2016年07月02日

第一回カラおそワンライ・ワンドロ 「おでかけ」

ツイッターで行われております、カラおそ版深夜の60分一本勝負(@Karaoso_60min様)の第一回に参加させて頂きました。他で参加しているフリーワンライと違い、こちらは前日にお題が出されて書くのが一時間というタイプ。なので何となくの構想を事前にしておくことが出来るのですが、それが逆にがっつりな内容になってしまい、書きたかったことが書ききれず、結構尻切れとんぼになってしまいました……この手のネタは気に入ってますので、機会があれば加筆修正したいですね!

そんなわけで、やっぱりワンライですので推敲が足りず、誤字や表現被り、助詞違いがあったり致しますが、そのままを載せております。

続きは折り畳みで。


 イカした英文がラメで刺繍された、黒の革製ジャケット。但し何と書いてあるか、カラ松自身は良く知らない。インナーはお馴染み、自身の顔がプリントされたタンクトップ。ベルトのバックルは純銀製の髑髏モチーフ。脚部のラインがしっかりと出る、ジャケットと同素材の黒いパンツ。己が考える最高にマーベラスな一張羅に身を包んだカラ松は、鏡で身だしなみの最終チェックをしてから気に入りのサングラスをかけ、いざ、兄弟が集まる居間へと駆け込んだ。
 すぱあん、と小気味よい音と共に襖が開く。
 時刻は午前十時半。日々をのんべんだらりと過ごすニートにしては早いと言える時間だが、珍しく全員が起きて揃っていた。一瞬、五対十個の瞳がカラ松を映し、直後、興味を失ったように元の位置へ、猫に求人情報誌、テレビやスマホ、漫画へとそれぞれ戻っていく。
 そのうちの一人、寝っ転がって漫画を読んでいる人物の前へと、カラ松は歩を進めた。松野家次男、松野カラ松にとってたった一人の兄。そこについぞ先日、恋人という新たな肩書きが加わった、愛しい相手。
「おそ松」
 側に来たのは判っているだろうに、名を呼びかけているのに、こちらを見向きもしない事に少々、寂しさを覚えなくもない。が、幾ら恋人になったとはいえ、おそ松は元来気分屋だ。カラ松にとって、そこが子供のようで可愛いのだが。とにかく、そんなおそ松と付き合っていくのに、この程度のことでめげてはいられない。
 気合いを入れ直したカラ松は腹に力をぐっと込め、演劇部で培った声量でハキハキと言い放った。
「おそ松! 今日一日、俺に付き合ってくれないか!」
「やだ」
 一刀両断。間髪入れず返ってきた拒否を聞き、カラ松はその場にがくりと膝を着く。そのまま両手を畳に着き、頭部は哀しみの重さで項垂れた。
 オーケイ、とカラ松は心の中で呟いた。この返事が来るパターンも予測済みだ。伊達に六つ子の参謀は名乗っていない。シミュレーションはばっちりなのだ。塩対応が来る可能性も、充分に理解していた。
 今のはそう、実際におそ松の声で聴くとやっぱりちょっと、悲しかっただけで。
 悲しみの泉で溺れる前に胆力で顔を上げ、サングラスの柄を胸ポケットに引っかけた。ここで引き下がるわけにはいかない。今日ばかりは、絶対に。
「……おそ松」
「やだってば」
「理由を聞かせてくれ」
「面倒」
「まだ何処に行くとも言っていないぞ」
「それを言ってないから、断ってんだろ」
 ちろん、と。ここで初めて、おそ松が漫画から自分に視線を移してくれた。確かに、カラ松はそれを意図的に伏せている。
「じゃあ、場所によっては付き合ってくれるのか」
「んー」
 僅か数秒、一呼吸おいてから、おそ松の視線が漫画に戻る。と同時に返答が来た。
「やだ」
「何故だっ」
「漫画読んでるし」
「それだけか」
 なら、と言い募ったカラ松の言葉を「あとさあ」とおそ松が遮る。
「なんか面倒な予感すんだよねー。俺の好きなとこ行っていいなら、まあ考えてやるけど」
 核心へと切り込んできたおそ松に、カラ松はつい、押し黙ってしまう。ここで言い返せなければおそ松の言い分を肯定しているようなモノなのだが、隠し事があるのは事実なので上手く言葉が繋がらない。
「はい、っつーことでこの話はおしまーい!」
「おそ松兄さん」
 強引に話を畳んでしまわれそうになったところで、助け船が入る。声の主は、それまで黙って求人情報誌を見ていたチョロ松だった。
「なんだよチョロ松」
「面倒だから行ってこい」
「はっ? なんでお前が俺のこと決めんの」
「これ以上、お前達の痴話喧嘩に巻き込まれたくないからってんじゃ、理由にならない?」
「なんないね。俺、出かけたくないし。話なら終わったし」
「そこの次男は終わらせたつもりないみたいだけど」
「俺が終わったっつーんだからいいの!」
「千円やるから」
「行くっ」
 ぴょこりと飛び起きたおそ松が、チョロ松の手に現れた漱石へ勢いよく飛びついた。漱石を天井に翳しながら、すっかりご機嫌な様子でくるくる回るおそ松を見て、うっわあチョロい、と下の二人がヒソヒソしている。それにはカラ松も心から同意だった。おそ松が金に弱いのは判っていたことだが、あんまりあっさり釣られすぎて、今後が少し不安になる。
 部屋の隅で猫を抱いている一松は、何かを察したのだろうか。自分とチョロ松を交互に見てからケッと吐き出されたのが聞こえた。そのチョロ松は一松に視線を流し、苦笑気味に頷いている。
「よっしゃカラ松、いこーぜ!」
「ああ」
 何事も下準備は大切だ。特に、協力者を得ておくのは。漱石一枚とプラスアルファでプランがスムーズに運ぶのならば、安いモノだと。某アイドルのグッズと引き替えに行われた事前の密約により、愛しい恋人との外出権を得たカラ松は満足げに頷いた。


