2016年12月27日

【C91新刊情報】RO生体ハワエレ本「生体工学研究所の長い日」

前回のblog記事が夏コミ本の案内という無精具合に我ながら驚いておりますダメな奴。お久しぶりで御座いますが、C91の新刊情報を載せさせて頂きます。現在校正中、これから製本なので多分ほぼ確定。のはず。(プリンタさんがエラー吐かなければ)新刊は前作のハワードさん視点を書こうとした筈なんですけど、どうしてこうなった。そちらは出来れば、ラグフェスで出せたらなあなんて。今回は、なんちゃって怪盗話、に見せかけたただのラブコメです。

ちなみにスペースは 1日目の西ホール や-43a になります。

生体工学研究所の長い日(A5/40↑↓頁/\300/R18)

写真表紙4色フルカラー印刷、本文書籍用紙モノクロレーザー印刷のコピー本。
生体工学研究所、ハワード×エレメス本です。R18描写有り。二階や四階の面々も登場致します。


※以前も記載させて頂きましたが、自分の書く生体工学研究所の彼等は、全て脳内鯖設定となっております。公式からの詳細な設定が発表されるより以前から生体のお話を書いていた為、RO公式やLoVA公式による設定や口調等と、異なる場合が御座います。特に四階のメンバーは、ほぼ独自設定です。ご了承のうえ、お読み頂ければ幸いです。


 『今宵、貴方の一番大切なものを頂きます』

 生体工学研究所、三階の一室。ハワード=アルトアイゼンが住まう部屋に届けられた、一通の手紙。
 それが全ての、騒動の始まり。


一通の予告状が招いた騒動は二階、四階の面々を巻き込んで発展していく。
果たして差出人の正体は。ハワードは、仲間達は無事、狙われたものを守り通すことが出来るのか。


こちらの本はR18の展開を含みます。サンプルは以下、折り畳みです。校正中のため、文章が最終稿と異なる場合がありますが、話の流れは変わりません。



ご興味がありましたらば、御手にとって頂ければ幸いです。


 

 『今宵、貴方の一番大切なものを頂きます』


 生体工学研究所、三階の一室。ハワード=アルトアイゼンが住まう部屋に届けられた、一通の手紙。
 それが全ての、騒動の始まり。

 

