2015年06月10日

【カネホリっく】「ラブホリック」小説サンプル(寄稿)

【ラブホリック(兼堀)】/A5/48P(カラーページ付き)/500円
[絵描きさんに描いて貰った絵に物書きさんで話を付けて、それを表紙にして1冊出そう]という企画から出来ました
当日薩摩莉子さまのSP(す24 ハイアライト)に委託いたします
表紙イラスト&カット:薩摩莉子さま
★注:破壊ネタあり/創作審神者(恋愛要素なし)あり★


(以上、主催でいらっしゃる湊るいか様のサンプル頁より引用)
__________________________


こちらの御本に小説を寄稿させて頂きました。何卒宜しくお願い致します。

※本文内に堀川君が審神者を「主」と呼ぶくだりが出てまいりますが、当本丸の堀川君は審神者への呼びかけが「主さん」、そうでない場では敬称略しているイメージです。ご了承頂ければ幸いです。


サンプル文の続きは折り畳みです。



 鈍色吐息



 堀川国広の様子がおかしい――和泉守兼定がそれを薄々察し始めたのは、ついぞ半月ほど前からだろうか。
 おかしいと一言でいっても、これといって具体的な根拠があるわけではない。
 例えば、夜更かしをする所為で比較的朝が遅い自分を起こしに来て「しょうがないなあ、兼さんは。本当宵っ張りなんだから。また主の本でも読んで、止め時を見失っちゃった?」と少しばかり呆れた風に笑うのも。大人しめでおっとりした風貌のわりに、やることなすこと言動は案外てきぱきキッパリしていて、はしゃぎ回る短刀達の面倒をみるしっかり者の一面も。そして内番稽古の時に相対し、いざ尋常に勝負となると、鋭い刃と強い瞳の煌めきを見せるのも。
 全て、和泉守兼定が昔から知るところの、普段の堀川国広、の筈なのだが。
 なんとなく、何かが違うのだ。
 気のせいとは決して言い切れない、直感。
 ごく個人的な感覚を言葉で言い表すのは些か難しいのだが、不可視の極薄な膜が、自分と彼を隔てている。彼を覆っているそれは無色透明無味無臭で、よくよく注意していないと恐らく誰も気付かない。
 彼の兄弟刀である山姥切国広が被っている、あの布に性質が近いような気がしてならない。拒絶とまではいかないが、堀川国広とその周囲との、隔絶の証であるように感じられる。
 自ら助手を名乗ってしょっちゅう自分に纏わり付き、頼んでもいないのに世話を焼き、兼さん兼さんと親しげに笑みかけてくるくせに。明るい笑顔の下に張った膜の内側、深い領域までは、決して踏み込ませてはくれない。
 これが堀川国広という魂魄の本性であり、人との接し方というならば納得もいく。が、変化はこの本丸に来てから、しかもここ最近になって起きている。以前はもっと開け放たれていたように思う心の扉は、いつの間にかその最奥だけ、固く錠が掛かってしまった。
 そこまで判っているものの――和泉守兼定は、その理由を、原因を、堀川国広になかなか問えずにいた。



