分の居場所を全員にばらすだけになるんです。狼からしちゃ狩人が誰か判ってラッキーってなるわけで、狩人は何も出来ずに襲われるって寸法です」
「ほへー」
「それに、狼側に『まだ狩人が居るかもしれない』って思わせることで、今後能力者が出てきたとき、簡単に襲えないように牽制出来るっていうか。ほら、もしまだ狩人が残ってたら本物の能力者に護衛ついてるかもしれないっすよね。護衛成功になるのは、狼にとっても怖いことなんですよ」
「ううううん? 後半はちょっと判んないけど……とにかく、襲われないために狩人は出てこない方が良いんだな」
「簡単に言えば、そゆことです」
 成る程なーと小金井が腕を組んでうんうん首肯する。
(……何か小金井先輩って狩人の事ばっか気にしてねえ?)
 あくまで火神の印象に残っているだけだが、思い返せばファーストフェイズ――一日目も、狩人の事を聞いていたのは大抵小金井だったような気がする。
 誰もが思う疑問ばかりだった気がするから、そこまで気にしても仕方ないかもしれない。
 が、気になるものは気になる。
 となると、小金井は狩人なのだろうか。
(でも、襲われたら不味いのに。あんなにしょっちゅう話題に出してちゃ、狙って下さいって言ってるようなモンだよなあ。俺ですら気付いたんだし)
 もしくは狩人が誰なのか気になって仕方が無い狼か、その仲間である狂人という線もあり得る。
 人の良さそうな丸っこい顔立ちは、嘘も駆け引きも無縁に見える。よく言えば人が良く、悪く言えば単純――それが火神の抱く、誠凛きってのムードメーカー、小金井に抱いているイメージだった。
 この人が実はしれっと演技をしていて、実は狼か狂人だなんて言われた日には、小金井の笑顔を素直に信じられなくなりそうだと火神はこっそり背筋を震わせた。
「降旗が全部説明してくれたけど、俺の言いたいこともそんな感じだよ、コガ」
「っつか伊月先輩、やったことないのにすごいっすね。俺、ネットの掲示板形式で初めて参加した時、そこまで頭まわりませんでしたよ。パニクっちゃって、目も当てられなかったです」
「ありがとう降旗。こういうゲームは元々嫌いじゃ無いけど、経験者に褒めて貰えるのは素直に嬉しいもんだな。……しっかし困ったな。占い師、まだ隠れてるか出てきて貰うか。皆、どうしたい? 今日からは本格的な襲撃も始まるから、万が一いきなり占い師が食べられてしまった場合、狼を見つけるのはかなり困難になる」
 眉を八の字にして本当に困った様子の伊月がこてんと首を傾けた。
(伊月センパイだから似合う仕草だな、あれって。俺がやってもキモいだけだし)
 議題とは見当違いの感想を胸に抱きつつ、火神は占い師のカミングアウトについて考える。
 隠れている間に喰われてしまうというのは、まさに一日目に火神が危惧したことであって、少しでも推理の情報を得たい側としては出てきて貰いたい。
 本物の占い師が出てくれば、狼側からも占い師の立候補があるだろう、多分。
 さっき降旗か黒子がそんなことを言っていた気がする。
(……あれ、なんで狼側から偽者が出るんだ?)
 ぐぬぬぬ、と火神は月面宙返りくらいの勢いでこめかみを押さえたまま頭をひねった。
 出来る限り状況を整理していかなければ、脳内のシナプスが伝送事故を起こして焼け焦げてしまいそうだ。
 オーバーヒートして湯気が出そうな思考を必死にこねくりまわす。
(えっとだ。偽者が占い師を名乗れば、占い結果がやりたい放題。でもそんなん本物が黙ってるわけねーよな。だから本物も名乗る。逆もそうか、本物にどんどん正しい結果出されちゃ狼もおちおち隠れてらんねーし、どんどん命があぶなくなってくから偽者を名乗る。で、占い師が二人になる。どっちを信じるか、出てきた偽者が狂人か狼か判断するは、村人の俺たち次第でって……ここまであってるよな?)