「で、なんなのよこれ。朝からみんなを集めて何ごとかと思えば、新しいゲーム?」
 胡散臭げにそれを凝視し、セシルが腕を組んで小首をかしげた。倣うように、同じ角度に首を倒したカトリーヌが後に続く。仲の良い姉妹のように可愛らしく並んだ様は、二羽の小鳥だ。もっとも戦闘の実力は双方、鋭い爪を隠した大鷲と、絶対零度の荒れ狂う猛吹雪だが。
「ん……怪盗ゴッコ、とか」
「ふふ、イベントなら歓迎ですわよ。そういえば小耳に挟んだのですが、巷にはアニバーサリーちゃんという名の少女怪盗がいるそうですけど。この予告状から察するに、彼女のリスペクトですか。ハワードったら、意外と可愛いところがあるんですね」
 でしたら是非これを、と。マーガレッタから、少女怪盗のトレードマークだという、ピンク色のシルクハットを手渡された。先日拾いましたの、と穏やかに微笑む彼女は、好奇心いっぱいのお転婆少女を彷彿とさせた。明らかに、この成り行きを楽しんでいる。
「謎解きか。それはまた、やり甲斐のあるイベントだな。それにハワードが主催の報酬はいつも、武器や防具だからな。個人的にとても楽しみだ」
 堅物生真面目に見えて、実は結構ノリの良いセイレンが話に乗ってくる。前回の報酬、『お好みの素材で新しい武器を一本製造権』が随分お気に召して貰えたらしい。
 三人の見解が出揃うのを待っていたのか、残る一人、エレメスがふうとため息を吐いた。今度は何をはじめたとでも言いたげに、ちらり、こちらを斜め見る。
「……ハワード。いい加減、黙っていないで説明しろ」
「そういう反応するってことは、ここにいる誰かの悪戯ってんじゃあなさそうだな」
 これは面倒なことになった。ハワードは心中で独りごちる。気持ちが声色に出てしまったのか、自分で思った以上に、倦怠感のある口調になってしまった。
 理想は、ここで誰かしらが己の仕業だと手を挙げるか、ヘタな芝居を打ってくれることだった。残念ながら、少なくとも今の時点では、誰もしらばっくれているように見えない。芝居だとしたら、見抜けていないことになる。だがそのほうがいくらかマシだ。誰も嘘をついていないケースが、想定したうちもっとも厄介だからだ。
 仕方ない。ハワードは、とん、と一つ、右手の指先でカードを突く。テーブルの上に置かれたカードへ集まっていたそれぞれの視線が、一斉にハワードへと向いた。
「期待させて申し訳ないが、今回はイベントじゃない。そもそも、これを用意したのは俺じゃない」
「どーいうことよ」
「こいつはな、セシル。今朝、俺の部屋に届いてたんだよ」
「部屋って、中に? ハワードの部屋にフリーパスで入れるのなんて、一人しかいないじゃない」
「おいセシル、なんでこっちを見る」
「わたしも……エレメスだと思った。エレメスなら、気配を殺すの、おちゃのこさいさい」
「筆跡に見覚えはありませんが、流麗な書体ですわね。男性とも女性とも判別つかない、中性的な雰囲気を感じます。しいて言うならば、これを書いたのは一定以上の年齢で、幼年の可能性は限りなく低いでしょう。以上の犯人像と、ハワードの部屋に届いていたという情報だけから推察しますと、手紙の送り主はエレメスが第一候補になりますわね」
「すまない、エレメス。疑っているわけではないんだが、実際のところどうなのか、一応聞かせてくれるか」
 眉をぴくりと震わせたエレメスが、溜息をおかわりした。まあ、皆からいきなり犯人呼ばわりされれば、面白くないだろう。ハワードとしても、別にエレメスに皆の疑いを向けたいわけではない。やれやれと言わんばかりにエレメスが何ごとか言いかけるのを遮って、ハワードは首を振った。
「皆の言い分もわかる。だけどな、これは部屋の中じゃなく、ドア下に挟まってたんだ。となるとエレメスとは断定できないし、もっと言えば差出人が誰か、特定できない。だからこそ、前情報無しでいきなり見せたんだ。皆の反応が見たくってな」
「……成る程。そういうことか」
 眉間にしわを寄せ、セイレンが渋い表情を浮かべた。流石、状況判断に優れているだけある。自分と同じ危惧を、真っ先に察したようだ。
「つまり――これはハワードが用意したイベントでも、ゲームでも、ましてやジョークでも無い」
 問いを肯定する意味でハワードが頷いてみせると、常より生真面目な顔がさらに引き締められた。
「そして皆がこの手紙のことを知らないという。ならば早急に、四階と二階へ確認しに行く必要がある」
 硬い声音で、セイレンが宣言して立ち上がる。ロードナイトの凛々しさをあますことなく体現したその立ち姿からは、生体工学研究所三階のリーダーとして今回の件は見過ごせないという、強い意思が感じられた。