「じゃあね、兼さん。行ってきます」
「おう」
「って、まだ寝間着? 起こしてからもう半刻は経ったよね。あーあ、生欠伸までしちゃって。近侍でも内番でもないからって、少し気抜け過ぎだよ」
 まるで保護者のような小言に、思わず和泉守兼定は片側の耳孔に人差し指を差し入れる。
「わかってる、お前が行ったら着替えるさ」
「もう、そんなこと言って最近そのままなの知ってるんだからね。ちゃんとあとで確認するから、誤魔化してもダメだよ」
 幾分前屈み気味に腰へ手を当て、ぴっと立てられたもう片手の人差し指が、和泉守兼定の眼前に迫る。
「国広……」
「ん? なに?」
 にっこり、有無を言わせない雰囲気で、堀川国広が笑んだ。
 実際、刀剣としての歴は堀川国広が上であるのだが、どうも相手の方が小柄な所為か、年下から注意を受けている気分が勝ってしまう。
 とあれば幾らこの本丸で最も親しい、もっと言ってしまえば理無い仲の相手だったとしても。正鵠を射た忠告でも、素直に聞き入れ辛くなるのは致し方ないこと――だと思う。多分。
「あーもー、俺のことはいいからもう行けって。ほら、彼奴ら待ってるだろーが。お前今日隊長なんだろ」
「はいはい。みんな、待たせてごめん。さ、それじゃ行こうか」
 短刀達が各々元気よく返答し、わちゃわちゃ堀川国広の周りで群れる。頭一つ、ないしは二つばかり低い集団を引率するように、堀川国広は同伴のにっかり青江と共に、集団の先頭へ立った。
「じゃあね兼さん!」
「応、気をつけてな」
 ぶんぶんと、五本の腕がこちらに向いて左右に揺れる。まったく元気だ。流石に、にっかり青江は軽く手を挙げるだけに止めたらしい。
「やーっと騒がしいのが行きやがった」
 彼等の姿が、だんだん小さくなっていく。向かう先は文字通り命を賭けた戦場だというのに、長閑な風景に混じる彼等の楽しげな様子は、まるで物見遊山へ行くようだ。
「……今日も行っちまった、なあ」
 ぼやくように独りごち、和泉守兼定は寝間着のまま縁側に腰掛け、胡坐をかいた。膝の上へと肘を着き、上向いた掌に顎を乗せる。些か行儀の悪い格好だが、そんなとき自分を窘める堀川国広はもう、既に遠景の彼方だ。
 集団が視界から完全に見えなくなってから、はぁっと嘆息する。こうして堀川国広を送り出す側になって、どれくらいになるだろうか。
 彼等の向かった京都市中は、和泉守兼定にとって縁の深い土地だ。
 かつての主達が刃を切り結び、群雄割拠したあの場所は、思い出深いなんてものじゃない。加えて飛ぶ先の時代は幕末、しかも渦中である池田屋事変の頃だという。
 初報でそれを耳にしたとき、和泉守兼定は居ても立っても居られなかった。なんとしても出陣したいと、主に願い出た。
 けれど京都市中へ向かう時刻は、深夜と限られていた。夜戦では、太刀である和泉守兼定の持つ、攻撃に有効な特性を封じられてしまう。編成は短刀や脇差、精々が打刀まで、と。特性を踏まえて編成を決めた主の判断は正しい。
 それでも、どうしてもあの時代に行きたいと、たった一度でいいからと嘆願し、主に無理を言って隊列に加えて貰ったこともあった。
 結果、一戦終えた時点で深い傷を負い、帰還を余儀なくされたのは記憶に新しい。あれは非常に苦い経験だったが、反省を生かせずして勝利はない。太刀や大太刀、薙刀が無力であると身を以て知った和泉守兼定は、状況を冷静且つ真摯に分析し、潔く一線から身を引いた。
 戦場において、地の利や個々の特性を生かすのは常道。太刀である自分に出番は無いどころか、足手纏いにしかならないのだから。
 と、そんなことは重々理解しているが、正直なところ、自分が前線に立てないのは実際歯がゆい。やりどころのない憤りを内番稽古にぶつけても、日々溜まっていく鬱憤の方が上回る。
 もっとも一番気に入らないのは――あの激動の時代独特の空気をこの身に感じられないのが、自分だけという点かも知れない。
 言葉は悪いが、除け者というか。なにせ脇差である堀川国広だけでなく、打刀の加州清光や大和守安定、陸奥守吉行すらも出陣が可能なのだ。
 自身が太刀の魂魄であるという誇りは無論あるが、現実を理解し享受する理性と、持て余す感情は別物なのである。
 それに付け加え、このところずっと堀川国広の様子も心に引っかかっている。内番手合わせでもあれば対戦相手に八つ当たり出来るが、今日はそれも無い。くさくさした心持ちにもなろうというものだ。
「――ッ、ったく」
 縁側に足を降ろした和泉守兼定は、ごろん、と仰向けに転がる。豊かな髪を無造作に拡げたまま、空を見上げた。
 だいぶ高くなった陽がぽかぽかと暖かい。眩しさに手を翳し、細めた視界からも判るほど澄み切った青空だ。雲一つなく、まさに行軍日和と言わんばかりで、それがまた憎らしい。実際のところ、その出陣先の時代に飛んでしまえば本丸周辺の天候など関係ないのだが。ようは気分の問題なのだ。
「…………あー」
 だんだん考えるのが億劫になってきた。だいたい、ごちゃごちゃ思考を巡らすのは性に合わないのだ。
 もう今日はこのまま此処で惰眠を貪ってしまおうか。瞳を伏せ、大の字に両手を拡げた、そのとき。何者かが近づく気配を察した和泉守兼定は、ゆっくり瞼を持ち上げる。
「やあ」
 人を上から覗き込むようにしてそこに居たのは、己と同じく太刀故に一軍から留守番組となった、燭台切光忠だ。
「燭台切か。なんだ」
