2016年08月08日

【C90新刊情報】RO生体ハワエレ本「終わりの始まりは、血の味がするキスで」

未脱稿ではありますが、C90の新刊情報を載せさせて頂きます。
現在校正中なので、多分ほぼ確定。のはず。


終わりの始まりは、血の味がするキスで(A5/40頁/\300/R18)

写真表紙4色フルカラー印刷、本文書籍用紙モノクロレーザー印刷のコピー本。
生体工学研究所、ハワード×エレメス本です。出だしはシリアス風味ですが、ただのラブコメです。
成人向け要素含(おひとりさまぷれい&らぶらぶえっち)。三階、四階の面々も出てきます。そろそろ二階の子達の話も書きたい。


※以前も記載させて頂きましたが、自分の書く生体工学研究所の彼等は、全て脳内鯖設定となっております。公式からの詳細な設定が発表されるより以前から生体のお話を書いていた為、RO公式やLoVA公式による設定や口調等と、異なる場合が御座います。特に四階のメンバーは、ほぼ独自設定です。ご了承のうえ、お読み頂ければ幸いです。


 頼む、どうか違うと言ってくれ。これは何かの間違いなのだと。もしくは聞き間違いだったのだと。
 だが血を吐くようなエレメスの祈りに、笑顔のハワードから残酷な審判が下った。
「終わりにしよう、エレメス」


蜜月な筈の恋人から、唐突に告げられた別れ話。
戸惑い、動揺するエレメスだったが、どうにもハワードの様子がいつもと違う事に気付く。
果たしてハワードの本意はどこにある? 二人の関係は、このまま終わってしまうのか。