 狂人が狼達と会話できるから、狼達には二人居る占い師のうち、どちらが本物か判ってしまう。
 仲間じゃない方が本物だ。
 それに対して、狩人には本物がどちらか判らない。護るのは勘頼りになる。
 つまり――占い師が出るのは、危険極まりないのではないか。
 けれど、もし今日出てきて貰ったら。占い師が今日誰を占って結果人間だったのか、その情報は貰えるのだ。
 確実に人間だと判る仲間の存在。それほど心強い味方も居ない。何せ発言を無条件に信用できるのだ。
(あー! もうどっちが正解なんだよ!)
 果たしてどちらが寄り勝利に近いか。こればかりは、今の時点で見分けろというのはどだい無理な話だろう。
 ならば自分の最も信頼できるソース、勘に任せるしかないと火神は意を決した。
「俺っ、占い師は出ちまっても良いと思うっす」
 隣の黒子からジト目で見られているような気はするが、気にしない。
「火神君。今の状況で占い師が出てくるリスク、ちゃんと理解してますか」
「してるっつーの。考えた上で言ってんだよ。推理の情報が何もないよかいーだろ」
 憮然と答えた火神と思案顔をした黒子の会話に「まあまあ」と笑顔で割って入ってきたのは、やはりというかなんというか、またも木吉だった。
「俺も情報欲しいなあ。黒子こそずっと潜伏派っぽいけど、今日の占い師襲撃確率が低いとはいえ、ゼロじゃないのは判ってるだろう?」
「木吉先輩も、まだオープン派ですか」
「うん。俺、判りにくいのってダメなんだよな。勿論、ちゃんとリスクも承知してるぞ? だからそこは、狩人頼みだ。腕が良いといいなあ」
 はっはっはと何故か少し照れたように、けれど笑い声は豪放に木吉が笑む。
(狩人の腕に頼むって言っときながら、自分で照れてるし。――あれ、ってことは木吉センパイが狩人の可能性もあんのか。いやでも待てよ、くっそ判んねえ!)
 うーとうなり声を上げていると「木吉先輩はともかくとして」と黒子が再びこちらを向いた。
「火神君は、今夜占い師が食べられてしまう可能性が高くなるよりも、昨夜の占い結果だけでも知りたいと。占い師の延命よりも、そちらを優先すると。そういうことなんですね?」
「お、おう」
 わかりました、と黒子に神妙な口調で改めて言われると、選択をミスしたような気がしてくるから不思議だ。
 昨日と同じような選択をしただけのはずなのに、より重要な分岐ポイントになっている所為だろうか、緊張して掌にじんわりと汗を掻いてきた。
 というより、相棒である黒子に胡乱な視線を向けられるのがやはり堪えるのだ。
 意見のベクトルが異なるのだから、そこはもうどうしようもないのだが。
「じゃ、多数決を採るよ。占い師が出てくるのに賛成の人、挙手」
 未だ迷いが残っていないとは言えないが、それでも自分が決めたことだと、火神は真っ直ぐ手を挙げる。
 まとめ役である伊月の問いに対し、火神の他に挙手したのは一日目と同じく木吉、降旗。そこに何故か河原が加わった。
「……あれ、福田お前も?」
 怪訝そうに聞く火神に対し、河原は苦笑いしながら耳の後ろをポリポリと掻く。
「いや、だってさ。俺もう頭ん中パンクしそーで。不利になるかもってのは聞いたけど、それより自分がまともに考えられそうな方を選んどこうかなって」
「あ……だったら俺もそっちかなあ」
 おずおずと手を挙げたのは、やはり一年生仲間の河原だった。
「今のまんまじゃ、誰の言ってることも何か納得しちゃいそうでさ。せめて新しい情報があったらなって思う」
 やっぱそうだよなあ、と二人の不安そうな顔を見てしみじみしてしまう火神である。
 二人が自分と同じ側の意見になってくれたのが嬉しく、頬が若干緩んでしまう。
「じゃあ決を採るぞ。賛成は木吉、降旗、火神、河原、福田。んー……増えはしたけど、過半数には満たないな。……というわけで、賛成に挙手した皆には悪いけど、今日も占い師は隠れて貰おう。あ、霊能者も隠れてるで良いのか?」
「なあ伊月」
 普段から細めの目を更に細めて、遠慮深げに手を挙げた土田が提案する。
「霊能者が力を発揮できるのは処刑が発生してからなんだろう? だったら、今日の占い師みたいな感じで良いと俺は思うよ。占う先も、占い師の自由でさ」
