2009年02月09日

英×日←米(♂×♂)

※以下には国名表記がありますが、著作者様及び実在する国・人物・団体・史実とは
一切関係ございません。また、戦争行為の肯定・美化はしておりません。
自己責任で閲覧くださいますようお願い申し上げます。「お逢いしたこと、ありましたか?」
「……」
 それが、久しぶりに──おおよそ十何年か振りに逢った日本と、WW2後最初に交わした会話だった。
 以前と打って変わって険の取れた、今時の表情をした日本は、俺を見て小首を少しだけ傾げる。穏やかで、優しげな仕草はあの頃と変わらない。
 それなのに。
 WW2という大きな転機を経て、再び逢ったあいつは俺のことをすっかり忘れていた。
 まるで餌を求めて水面に顔を出した鯉の如く、俺はみっともない程に口をパクパクさせる。
 信じられない。幾らなんでも、友達だった俺のことを忘れてしまうなんて。
 日本の他人行儀な様子に俺は耐え切れず、勢い込んで両肩を掴み、ゆさゆさと華奢な躯を揺さぶった。
「覚えていないのか? 俺達仲良かったんだぜ。ほら、色々お前の便宜も図ったじゃないか」 
「……申し訳ありません、少々記憶が……」
 眉間に皺を寄せ、苦しそうに呻く日本。
 綺麗な顔が歪むのを見て、俺がこんな顔をさせているのかと思うと悲しくなる。
「にほ」
「日本、大丈夫か?」
 俺達の傍で、というよりも日本の傍で様子を伺っていたアメリカが、俺と日本の間に割って入り、俺の手を振り払った後で日本の両肩をしっかりと支える。
 行き場をなくした俺の両手は宙に浮いたまま凍りついた。
 襟ぐりの乱れた着物を直し、日本は顔を上げてアメリカに向かって微笑む。
「大丈夫、です……すみません、アメリカさん」
 ああ、その笑顔は。その笑顔は、俺に向けられていた筈なのに。
 背を向けていたアメリカが振り返る。その表情は、いつもの能天気野郎のものではなくシリアスが顔面に張り付いていた。
 日本を庇い立てするように間に立ち、
「イギリス。日本、今は少し混乱してるみたいだから、これ以上はまた今度にしてくれないか」
「なっ、このまま帰れって言うのか! この場をお膳立てしたのはアメリカ、お前じゃないか!」
「それは君がどうしても日本に逢いたいって言うからさ」
「当たり前だ! WW2以降、日本はお前とずっと一緒で逢えなかったんだからな」
 そうなのだ。戦後の日本はアメリカが全部面倒を見ていた。俺は俺で色々と忙しく、また距離が離れていた所為もあって日本のところに来ることが出来なかった。
 いつも気にかけてはいたのに。こんな事になるなら、俺が面倒を見ればよかった。
「大体、どうして日本が俺の事を忘れてるんだ。おかしいだろそんなの」
 文句を言いながら、俺はアメリカの陰で怯えた子犬のような目をしている日本を見つめた。俺の視線に気がついた日本は、さっと視線を床に落として俯いてしまう。
 奥ゆかしさは以前からあったが、堅苦しさがなくなった日本。腰に挿していた刀は消え、軍服でもない。 
「お前、まさか……日本に何をしたんだ」
「ああ。やっぱりイギリスにはバレてしまうね。でも良かれと思ってした事だよ」
「いいから答えろ」
「だから、昔の事をちょっと忘れてもらったのさ。今の日本は生まれたての雛みたいなものだよ。すっかり穏やかになって、このほうが皆とも上手く付き合っていけるんじゃないかな。流石俺だね。それにしてもまさか日本が君の事まで忘れちゃってたなんて思いもしなかったな、ははは」
 朗らかに笑うアメリカのいい笑顔を見て、俺は堪忍袋の緒が切れた。
「笑いごとかこの野郎っ……!」 
 勢い余ってアメリカに殴りかかった俺の手を止めたのは、日本の手だった。
「や、やめてくださいっ。アメリカさんに何をなさるんですかっ」
「日本……」
 必死にアメリカを庇う日本を見て、俺はやるせない気持ちで胸が一杯になった。
 こんな顔をさせに来たんじゃない──そう思って俺は、アメリカの襟を鷲掴みにしていた手から力を抜く。
「全く君って奴は昔から手が早いよ」
「煩い。お前に言われたくはない」
「ほうら日本、俺とイギリスはもう大丈夫さ。だから少し休もう、その方がいい」
「……そう、なのですか。良かったです」
 訳知り顔のアメリカにも腹が立つが、今は日本を休ませてやる方が大事と言うのだけは同感だった。俺の所為で混乱してるのは、悔しいが事実なのだから。
「今日は帰る。また来る」
「は、はい。どうぞいらしてください」
 きびすを返した俺に、日本がぺこりとアメリカの後ろで頭を下げる。
 首だけ振り返り、俺は日本に尋ねた。
「そうだ日本、お前何か好きなものはあるか?」
「俺はハンバーガーがいいな。あ、でも君のとこで作ってない奴で頼むよ!」
「お前には聞いてないっ」
 昔と趣向が変わっている可能性を考えて、だ。次に来るときは土産を持参するつもりだし、どうせなら好きなものを持ってきたい。
 日常を思わせる質問内容だったお陰か、日本は警戒を解いた表情で首をかしげた。
「……そうですね。お茶が好きです」
「紅茶も?」
「はい、紅茶も」
「なら、次は紅茶を持ってくるから」
「楽しみにしています」
 日本が、今日初めて俺に向かって口元をほころばせる。花が咲いたような、純朴な笑顔だった。
 
 ──次は、アメリカの向こう側じゃなくて。俺の前で、笑わせる。
23:37 | [小説]APH