こちらの本はR18の展開を含みます。サンプルは以下、折り畳みです。校正中のため、文章が最終稿と異なる場合がありますが、話の流れは変わりません。



ご興味がありましたらば、御手にとって頂ければ幸いです。

   終わりの始まりは、血の味がするキスで



「――――、エレメス」
 何を言われたのか、よくわからなかった。
 言語中枢が唐突に機能不全を起こしたのだろうか。それともこれは、随分リアルな夢なのか。エレメス=ガイルは、目を瞬かせる。視界は明滅するだけで変化無く、どうやら立ちながら寝ていたわけでもなさそうだ。
 武器の手入れも済み、そろそろ床につくかと思っていた夜半のことだった。何の前触れも無く、話があると訪ねてきた恋人を、エレメスは私室に招き入れた。
 ここまでは、よくあることだった。何せこの男、ハワード=アルトアイゼンとは、随分と前から理無い仲なのだ。親しき仲にも礼儀は要るが、この程度ならば別に、いちいち目くじらを立てたりしない。むしろわざわざ逢いに来てくれたことに、悪い気はしなかった。深夜、恋人と過ごす意味がわからないほど初心ではない。期待に速まる脈を落ち着かせながら、先ずはと着席を促して。
 静かに首を振ったハワードの放った、第一声。朗らかな笑顔を浮かべたこの男はいま、何と言ったのか。
 職業柄、耳には自信があるのだが、もしかしたなら聞き間違い、だったのかもしれない。それか、ふざけているのかも。成る程、それならあり得る話だ。笑って人を引っかける、楽しいことが好きなこの男ならば、それが一番、可能性がある。
 だとしたら、冗談も内容を選べと説教してやらねばなるまい。この男の持つノリ良い性分は、外界から閉ざされたこの生体工学研究所に、笑いと光を呼び込んでくれる。普段ならばエレメスも、非常に好ましいと思っている点なのだが、何事も度が過ぎれば毒となるのだ。
 これは悪戯の範疇には収まらない。万が一にも本気にしたら、いったいどうする気なのだ。
 愛想を尽かし、呆れた風に。二度とそんな、馬鹿で阿呆な事を言えないように、叱責して、立腹なのを見せつけて。
 いい加減にしろ、と。言ってやる、つもりだった。
 なのにエレメスの喉は、内側から焼かれたように、声を発することが出来ない。喉奥が狭まってしまった声帯は、言葉の紡ぎ方を忘れてしまったのか。空気を通し、呼吸をするのがやっとだ。
 無意識に、震える左手が喉元を抑えた。指先の震動が肌を伝う。はくはくと、情けない呼吸音を繰り返す。自然と身体が折り曲がる。
 そうなって初めて、エレメスは今、自分は苦んでいるのだと自覚した。そう、苦しいのだ。苦しくて仕方が無い。愛しい男を前にして、こんな想いをするのは初めてだった。
 脳が幾ら否定しても、現実を拒絶しても、身体は正直だ。ああそうだ、わかっている。頭の片隅、ほんの僅かに残されているエレメスの理性は、状況を把握していた。目の前の男が醸し出す空気を、汲み取っていた。ただ、今にも爆発してしまいそうな感情が、目の前の現実全てを受け入れられない。嘘だ、嘘だと駄々をこねて、叫んでいる。だがそれの何が悪い。
「……ハワード」
 はあっ、と粘り気のある、湿度の高い息を吐く。
 曲げていた身体を、エレメスは気力で起こした。ぎりぎりと締め付けられる苦しさの下から、どうにか愛しい名を呼びかける。
 頼む、どうか違うと言ってくれ。これは何かの間違いなのだと。もしくは聞き間違いだったのだと。
 だが血を吐くようなエレメスの祈りに、笑顔のハワードから残酷な審判が下った。
「終わりにしよう、エレメス」
 いつもと何ら変わらない、気やすい口調で告げられたのは、先程と一言一句変わらぬ言葉だった。それだけで、解ってしまった。嘘では無い。虚言では無い。真実、ハワードは自分との関係を解消しようと、そう言っているのだ。
 今度こそハワードの言を理解したエレメスは、衝撃のあまり、返す言葉を無くす。そのまま茫然自失していると、歩を進めたハワードが一歩、自分に寄った。
 これ以上なにも聞きたくない。ハワードに合わせて、エレメスもまた、一歩下がる。するとハワードも前に進む。どん、とエレメスの背中が壁に当たるまで、茶番のようなそれは続いた。
「エレメス」
「ハワード……」
 すぐにでも抱きしめ合える距離なのに、エレメスの腕は力を無くして垂れ下がっている。心は抱擁を求めているのに、手を伸ばせない。二人の間に、不可視の線が引かれているようだった。触れたいのに触れられない、そんな事をハワードに対して思う日が来るなんて。
 煮えたぎる愛が、塩辛い水が、刺々しい言葉が。ハワードに向け、今にも身体の所々から溢れそうになる。愛しい相手には決して見せたくない、どろりとしたモノ。それらを己というハコに収納したままでいるべく、エレメスはぐっと拳を握りしめた。堪えろ、と脳の司令部に命令を下す。
「なあ。逃げないでくれ、エレメス。って、今の俺が言えたセリフじゃないけど。それはちょい、キツい」
「誰の所為だと、思ってる」
「……俺、だなあ」
 へにゃりと目尻の下がったハワードの顔が、あっさり境界線を越え、ゆっくり近づく。吐息を感じる距離に、ごくり、エレメスの喉が緊張に鳴動した。
 言葉は突き放しているくせに、行動で自分を追い詰めてくる。ずるい男だと、常々思っていることを、エレメスは心底憎々しげに思った。
「ハワード。お前が今、何を考えているのか聞かせろ。そうしたら、逃げないでやる」
「悪い」
 何に対しての謝罪なのか。それ以外、一切の説明が無い。普通に考えれば不誠実極まりない、有り得ない返答だ。それが逆に、エレメスに小さな違和感を抱かせた。
 そう、違和感だ。一条の光を感じたエレメスは思考をフル回転させ、ハワードの表情と、言葉の意味を推察する。
 ハワード=アルトアイゼンという男は、言動こそ軽いが、内面は非常に実直だ。人に対しても、物に対しても。鍛冶師という職がそうさせるのか、そういう性分だから鍛冶師が合うのか。材料の鉱石達と、それを使うことになる者。その両方と真正面から向き合って、初めて、良い武器が作れるのだ、と。鍛冶師としての、ハワードの持論は耳にタコが出来るほど聞いた。
 閑話休題。
 その彼がこういう、明らかに説明不足な物言いをするときは、大抵裏に何かがある。事実、過去に実績があった。そしてエレメスがことの全容、概要を知るのは、だいたい全てが終わった後なのだ。だとしたら、先に謝罪だけを口にするのも頷ける。頷けるがしかし。