「ツッチーナイス! うん、さっきと同じほうが判りやすいよな! って事でツッチーの意見に賛成ー。水戸部は?」
 土田の意見に同調した小金井が、悪戯好きな猫を思わせる目をくりんと輝かせた。同意するように、こくこくと水戸部が頷く。
「今日の占い先も、占い師の自由? 多数決で決めるんじゃないのか」
 心底意外そうな顔をした日向が目を瞬かせ、案を出した土田と、それに賛同した小金井と水戸部を見比べた。
 困惑したように伊月へと視線を寄せ、言葉にせずとも本当に良いのかと問いかけているのが判る。
 判断を決めかねているように眉根を寄せた伊月が腕を組む。
「難しいね。カントク、あと何分?」
「残り五分切ってるわ」
 もうそんなに経ったのかと、火神は驚きを隠せずに口を半開きでリコを観る。
 言いたいことを察してくれたらしく、リコはストップウォッチの液晶画面をこちらに向けてくれた。細かな時を刻み続けるデジタルな数字は、確かに五分を過ぎていた。
 思った以上に、体感よりも時間の進みが早い。
 リコの告げた時間を聞いて一旦目を伏せた伊月が、ふう、と迷いの色を見せる息を吐いた。
「これは俺個人の意見だけど、占い先も多数決で決めたいかな。ただ、時間がそろそろ不味い。処刑の投票もしなきゃいけないし、もしそこに能力者が居たらやり直さなきゃいけないからね」 
「あー……そっか。そうだな。んじゃ、仕方ねえか」
「っていうかさ。一応決は採ってるけど、何かさっきから俺一人で大事なとこ決めちゃってるみたいな気がしてくる」
 決まり悪げに片頬を引きつらせた伊月が全員を見渡した。
 まとめ役とはそもそもそういうものだと火神は思うが、伊月としては決定権を委ねられ過ぎるのも気になるのだろう。ましてやそれが勝敗に直接関わってくるのだから。
 あまり人の機微に聡くない火神の目から見ても、伊月は温厚な参謀タイプだ。場や意見をまとめるのは得意でも、決断を下したり場を引っ張っていくのは苦手そうに見えた。
 ぶっちゃけて言えば、思い切りの良さに欠けるというか。
 今の発言からして、火神が常から伊月に感じていたその見立ては、どうやら合っていたらしい。
「まあ、確かに伊月が最終判断下してるから気にするのも判るさ。でもな、そりゃあ伊月が狼だったら怖いけど、俺はまとめてくれて助かってるぞ?」
 皆もそうだよな、と同意を求めるよう木吉が笑いかけてきた。
 勿論、火神も木吉の意見に異を唱えるつもりは全くない。
 もし伊月が場をまとめてくれていなければぐだぐだなのは間違いないからだ。
「伊月センパイがまとめてくれてて、俺もそうだし皆もマジで助かってますから。もし今日の襲撃で伊月センパイ居なくなったらとか考えたら、誰がまとめるんスか」
「火神……」
「あー、だから、その。伊月センパイ、アンタもっと自分に自信持ってくれ……ださい」
「火神。ありがとうな」
「……ッス」
 周囲から「良いこと言うじゃん」と口々に褒められるのは良いのだが、伊月当人は何やら恥ずかしそうにしている。
 思ったことは基本的にすぐ口に出す、アメリカに居た頃はそんなの日常茶飯事だったはずなのに、相手に照れられるとどうも調子が狂う。
 とりあえず思ったことは伊月に伝わったようなので良しとしよう、と火神は自分も少々照れているのを棚にあげた。
 照れ隠しなのか、こほん、と伊月がひとつ咳払いをする。
「すまない、私事で時間を消費した。早速で悪いけど、処刑票を今のうちに集めたい。決める時間も要るだろうから、三十秒後に、せーの、で入れる相手を指さしてくれ。特に理由がある場合はそれも言っていこう」
「伊月君。カウントと、票を数えるのは私がやるわ」
「ああ。頼むよカントク」
「判った。それじゃ、処刑先のシンキングタイム、スタート!」
 いつの間に用意したのか、リコは口に咥えた笛をピッと短く吹き、それを合図に全員が一斉に考え始める。
 勿論火神も例外ではない。これまで考えてきた内容をまとめようと必死に頭を回転させた。 
(えーっと、怪しかった奴怪しかった奴……っつか、これだけで決めろとかマジ無理だっつーの。だからせめて占いの情報が欲しかったし、占い師に投票しないようにしたかったっつーのに……って待てよ。シンキングタイムが三十秒って短くねえ? 愚痴ってる暇なくねえ?)