「――っ、そうね、急ごう。さっさと安心したいわ」
 続いて、事の重大さを理解したセシルが続いた。先程と打って変わって乾いた声音から、緊張具合がうかがえる。
 実際、前代未聞のおおごとなのだ。彼らが住まうこの居住区域は、今まで侵入者達の侵攻を許したことがない。何故ならこの場所への行き道は、外部の者にわからないよう、巧妙、且つ複雑に隠されているのだ。そうそう、辿り着けるわけがない。
 にもかかわらず、差出人不明のカードが個人の部屋に直接部屋に届いた。二階の弟妹達、または四階の仲間が仕掛けた悪戯、イベントなら良い。もしそうでない場合、何者かがこの居住区まで侵入したということになる。
 ここ最近、やたらと侵入者が増えた経緯もある。真実が判明するまで、茶化して良い状況ではない。
「でしたら、私とセイレンで二階へ向かいます。セシルとカトリーヌは四階へ行って頂けますか」
「おっけ。行こカトリーヌ」
「うん」
 てきぱきと指示を出すマーガレッタに、三人が首肯する。では、とリビングを後にしようとする四人を、ハワードは慌てて立ち上がり、引きとめた。
「おいおい、待てよ。当事者置いてくな。俺も行くって」
「自分で確かめたいというハワードの気持ちは解ります。けれど、犯人は現場に戻るとも言います。ここを空にするのは得策ではありません。貴方が狙われている当事者であるからこそ、ここで待機していただきたいのです。お茶を飲んでゆっくり待っていて下さいね?」
 にっこり笑みを深めたマーガレッタに、敵わないなとハワードは肩を竦めた。朝からの招集にもかかわらず、マーガレッタはわざわざお茶を用意してくれたのだ。すぐ話に入ってしまった為、お茶はポットの中に六人分、用意されたままだ。そこを突かれてしまっては、もう頷くしかない。
「……ならば俺は?」
 ここでようやく、エレメスが口を開いた。そういえば先ほどからずっと、彼の声を聞いていなかったのは、決して気のせいではない。振り返ってエレメスを見ると、やけに落ち着き払った様子で、座ったままマーガレッタをじっと見ている。
「ハワード一人では目を配りきれないでしょう。ここは気配を察知する能力の高い貴方に残ってもらうのが適任と思った次第です」
「了解した」
 静かな返事に、珍しい、とハワードは思う。
 エレメス=ガイルという男は、ハワードが知る限り、元々そこまで饒舌な性質ではない。だが冷静沈着に見える裏に、熱い感情を内包している。そのエレメスから、仲間全体に危機が及んでいるにしては本当に珍しく、事態への積極さを感じないのだ。
 アサシンクロスとして高い能力を持つエレメスは、飛びぬけて危険察知に長けている。その彼がこうも落ち着いているならば、そこまで危惧する必要はないのだろうか。
 それとも――実はエレメスが手紙の主?
 浮かんだ疑問に、心の中でハワードは首を振った。決してゼロではないが、ハワードの中でその可能性は今のところ限りなく低い。仲間が不安な様子を見てもネタ晴らしをしない理由が、思いつかないのだ。また、余程のことでもない限り、エレメスは無為に仲間を混乱させるような性分ではない。
「留守は任せてくれ。このカタールに誓って、アンドレ一匹たりとも通しはしない」
「頼んだぜ四人とも。吉報を期待してる」
 頷いた頼もしい仲間達が、二手に分かれて任務に向かう。その背中の一つ、セシルが「そうだハワード」と振り返り、びしいっと人差し指を向けた。
「お、なんだ? セシル」
「言っとくけど、私達が居ないからってエレメスとイチャイチャしはじめるんじゃないわよ!」
 このタイミングで、何を言われるのかと思ったら。
 シリアスががらごろ音を立てて崩れていくセシルの発言に、ハワードはがっくり肩を落とす。
 まあ、確かにこのところ二人になる機会がなかったのは事実だが、そこまで信用ないか。
 反射的に言いかけて、誰の前だろうと隙あらばエレメスに悪戯を仕掛けているのもまた事実なので、勝ち目のない反論は控えた。あえて言うなら、あれは本当に悪戯のレベルであって、決して愛撫の類ではない。いちゃいちゃしているように見える時点で、周りからすれば同じことかもしれないが。
「戻ってきたとき、入りにくい空気にはしないで」
「出来れば今は、自重してくれるとありがたい」
「大人しく待っていて下さいね?」
 口撃の多いセシルだけならともかく、他三人分の追撃も続けざまに受けて、流石のハワードもちょっと凹んだ。
 というか、お前まで言うかセイレン。男なら、好きな相手にちょっかいかけたい気持ちくらいわかるだろうに。いやセイレンはそういうタイプじゃないからしょうがない、とは思うが、しかし。