 電車を二本ほど乗り継いで、いったいどこまで行くんだとぶつくさ言うおそ松を宥めながら着いたのは、とある郊外の駅だ。電車では駅弁を食べ、ちょっとした小旅行気分を楽しんだ。余談だが勿論、ここまでの費用は全てカラ松持ちだ。
 緑豊かな景観を眺めながら、駅からバスでもう一五分ほど。バス停を降りた先、ようやく目的地に着いたカラ松は、そっとおそ松の肩を抱いた。触れたいの半分、逃げられないよう半分の行為だった。とはいえ、出先でのスキンシップは極力控えるようにと言われている。そのため、てっきり拳が飛んでくるのは覚悟していたのだが。
 当のおそ松はぽかんと口を開けたまま、建物を前に目をまん丸くして動きを止めていた。
「ここ?」
「ああ」
 真っ白な外観の、小綺麗なホテル。海を前にしたロケーションもよく、恋人が過ごすには最高の場所だ。カラ松が今日のためにと予約を入れておいた場所だった。
 これだけなら、おそ松もそんな反応をしなかっただろう。ロマンチストなカラ松がまた、サプライズを仕掛けてきたのかと、アバラを二、三本折って、そのあとはいつも通り、恋人としてイチャイチャするだけ、なのだが。
「……おい。行き先間違ってねえ?」
「いや、ここで合ってる」
「あー……まじか。そうかー、そうきちゃったかー」
 そのホテルの入り口横に『ブライダルフェア開催中!』と大々的に飾られている看板をみて、へにゃへにゃとその場にしゃがみ込んだおそ松が盛大な溜息を吐いた。
「……お前、本気?」
「勿論だ。泊まりがけのコースで部屋も予約取ってあるからな、ゆっくり楽しめるぞ」
「いや、あー……うん。ちょっとまって、お兄ちゃんいま立て直してるから」
「どうしたハニー、どこか調子を崩したのか?」
「いや、そうじゃなくってえ……助けて赤塚せんせえ」
「大丈夫だおそ松。男同士だということは、予約時に伝えてある。今日は俺達と同じように、同性カップルが集まる日なんだ。知っているか、アメリカにもゲイチャーチというのがあってそこで式を挙げられるんだ」
「……そういう問題じゃないからね。お兄ちゃん、お前のこと相手の同意無しでこんなとこ連れてきちゃうような子に育てた覚えはねえよお」
「同意ならしただろう?」
「それはここに来ることであって、そこで何するかは聞いてないからな」
「だって言ったら来ないだろう」
「確信犯!」
 俯いたままぎゃんぎゃんわめくおそ松の反応も、予想の範疇内だった。けれどカラ松は知っている。それこそ、母の胎内に居る頃から、このどうしようもなく子供メンタルで我が儘で気分屋な兄は、どうしたって弟の懇願を振り切れないことを。
「お前がどうしてもダメだというなら、キャンセルする。でも、俺は出来たら、お前とここで愛を誓いたい。真似事でも良いんだ、おそ松を、幸せな六月の花嫁にさせてくれないか」
「カラ松お前さあ、そういう聞き方、マジずるい」
 はあ、と諦めの表情で顔を上げたおそ松が、ゆるりと立ち上がる。ふにゃりと照れたようにはにかむ姿は、松野家では決して見せない、恋人としてのそれだ。
「……嫌だったら、お前のことぶん殴ってとっくに帰ってる」
 遠回しの同意に、カラ松はセラヴィと心の中で叫んだ。照れたおそ松が可愛すぎて、今すぐこの場でキスして押し倒したい衝動に駆られるが、それをしたら台無しなことくらい、カラッポの頭でも判る。
「それじゃ行こうか、ハニー。神の御前でエターナルなラヴをお前に捧げよう」
 最高にクールな台詞で決めた瞬間、あいたたた、とおそ松がアバラを抑えながら笑う。ひとしきり爆笑した後、息も絶え絶えなおそ松がそっと差し出してきた手を取り、カラ松はおそ松と共にホテルのアーチをくぐった。
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