 時間が短いと思うと余計に焦って考えが上手くまとまらない。
 それは判っているのだが、『自分と意見が違うこと』と『疑わしいこと』は火神の中でイコールでは無く、むしろちょっとした違和感のほうが気になっている。
 自分と意見が食い違っているだけで疑うなら、真っ先に思いつく候補は黒子だ。実際、何度も噛みつかれている。
 けれどそれはあくまで視点の違いを確認する、いわば相互理解のために話していたのであって、黒子が怪しいようには見えなかった。
(つーか、「もし自分が狼だったら」なんて例え、本当に狼だったらしねえよな)
 なので火神の中で、黒子はちゃんとした理由付きで最初から狼候補の論外なのだ。
 問題は、他の人――有り体に言えば木吉について、助けてくれた事実が心理的に票を入れるのを拒んでいるのと、違和感の根拠を挙げることが出来ないことなのだが、特に後者はこのゲームで致命的だった。
 ――そこまで考えた時点で、非情にも再び笛の音が短く部屋に鳴り響く。
「はい、ここまで。さて……顔色見てると決められなかった人も居るようだけど、そうなったらもう勘で答えて頂戴。案外勘って大事なのよ。決められない、なんて言わせないからね?」
 ちらりとリコが視線を送った先がどこかと火神が見てみると、案の定というか何というか一年生の未経験者組。
 お互いにどうしようと顔を見合わせているのでバレバレである。 
「それじゃいくわよ――せーのっ!」
 ええいままよ、と火神は己の勘に従い、それぞれもこの場の誰かに向かって指さした。
 十一本の腕がそれぞれあちこちを向いているという光景はなかなかシュールで、ぱっと見誰に票が一番集まっているのか判りにくい。
 いったい誰が処刑になるんだ、と火神を始め全員が心臓をどきどき鳴らしている中、リコが上から眺めながら票をまとめていく。
「結構ばらけてるわねー……んー、多いのは河原君かしら。日向君、小金井君、降旗君、土田君から入ってるわね。入れた人達、意見あるなら今挙げた順に発言宜しく」
 俺ですか、と弱々しい声を上げる河原に、リコに名前を挙げられた面々が意見を述べる。
「理由? 俺はまあ、なんつーか。占い師のカミングアウト時期で、意見を変えた一年組からランダムに選んだ」
「やー、狼っぽいのまだ見つけらんなくってさ。ワリ河原、勘だ!」
「悪いな、河原。俺も日向先輩と理由似た感じなんだけど、途中で意見がぶれて追従するのってさ、初心者もだけど、狼側にもありがちなんだ。同じような条件なのに何で福田じゃないのかってのは、河原の方が後からだったからかな」
「俺はコガと被ったな。うん、悪い河原。俺も勘だった」
 がっくりと肩を落とした河原の背中を「仕方ないって、俺達頑張ったよ」と福田が慰めるようにぽんぽんと叩く。
「一応聞くけど河原、お前は占い師か霊能者か?」
「残念ながら違います」
「そっか……なら、悪いけどこのまま決定かな」
「いえ、しょうがないですよ」
 そんじゃ俺はドロップアウトします、と力なく笑って立ち上がった河原の肩に手を乗せたのは、力づける笑みを浮かべたリコだった。
「お疲れ様、河原君。でもここからは私側に来られるから、楽しいわよー」
 へ、と言われている意味が判らない様子で、河原が首を傾げた。
「ゲームマスター側。つまり観客側になれるってこと。勿論、ネタ晴らしを最後まで待って、残った人達全員と一緒にカタルシスを得たいって言うなら、毎回きちんと目を瞑って貰うけどね?」
「あ、そういうことですか」
「そ。河原君はどっちが良い?」
「……ネタ晴らしにはすっごい心惹かれますけど、最後まで待ちます。その方が、皆と一緒にゲームできたって感じするし」
 うん、と頷いた河原を見て火神は、此奴良い奴だなホント、と呟く。