「なあ。なんで皆、俺にばっかり言うんだ」
 納得がいかない、とハワードが憤慨すれば、きょとん、と顔を見合わせた四人が目配せし合い、うんうん頷く。ずいっと一歩前に出たのはセシルだ。代表です、という顔をして「だってハワードだもの」と放つ。
 四人の評価に、エレメスが涼しい顔で笑んだ。
「日頃の行いだな」
「日頃の行い、なあ?」
 含みをこめて恋人を見やると、知らぬ存ぜぬ、とぼけている。そんなすまし顔も愛しく思うのは惚れた弱みだ。
 実のところ、この一見淡白な恋人から誘ってくる率は、意外なことにそこそこ高い。仲間達は、ハワードばかりが色事をけしかけていると思っているのだろうが、事実を知ったら、相当驚くに違いない。エレメスが誘ってくる際の色艶は、普段のギャップも相まって、ストレートの男とて陥落しかねない威力だというのに。
 もっとも、自分だけが知っていれば良いとも思うので、この評価は永続して変わらないだろう。
「とにかく、そーいうことだから。あとよろしくね!」
 念押しを重ねるセシル達を見送って、ハワードは椅子に座りなおした。喋っていたら喉が渇いたのだ。ポットを手繰り寄せ、カップに中身を注ぐと、ほのかに湯気が揺らめいた。相変わらず気の利くマーガレッタが淹れていってくれた紅茶は、まだ充分に温かい。
「エレメスは?」
「ああ。貰う」
 頷くエレメスの分も淹れてから、ハワードはカップに口をつけた。一口、琥珀色をすすると、喉を温もりが滑り落ちていく。ほう、と。吐いた息から、無意識に強張っていた心が、少しばかり解ける。リラックス効果のあるハーブティーのおかげか。思ったよりこの事態に緊張していたのだと、ハワードは今更ながら自覚した。
 こんなんじゃだめだ、と気を引き締めなおす。まだ可能性の段階だが、マーガレッタも言う通り、いつまた犯人がここに現れるかも解らないのだ。
「ハワード」
「なんだ?」
「珍しいな。お前がそんな風に気を張っているのは」
「そりゃま、あんな手紙が来た上、皆にも手間かけさせてるからな。流石にふざけちゃいられないさ。仲間の悪戯だとわかったら、全力で楽しむつもりだぜ」
「前言を撤回しよう。そういうスタンスは、やはりハワードらしい」
 口端を僅かに上げて、エレメスが薄く笑んだ。
 おや、とハワードは首をひねる。
「……なんだ、ハワード。俺の顔に何かついているのか?」
 居心地の悪い違和感が肌をなぞる。「いや、なんとなく見てただけだ」と軽口で返しながら、ハワードは表面上はいつも通りのエレメスを観察した。
 根拠は勘と経験則だが、こういう時のエレメスは、ぴったり貼られた仮面の下に本音を隠している場合が多い。
 愛しい恋人がこんな態度を取る理由に、実は一つだけ心当たりがなくもないのだ。
 先日、内密の用事があったハワードは二階に赴き、ジェミニと逢った。用件をすませたその帰り、エレメスとばったり顔合わせた。その際、一人で二階に降りた理由を問われたが、ちょっとな、と詳細を話さずに流した。
 仲間に内緒、且つ二人きりの密会。単語だけ聞くと印象は悪いが、実際に後ろ暗いことは何もない為、ハワードの中では大したことない案件として処理されている。こと相手がジェミニの場合、厳密には二人きりというより三人きりが正しいのだが、それはさておき。
 思えばこのところ忙殺されていた所為で、ジェミニ密会の件をどう捉えたか、エレメスにきちんと確認した記憶が無い。恋人とはいえ、プライベートは当然ある。お互い尊重しあっているので問題ない、筈なのだが。もしかして、気にしていたのだろうか。
 時間が少々経ってしまったのは否めないが。カップの中身をくっと呷り、飲み干してから、ハワードはエレメスに向いた。ぴく、とエレメスの片眉が動く。
「なあエレメス。俺に何か隠してることはないか?」
「……お前まで、俺が予告状の犯人だと言いたいのか」
「あー、今の流れじゃそう思うか。いや、予告状の話じゃなくってさ」
「では何だ」
「ここんとこずっと、フロアにジャック達がいたり、侵入者がやたら増えて、対応に追われてたろ。巡回の組み合わせも丁度、合わなかったし。二人の時間、全然取れてなかったよな」
「……それで?」
「俺に言いたいことがあるなら、聞きたい」
「さあ。特に覚えが無い」
 肩を竦めたエレメスが、涼しい顔でカップの紅茶を飲む。素直じゃない恋人がしらばっくれるのは想定内だ。ふむ、とハワードは切り口を変える。
「嘘だな。目が言ってるぜ、ああ言い当てられたって」
「そう言われても、自分では判らない。だいたい、お前が勝手にそう思っているだけじゃないか」
