2016年01月05日

禁忌の代償――(RO生体3Fハワエレ)

1/1、ハワエレ始めにぽちぽちと打っていた短いお話です。体調不良で横になってて、つい手が滑ったとかそんな。例のアプデ後の二人です。前にも似たような話をどこかで書いた気がしますが、このネタが本当に好きすぎて。生体悪魔化からもう何年経つのかと思うと本当、光陰矢の如しです。実装から10年というのも、なんとも遠い目をしてしまいますね……。

ハワエレと言えば。C89にてハワエレアンソロジーの完売、おめでとうございました。沢山の皆様の素敵なハワエレがぎゅぎゅっと詰まった一冊で、何度読んでもその度、今も幸せがこみ上げてきます。その素晴らしい作家様方の末席に加えて頂けたことも恐悦至極でありました。お誘い下さった主催様、並びに、御手にとって下さった皆様方、本当にありがとうございました。


そんなわけで、続きは折り畳みです。





 
「……そろそろ、やめとけ」
 グラスの縁へ口をつけようとしたその時、静止の声に手を掴まれた。ひたり、無意識にエレメスは動きを止めた。なみなみ酒の注がれたグラスが、掌中で揺れる。
 物理的には、自由なまま。だが今しがた耳にした、ハワードのたった一言で、動きが雁字搦めにされてしまった。
 恐らくハワード相手でなければそのまま、飲んでいただろう。ハワードの言葉だから。ハワードが言うから。思考とは別に、つい身体が受け入れてしまった。反射とは恐ろしい。己の中のどれだけを、この男が占めているのか。
 忌々しげにチッと舌打つと、あからさまに呆れた息を吐かれた。それが余計、苛立ちを煽る。
「飲み過ぎだ」
「煩い」
 重ねられた説教を跳ね除けて、エレメスは中身を一気に呷った。自身の瞳と同色の、渋みの利いたワインがするする、喉を落ちていく。普段はあまり好んで飲まない、深い血の色。酒なら何でも良かったが、今の自分にはこれが一番落ち着くのだ。
「なあ。何があったか、まだ聞かせる気にはならないか」
 心配を絵に描いたような顔が近づく。止めろと手で押し退けてから、エレメスは嘲笑めいた笑みを浮かべた。
「そんなに気になるなら、セイレンのところにでも行けばいいだろう」
「ま、それでも解決はするんだろうけどな。俺はお前の口から聞きたいんだよ」
「今は語る必要を感じない」
「――今は、か?」
「……そうだ。後でなら、幾らでも話す。だから、さっさと自分の部屋に帰れ、俺のことなど、放って、おけっ……」
 喋っているうちにまた、アレがきた。どくりと脈打ちながら体内の血流が駆け巡り、ぐつぐつ沸騰し始める。体表が灼けるように熱い。肌の感度がダダ上がる。これだけ酒を飲んでいるのに、鈍ってくれない。
「エレメスっ……おい、エレメス!」
 ――ああ。愛しい声が耳の奥で反響する。
 只でさえ規格外な己が身が、更にこんな身体になったのは、強さを求めた自業自得だ。自分勝手な自己満足。最近かなり目に余る侵入者どもに対抗し、仲間を、愛しい人を護れるように。望んで身体を造り変えた。奴らの玩具になった。セイレンも共犯者だ。
 まさか悪魔に堕ちるのは、想定外だった。
 確かに新たな力を得たが、副作用も半端ない。気をぬくと、誰彼構わず襲いたくなる。これには個人差が出たらしく、セイレンはそこまででもないらしい。
 加えた異能が馴染むまでだと言われたが、この昂りを鎮める為には、酒が要る。鮮血に似た杯を、気の済むまで幾度も干して、乾きを疑似に払わねば。
 命に飢えた淺ましい姿を、誰が見せたいというのか。そうなった理由を、いったいどのツラ下げて語れというのか。
 だから去れと、理由を聞くなと何度も何度も言っているのに、聞き分けのない恋人は、延々部屋に居座っている。馬鹿か。ああ、馬鹿だな。お前も、俺も。
「――ッ、ん……う」
 口内に流し込まれた葡萄酒を、必死で飲み縋る。先程までより甘美に、ずっと美味しく感じた。頭がクラクラする。理性が蕩けていくのがわかる。むくりと浮かんだ衝動が叫んだ。欲しい、もっと。今のが。
「エレメス、大丈夫か?」
 労わりの声や言葉よりも、先程の味は目の前の顔がくれたのだと、本能はそれだけを理解した。欲しい、と願うと眼球が熱くなったような気がした。瞳に映る自分の目が紅く、強く光り輝いている。
「……ッ? おい、エレメスお前、まさか」
 何を言っているか、よく聞こえない。それより、そんなことより。目の前の獲物が逃げられないよう、頬をがっしり掴んで近づく。口の端、歯列、ナカに残っている甘露を探して舌を蠢かせた。温くて美味い、命の味。なんという心地良さだろうか。
「んっ、ふ、あ」
「……ああ、そういうことか。何となく解ったよ」
 だいたいが腑に落ちたと言うハワードの声よりも、離れてしまった口が寂しい。顔を伸ばすと、軽く唇が触れた。そのまま、ぎゅうと抱きすくめられる。ああ、この香りに包まれるのも悪くない。だが欲しいのは、今一番欲しいのは――。
「お前、暫く外出るの禁止な。ったく、結構怒ってるからな? ……奴ら相手とはいえ、俺以外に身体を弄らせてんじゃねえよ」
「なら、お前がくれるのか」
「……ハッ、愚問。俺以外から欲しがったら、殺すぜ」
 眼光に四肢を、声に呼吸器を縛られた気がした。喰っていたはずなのに、喰らわれる。
 背を駆け抜けていったのは確かに恐怖だったのに、全身を巡ったのは、中毒性の高い快楽だ。指先から頭のてっぺんまでがじんじん痺れて、酒なんか目じゃない。
「くれ。……早く」
「誰に。誰のが欲しい」
「ハワー、ド、のが」
「……ああ、ご所望のままに。今日という今日は覚悟しとけよ」
 横に抱き上げられたエレメスの額に、触れるだけのキスが落ちる。ぼやけた意識の中、エレメスは、この腕に全てを任せれば良いのだと理解する。施術してから初めて気を抜き、逞しい胸元に頬を寄せた。
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