 目の前に楽しい答え合わせがあるのに、敢えて最後まで待つその理由が『自分が楽しむ』ではなく『皆と楽しみを分かち合いたい』からだというのが、河原のチームに対する姿勢が窺える。
 どうやら同じような感想を抱いたのは火神だけではないらしく、優しい笑みを浮かべるリコを筆頭に、処刑が決まったばかりだというのに、場には何処かほのぼのとした空気が流れていた。
「じゃ、河原君はこっちに。あ、うんその辺りに座ってて。――それじゃゲームに戻るけど、それぞれの投票先を言っていくから。河原君の次に票を集めてたのが、二票で鉄平よ。入れたのは、火神君と水戸部君」
 いきなり名前を呼ばれ、火神は焦る。
 ちら、と木吉を見ると何も考えていないような笑顔で自分と水戸部を交互に見て、「俺かあ」と暢気に笑う。
「えっと俺は……すんません、同じ意見多いし何度も助け船出して貰ってるんですけど……なんつーか、勘です」
「あ、水戸部も勘だってー」
 違和感については触れないでおくことにした。そもそも、違和感自体が勘のようなものなので、嘘は言っていないだろう。
 はいはーいと挙手した小金井がそう言うと、水戸部が肯定するように頷いた。
「後はそれぞれ一票よ。福田君は、降旗君ね」
「や、選べなくって何となく。あと、降旗経験者出し慣れてっけど、もしこれで狼だったら怖いなーと思って」
「鉄平は伊月君ね」
「助かってるのは確かだけど、まとめてる奴が狼だったら怖いだろ?」
「伊月君は、日向君」
「俺も勘みたいなもので根拠はないよ。ただ、日向がなんかいつもより口数少ない気がして。ボロ出さないようにしてるんじゃないかなとさ」
「黒子君は火神君ね」
 リコの言葉にぎょっとして火神は隣の黒子を見る。
 自分に向かった指は一つも無いと思っていたのに、まさか隣から票が入っていたとは夢にも思わなかったのだ。
 いつもと変わらぬ表情の薄さで、黒子がしれっと口を開く。
「すみません火神君。考え方は判ったんですけど、この状況で占い師のカミングアウトを推す人はどうしても狼に見えて」
「ちなみに、処刑投票に選ばれた河原君は、その黒子君に入れてるわ。河原君、最後に遺言を残せるけどどうする? 何かある?」
 後ろを振り返り、一メートルほど離れたところで体育座りをしている河原へ、リコが問いかける。
「特にはないです。黒子に入れたのも深い意味は無くて、同じ一年で入れやすかったってのと、初心者のわりに落ち着いてるのは仲間が居るからなのかなーって思ったくらいですから」
「判ったわ。さて、実は十分を既に超しちゃってるから、このまま狼達の相談時間と占い師の占い結果と霊結果を伝える時間入るわよ。じゃ皆、河原君も、目を瞑って。良いって言うまで目は開けないこと」
 言われるまま、全員がおとなしく瞳を伏せた。
「先ずは人狼役と狂人役、目を開けて――」
 またもやってきた暗闇の中、火神は短くも密度の濃い十分間に思いを馳せる。
 考えなければならないのは情報の整理なのだが、火神の頭を占めるのは、この一年間チームとしてやってきて、それなりに理解したつもりでいた仲間の新たな一面だった。
 特に河原について、火神の中で好感度が上がったのは間違いない。――いや、これで河原が狼側なら、それはそれで別方向の、案外食わせ者という意味での評価が上がることになるのだが。
 それでも、皆と一緒に楽しむと言った彼の言葉が色褪せるわけではない。
(……なんか、くすぐってえな)
 人を疑うゲームと言った黒子は、先程の河原の言葉はどんな風に響いたのだろうか。
 このゲームが終わったら――火神は自分を連れて行くかどうかよりも、自分へ票を入れてくれやがった相棒に、先ずは感想を聞いてみたい気がしていた。 
タグ:黒バス人狼
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