「なら、教えてやろうか」
 椅子をずりずり引いて距離を詰め、ハワードはエレメスの真隣に移動する。たじろいだエレメスの頰を、両手で包むように捉えた。真っ直ぐに正面から見据え、ゆっくり顔を近づける。
「見ろよ。俺の中に、何が映ってる?」
「ああ、よく見える――お前に溺れる、哀れな男が」
 表情も変えず、らしくない物言いを零したエレメスに、ハワードは面食らって言葉を失った。
「……どうしたよ。珍しい」
「見ろと言ったのはお前だろう、ハワード。俺はただ、見えたものを口にしただけだ」
「俺に溺れるのは、お前にとって憐れなのか?」
「いや、お前がどうというわけではない。ただ溺れている俺が哀れなだけだ。ろくに呼吸もままならず、息苦しくもがく姿は、傍から見たら滑稽だろう」
 ここにきてようやく崩れたエレメスの表情には、自嘲の翳りが色濃く映しだされていた。ハワードは大したことないと思ったジェミニとの一件が、まさかこんなことを言うほどまで、エレメスを追い詰めていたとは。
 悔しさに歯噛みする。エレメスに内包された憂いに気付けなかった。今回はこうして引き出せてやれたからいいものを、本当にこの恋人は肝心なところで意地を張ってくれる。そんな強さも、脆さも合わせて愛しいのだが、もっと素直に甘えて欲しい。
「……滑稽なんかじゃない。俺に溺れてくれるのは大歓迎だ。幾らでも俺の中に沈めてやるよ。息が出来ずにもがいてしまう、お前の姿は愛の証だ。喜んで受け取らせて貰うさ。代わりに俺は、お前の手を握って、空気を送る。だから苦しいと思った時は、ちゃんと言ってくれ」
 頰に添えていた右手を降ろし、ハワードはエレメスの手を強く握った。それから、前髪に唇を寄せる。やんちゃに跳ねた髪先を左手の指で梳きながら退けて、額に。続いて目尻、こめかみ、頬に、触れるだけのキスを落としていく。愛していると、想いを込めて。
 きゅう、と。エレメスの頭を胸に搔き抱いてから、体を離して両肩へ手を乗せ、ふわりと軽く口づける。
「……セシル達が帰ってきたらどうするんだ」
 切なさに瞳を揺らしておいて今更なにを、などと無粋なことは言わない。素直に吐いてくれたのは嬉しいし、今はひたすら甘やかしたい気分なのだから。
「今は、これ以上はしないから問題ないさ」
「今でなければ、どうだったんだ?」
「そう煽るなよ。これでも抑えてるんだからな」
 確かにそうか、とエレメスはくつくつ笑うが、本当のことだ。もしもここが自室ならとっくに押し倒しているし、皆を待つ必要がなければ、エレメスの憂いを少しでも癒すべく、さっさとエレメスを自室に連れ込んでいる。キスだって、もっと深く交わっていただろう。
 今が、こんな事態でさえなければ。
「さっきの手紙だが……ハワード、心当たりは無いのか」
「心当たりなあ。俺が思うに、他のフロアでこういう悪戯をするとしたら、順当にいけばアルマかフラメルだ。ただ、やり方に疑問が残るんだよ。あいつらは、俺たちを驚かせるのは好きでも、騒がせるようなことはしない。となると他に」
「そうじゃない」
 業を煮やした様子のエレメスが、舌を打った。
「俺が聞きたいのは犯人のことではなくて――つまり、だから。あのカードに書かれていた、お前の、いちば」
「たっだいま! いちゃいちゃしてなかったでしょうねーあんた達! ……って、あれ。やだ、なんか……本気でお邪魔、しちゃった……雰囲気?」
 元気に帰ってきたセシルの語尾が、自分たちを見るなり、少しずつトーンダウンしていく。確かに会話は遮られたが、今のタイミングならば別段、乱入されて困る程のスキンシップではない、はずで。だがいい空気だったとは思うし、果たしてなんと言ったらいいものか。
 返答に困っているのはエレメスも同様らしく、ハの字になった眉がなんだか可愛らしい。ちゅっとキスをしたくなったが、流石にここは自重する。
「どうしたの、セシル」
「あ、カトリーヌ……」
 いつまでもその場から動かないセシルの背後から、ひょこりとカトリーヌが顔を覗かせた。自分、それからエレメスを順に見たカトリーヌが、訳知り顔でうんうん頷く。
「……うん。セシル、大丈夫。今はそういう空気じゃない、みたい。けど……ただもしかして、事後……だったり?」
 きょとん、と悪意の無い瞳で、カトリーヌが小首を傾げた。純朴な風とは裏腹に、内容は随分と直球だ。落とされた爆弾発言を聞いたエレメスが、思い切り噎せた。ぐえふぉ、いっそ嘔吐の寸前かというくらい呼吸を乱す。
 あーあー大丈夫か、と。咳き込むエレメスの背を、ハワードは優しく撫でさすった。
「おいおいカトリーヌ、いきなりそんな事言うからエレメス噎せちゃっただろ」
