2010年09月01日

今だけでいいから(緑間×黄瀬? 帝光時代 女性向)

「なんで、黒子っちはあんな青峰っちばっかにパスするんスかねえ。オレにももっとボール回して欲しいっス」
 今まで色んな人に何度もしている質問を、今日もぶつけてしまう。
 頭では判ってるんだけど、試合の後はどうしても誰かから言ってほしくなる。
 緑間っちに聞いてしまうのは、帰り道が一緒になることが多いからってだけじゃなくって、理路せーぜんな回答をくれるから、だと思う。
 予想通り、緑間っちはゆっくりとしたため息を吐いて、オレを横目で見ながら答えてくれた。
「赤司の指示なのだからオレや黒子に言っても仕方ない。それに、黒子は影だ。影は光が強ければ強いほどその濃さを増す。オレ達も決して弱くはないが、青峰の光が一番強いのだよ」
「それは判ってるんスけどね……」
 いくら手を伸ばしても届かない、帝光のエースに相応しい憧れの存在。追いつきたくて必死で練習して、食いついていくオレを、飽きもせずちゃんと相手してくれる青峰っち。
 勿論、あの才能を認めてる。とゆーか、そもそも青峰っちのプレイ見てバスケ部はいったんだし、認めてなきゃこんなにバスケ続けてないし。
 ──けど。オレは黒子っちが大好きだから。
 だから黒子っちからのボールが欲しい。シュートの後に、黒子っちと拳を重ねたい。いいプレイをした後にほんのちょこっとだけ笑ったような顔をしてくれる黒子っちを独り占めしたい。
 でもそれは全部、とまでは言わないけどほとんど青峰っちのものだ。
 緑間っちの言うとおり、指示に従ってるだけの黒子っちに他意がないのは判ってる。ただ青峰っちが強いから、ボールを回してる。チームの為には当然だし、キャプテンの判断も間違ってないってわかってる。
「やっぱ、悔しいんスよ」
「そんなのは当然だろう。向上心なくして強くなどなれないのだよ。悔しいならそれをバネに実力で青峰を抜けばいい」
「オレが、青峰っちをー?」
 さらっと言った緑間っちの言葉を、はははっと笑ってごまかした。
 青峰っちを抜く──それは考えれば考えるほど、オレの中でそれは現実的じゃない。
 大好きな黒子っちを独り占めしたいって思うのに、青峰っちに勝てるイメージが出来ない。
 青峰っちには勝ちたいし、いつかぶっ倒したいとは思うのに、誰にも負けて欲しくない。誰にも、ってのは勿論オレにも。
 バカだなあ、と自分でも思う。
 両方成り立つのが無理な願いを抱えて、正直結構、キツくなってきてる。
 ため息をついて夜空を見上げたら、ぽっかり満月が浮かんでた。
 眩しい光を放つ満月のおかげで、周囲の星は見えにくい。強い光の前では、他の星がいくら光ったって敵わないんだろうか。
 ま、月の場合は太陽のおかげで光ってるんで青峰っちとは違うけど。
「黄瀬」
 立ち止まって空を見てたら、いつのまにか緑間っちと数歩差が出来てた。
 慌てて緑間っちに駆け寄ると、何故か緑間っちはその場で立ち止まったまま動かない。
 緑間っちが立ち止まっている理由が見えなくて、オレは「んんん?」と首を傾げた。
「どーしたんスか、緑間っち」
「知っているのだよ」
「知ってるって、何を?」
「オマエだけではない。オレ達の誰しもがあの影を求めて自分に重ねたがっている。……オレも例外ではない」
 それは緑間っちらしい遠まわしな物言いだったけど、すぐにピンときた。
 っていうか、他の皆が黒子っちのことについてライバルなのくらいオレだって薄々気づいてはいたけど、改めてこう宣言されると、結構衝撃だ。
 月明かりの下、緑間っちの真剣な表情が浮かび上がる。
「……ライバル宣言とか、余裕っスね」
「オマエは余裕がないようだがな」
「そんなもん、あるなら愚痴ってないっスよ。試合中ラブラブな青峰っちと黒子っちを見てても冷静でいられる緑間っちが羨ましいっス」
 本当に余裕げな緑間っちにちょこっとイラっとしたオレは自嘲気味に吐き捨て、地面に視線を落とした。
 試合の後はいつもそうだけど、今日は特にひどい。帰り道一緒になりやすくて愚痴に付き合わされる緑間っちには悪いと思ってるけど、だからって感情を簡単に整理できるほど大人じゃない。
 ましてや黒子っちのことを指摘された今は、尚のこと。
 どんな表情をすればいいのか迷って顔を上げられずにいたオレは、緑間っちがいつの間にか目の前に立っているのに気づかなかった。
 足元に向けていた視線をゆっくりと緑間っちの顔まであげる。
 テーピングを巻いた指先で眼鏡の位置を直している、ちょっと怒ったような顔の緑間っちがいた。
「……緑間っち?」
「いいから黙って瞳を閉じろ」  
 流石にさっきの発言は怒らせたかもと思ったオレがおとなしく瞳を閉じると、不意に顎を軽く持ち上げられた。
 そのまま唇がさらっとして柔らかい何かに覆われる感触がして、何が起きたのか判らないまま硬直していると、ざらっとした温かいものに唇をこじ開けられる。
 キスなんだって理解したときには、緑間っちに口内を蹂躙されていた。
「……っ……」
 吐息が漏れる。
 どうしてか、いやな感じはしない。
 オレが好きなのはあくまで黒子っちだし、緑間っちもそうだって聞かされた直後だし、自分がリードするならともかく緑間っちからキスされるなんて想定外なのに、オレの心は不思議と凪いでいた。
 前置きもないし不器用だし強引極まりないけど、これが緑間っちなりの慰めなんだって判ったら、なんだか今だけは全部を預けたい気分になって、オレは緑間っちの背中に腕を回してた。
 暫く舌を絡めあって──ていうか緑間っちなんでこんなキス上手いんスか──互いになんとなく唇を離した。
 キスをする前となんら変わらない緑間っちの、少し怒ったような顔にオレは笑いかけた。
「元気、出たっス」
「脳の作りが単純だと回復も早くていいのだよ、まったく」
「ひっど! ひどいっス緑間っち!」
 すかさず突っ込みを入れた自分に、いつもの調子に戻れたことを実感する。
「緑間っち」
「何だ」
「サンキュっス。でも、負けねっスよ。バスケも、黒子っちのことも」
「オレははじめからオマエに負けるとは思っていないのだよ」
 そう言って歩き出したポーカーフェイスの裏側に見えた優しさを感じて、緑間っちのことも好きだなあ、って思った。
 ──勿論、黒子っちの次にだけど。
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