 ――もしも、そうではなかったら。
 今回に限って実は裏などなく、本気でエレメスと別れたいだけ、かもしれない。人ならぬ身であろうと、心は移ろいゆく。想いに絶対など、永遠など有り得ないのだから。
 何か理由があるのだと信じたい。だが同時に離別の恐れがノイズとなって、エレメスの思惟をかき乱していく。
 どちらが果たして、正解なのか。裏腹な二つの思考が、エレメスの脳内でぐるぐると、マーブル模様を描いていた。
 とにかく、とエレメスは歯を食いしばった。ここで終わらせてたまるものか。せめて違和感の正体を掴んでやると、回り過ぎてオーバーヒート気味の頭を更に酷使する。
「いいかハワード。俺との関係を終わりにしたいというならば、納得のいく説明をしてみせろ」
「しない。だから、悪い」
 出来ない、ではなく、しない。言葉遊びのようだが、この局面では敢えて使ったようにも感じる。訳ありの根拠とするには、些か乏しい。
「あまりに一方的だろうが」
「別れ話ってのは、だいたいそんなもんだろ」
「随分と身勝手なことを言ってくれるな」
「怒ってるか?」
「業腹だ。悪いか」
「……いや。ただ悲しまれるよか、ずっといい」
 不意に、ハワードの声音が語尾を揺らした。恐らく無意識だっただろう。テノールボイスが零した一粒の涙を、エレメスの耳は逃さず掬い上げた。
 たまらなく寂しげな響きは、聞かされたエレメスの胸をぎゅうと締め付けた。酷いことを言われているのはこちらなのに、何故か罪悪感が込み上げる。
 ここにきてようやくエレメスは、ハワードの本心に、僅かながら触れた気がした。同時に感じたのは、以前と変わらぬ深い愛情だ。こんな声を出しておいて、心が離れたなど言わせない。自惚れ上等。少なくとも自分はまだ、この男に愛されている、筈だ。
 ならば何故、想いが消えたわけでないならどうして、離別を申し出られているのか。最初の疑問に返ってくるが、それを聞いても恐らく、答えは貰えないだろう。説明を二度も求めて、にべもなく断られたのだ。頑なに答えないものを、無理に聞き出せる気がしない。
「怒っちゃいるが、まだなんか聞きたそうってな顔だな。しかめっ面も嫌いじゃないが、美人が台無しだぜ」
「当然だろう。問い質したいことなど山ほどある。だが聞いたところで無駄なのだろう? ならばもうこれ以上の質問は、無意味だ」
「ははっ、エレメスらしいな」
「何がだ」
「ああ。そういう、冷静なとこだよ」
 自嘲めいた笑みを浮かべたハワードが、エレメスの耳元にかかった髪を指で掬い、唇を寄せてくる。
「俺の言葉にすげえ動揺して、俺のことで頭いっぱいだった筈なのに。今は違うよな? だから、もう俺から理由を聞こうとしていない……良い判断だよ。短慮で感情的なクセに、思考のどっかが常に冷えてる。お前のそういうとこがさ、その澄ました顔をぐちゃぐちゃにしてやりたいくらい、好きだぜ?」
「――――ッ」
 吐息交じりに小声で囁かれ、エレメスは背筋をゾワリと震わせた。漏れ出しそうになった息を、どうにか嚙み殺す。
 雄の匂いを漂わす、睦言めいたその響き。内容が不穏だからこそ、腰のあたりに熱を呼ぶ。圧倒される。こんな話の流れでなければ。否、やだから余計に、かもしれない。このまま夜の誘いをかけて、身体から堕としてやりたいくらい、今のセリフはやばかった。
 翻弄されているのが口惜しい。本気で自分と別れる気があるのか、この男は。勝手ばかりを言うハワードに、ここで負けてたまるものか、と。砕かれかけた腰に力を入れ、つとめてなんでもない風に、エレメスはしれっと返す。
「お褒めにあずかり、と言いたいところだが。少なくとも、別れ話をしている相手にする発言じゃないな」
「おっと、そりゃ悪かった。確かにお前の言う通りだ」
 話が脱線した、とハワードが飄々と笑う。 
「それじゃ、本題に戻そう。お前と俺は、これで別れる。明日からは仲間として。……よろしくな、エレメス」
「俺はまだ承諾すると一言も言っていないが」
「してくれ」
「勝手なことを言っている自覚はあるか」
「わかってる」
「ならばあえて、最後にもう一度だけ聞く。ハワード、別れを望む理由を言う気はないか」
「無い」
 即答したハワードに、やはりか、とエレメスは嘆息した。これ以上粘っても時間の無駄だろう。
 わかっていても、問わずにいられなかった。理由を聞かされないエレメスにとって、ハワードの言を受け入れるかは、賭けなのだ。確かに先程からエレメスの勘は、裏に何かがあると訴えている。だがもしも勘が外れていたら。本気で別れを望まれているなら、これきりでハワードを失うことになる。
「……わかった。だがお前と違って、俺は心の整理をつけるのに時間が要る。仲間の顔はしてやるが、暫くは俺に関わるなよ」
「意地悪だな、エレメスは」
 そのまま顎を持ち上げられ、優しく労られるように唇が重なる。止める間もない、自然な所作だった。
 まるで事後を思い起こさせる、触れるだけの可愛らしい、相手を慈しむキスだ。
 唇にハワードの熱を感じた瞬間、エレメスの全身を巡る血流が一気に加速した。熱源は愛や欲、歓喜ではない。いや、それらがゼロとは言わないし、そういう気持ちも混じっている。が、沸騰したのはだいたい、怒りの感情だった。
 説明を放棄したくせに、別れ話はフェイクだとでも言いたいのか。それとも拒絶を見せた途端に、手放すのが惜しくなったのか。どちらにしても、この場面でキスを仕掛けてくるのは、悪趣味としか思えない。
 どこまでも人の心を引っ掻き回す勝手をされて、エレメスの頭に血が昇る。閉じていた唇を僅かに開けると、ハワードが狼狽えたようにひくりと揺れた。
 そっちを期待したなら悪いな、と。上っ面の謝罪文を飲み込んだエレメスは、犬歯混じりの白いエナメルで、ハワードの薄い唇を思い切り食んだ。
「――、ッ」
 ざまあみろ。
 意趣返しに成功したエレメスは、少しばかり溜飲が下がったと、胸の内で昏く嗤った。ハワードの勝手な言い分を、とりあえずは甘んじて受け入れてやる。唇を噛む程度で済ませてやったのだから、感謝して欲しいくらいだ。
 それでも、痛い目を見たはずのハワードは、暫く離れようとしなかった。最後になるかもしれないキスは、舐めるだけで酩酊するような、甘い血の味がした。

<<続く>>
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