「ごめんなさいエレメス、本当のことを言って。恥ずかしかった、よね?」
「――な、だっ……、じっ、――じゃ、なっ」
「落ち着けエレメス今は喋るな。ほら、ゆっくり呼吸しろ。あとセシルも、カトリーヌも、違うからな。俺達は何も、いかがわしいことはしていない」
「そう?」
「だって、なんかエレメスの様子見るとガチっぽいし……なんかもう、別に無理して誤魔化さなくってもいいのよ?」
 まだ疑ってくる二人に、やれやれとハワードは天井を仰いだ。これこそ日頃の行いか。
「あー、あのな。そりゃ多少は色っぽい話もするさ、二人になったの久々だったからな。でも、そこんとこは自重してたって。だいたい、手出すなら初めからエレメス連れて部屋に戻ってる。その方が存分にエレメスを可愛がれるだろ」
「――ま、それもそうね! 疑って悪かったわ。ちゃんと真面目に待機してたなら良し!」
「……良し」
 どうにか納得してくれたらしい。濡れ衣を晴らしたところで、ハワードは手を伸ばしてポットに触れる。保温機能のおかげでまだ温かい。
「とにかく、座れよ。お疲れさん」
 紅茶を新しく二つ淹れ、ハワードは二人に着席を促した。
「ありがとハワード。あー、やっぱマーガレッタのお茶ってば最高!」
「それで、四階の感触はどうだったんだ」
「あーうん、どうしよっか。今話してもいいんだけど、長くなるし。どうせならマーガレッタ達を待たない?」
「……その方が、二度手間にならない」
 もっともな意見にハワードは、多少復活したらしいエレメスと目を見合わせ、首肯する。
「ならば俺は、二人が戻る前に、追加の湯を沸かしてこよう」
「……私もいく。お菓子も持ってくるから、待ってて」
「あっ、ねえカトリーヌ。マーガレッタのパウンドケーキが棚にあるはず」
「ん、わかった」
 エレメスが席を立ち、続いてカトリーヌもキッチンへ消えた。残されたセシルは、機嫌良さげに紅茶を飲んでいる。おおかた、カトリーヌが取ってくる菓子が楽しみなのだろう。
 甘いものを前にした女性は可愛らしい。微笑ましさについ、目を細めてしまう。戦場におけるセシルの鬼神の如き戦いぶりは知っているが、仲間にとっては、今のセシルが本来のセシルなのだ。
 と、ほっこりしている場合ではない。
「なあセシル。詳しい話は後で聞くが、先に結果だけでも聞きたい。四階は、シロか? それともクロか」
「んー……私の見解でいいのなら、シロ」
 少し迷って、けれどはっきり下したらしい結論にハワードは、そうか、とだけ返して腕を組む。想定内の答えだ。但し、事態としてはあまり宜しくない方向の。
 出来れば、四階連中の仕掛けたドッキリであって欲しかった。マーガレッタ達の持ち帰る結論次第では、鍛冶師としての腕を存分に振るうことになるかもしれない。急ピッチの仕事は嫌いじゃないが、またエレメスとの時間が削られてしまうのが難だ。エレメスの寂しさに触れた今は特に、二人の時間が欲しかった。
「ハワード。眉間に皺が寄っているが」
 不意に真横から降ってきた声に顔を上げる。見ると、いつの間にか二人が戻ってきていた。
「あーいや、ちょいとこの先のこと考えてたんだよ。おかえりエレメス、お湯サンキュ。カトリーヌ……も……」
「ん。ついでだから、いちばん大きいの切り分けてきた」
 手に抱えていた皿を、カトリーヌがテーブルに置いた。ひくっとハワードの頰が震える。
「おい、エレメスこれ」
「一応止めた」
 パーティー用の大皿に、パウンドケーキが文字通り山と盛られている。うわあ、とセシルが目を輝かせた。
 対してハワードは、セシルと別の意味でうわあと呟いた。こんなに食えるんだろうか。横目でちらり、エレメスを見やる。無力だった、とエレメスの顔は気まずげだ。
 いや仕方がない。慰労の代わりに、ハワードはエレメスの背を叩いた。甘いものを前にした女性は可愛いが、それ以上に無敵だ。自分でも止めるのは無理だったろう。
「遅くなってすまな……い」
「あら、二人が先でしたか。お待たせして申し訳ありませ……ふふ、お茶の準備は万端ですわね」
「大丈夫、私達も今さっき戻ったばっかだから」
 てんこ盛りのパウンドケーキにセイレンは言葉を無くしたが、マーガレッタは一瞬だけ驚いて、あとはもう通常運転だった。流石だ。
「じゃ、全員揃ったところで早速報告会といきましょ。先ずは私達からね」
 話で喉が渇くことを見越してか、マーガレッタにお茶の催促をしてから、セシルが語り始める――。


<続く>
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