「何って、僕は堀川君に頼まれたんだよ。君をちゃんと着替えさせて、朝餉を摂らせてくれってね」
「……国広のやつ」
 ちゃんとあとで確認するから――あの発言の意味を知り、やれやれだと肩を落としながら、和泉守兼定は起き上がった。がしがし頭を掻くと、くすりと口元で燭台切光忠が微笑む。 
「相変わらずだね、堀川君は。君以外眼中にないみたいだよ」
「まあ、そうかもな。念約を交わしてからは、前以上に構われている気がする」
 すまし顔で肩を竦めると、燭台切が隣に腰を下ろした。
「あっさり惚気てくれるねえ。仲睦まじくて良いじゃないか」
「有り難いときもあるけどな。世話焼きが過ぎるのも考えものだぜ」
「ははっ、まあそう言わないであげなよ。君の名前を呼ばない、世話を焼かない堀川君を想像してみなって。絶対寂しいだろうから」
「そりゃ、まあ。そうだろうけどよ」
 少しばかり目を逸らしながら、それでも素直に認めると、燭台切光忠が穏やかに笑いかけてきた。
「君が出陣して、本丸で留守を任されているときの様子も小耳に挟んだけど、堀川君はいっつも君の無事を案じていたみたいだね。それが今度は自分が戦に赴く番だっていうのに、君のことを気にかけてばかりだ。本当に、君が大切なんだろうね」
 自分もそれは耳にした。というより、出陣から帰ってくると大抵そんな話になるのだ。太刀として一軍にいた自分と異なり、脇差である堀川国広は大抵、遠征に行っていた。その場に居ない人間というのは、何かと話題の餌になりやすい。殊に、念約を交わしたばかりの自分達は格好のネタというわけだ。
「そのネタなら、言われすぎて耳にタコが出来るぜ」
「仕方ないよ。それだけ君達の睦まじさを羨んでいるんだ。戦いの日々は僕達の在り方を思えば当然だ。けれど人の形をとって顕現した以上、様々な感情が宿るのを僕達は知った。戸惑いながらもそれを受け入れている中、最も人間に近い感情を得た君達に興味が向かないわけが無い」
 そんなもんかね、と口にはするものの、和泉守兼定にもその気持ちは判らなくも無い。堀川国広に感じるこの気持ちが果たして、主達のいう色恋に当たるのか。問われて自信たっぷりに断言できるかというと、実のところ、否だ。
 ただ堀川国広の存在は、和泉守兼定にとってこの本丸で群を抜いている。それが自分でも判っていたから、堀川国広に想いを打ち明けられたとき、その手を取った。『僕にとって兼さんは誰よりも大切なんだ。だから兼さんの一番も、僕であって欲しい』――そんなの、言われるまでも無かった。堀川国広が願うより前から、一番だったのだから。
 愛やら恋と呼べるかは、解らないのだが。
「ところで――なあ燭台切。お前の目からみてあいつは、相変わらずに見えるか」
「どういう意味だい?」
「どうって、言葉通りだ」
「つまり、堀川君に何かしらの変化が見られるかっていうことかな。少なくとも僕にはそんな風には感じられないよ」
 首を横に振って語る燭台切光忠の言葉に、和泉守兼定はううんと唸る。
 実はこの件について、予てより第三者の意見を聞いてみたかったのだ。
 燭台切光忠を選んだ理由は、彼がこの本丸内では比較的、心情の機微に聡いと思ったからだ。そして皆が居る場所では揶揄られて話にならない可能性が高く、邪魔者が居ない今が、聞くには絶好の機会だったのだが。彼が違和感はないと判じる以上、堀川国広に異変と呼べる変化は起きていない、ということになる。
 が、しかし和泉守兼定は自分の直感も信じている。今の堀川国広は、絶対に前までの堀川国広ではないと。
 どうしたものかと腕を組んで考え込んでいると、怪訝そうにしていた燭台切光忠が、ハッと目を見開いてこちらを凝視した。
「どうした。なんか心当たりあったか?」
「そうじゃなくて。まさかとは思うけど。君、堀川君の浮気でも疑ってるとか、そんなんじゃないよね」
「そりゃ、ねえな」
「へえ、即答か。信じてるんだね」
「というより、あいつがオレ以外に惚れ込むなんざ有り得ねえってだけだ」
「言うねえ」
 燭台切光忠が、ぴゅうと口を鳴らす。
 だが和泉守兼定にとってこれは決して自信過剰なのでなく、純然たる事実を述べただけのつもりだった。
 何と言っても、自分と堀川国広は同じ時代を生き、同じ主の腰に並んで差さっていた。そんな深い縁を、自分以上に深く結べる者がいるとは到底思えない。それだけのことだ――和泉守兼定がそう理由を述べると、得心したように燭台切光忠が頷いた。
「成る程ね。でもそういう理由なら、君達の前の主が心酔していた人の刀剣であるところの、長曽祢君が来ても君は同じ事が言えるのかい?」
「――あの人が見つかったのかッ?」
 唐突に出てきた思いもかけない人の名前に、思わず食い気味に前のめる。こちらの反応が意外だったのか、ぱちぱちと目を瞬かせてから、燭台切が申し訳なさそうに首を振った。
「……いや、まだだよ。報告は受けてない。主が言うには、京都市中でも検非違使が出現するようになったから、捜索の機会は広がってるそうだけどね」
「そうか……」
 長曽祢虎徹――彼とその弟である浦島虎徹が、どうやら検非違使に捕らえられているらしいという情報が本丸に入ったのは、一月も前のことだ。新たな同志に沸く本丸の中で、蜂須賀虎徹と、新撰組に関わった者達だけの顔色が違った。蜂須賀にとっては兄弟刀、自分達にとっては主に深く関わる相手。共に動揺して当然だった。
 どうにかして検非違使を幾度も倒してきた。つい先日、浦島虎徹は無事に保護できたが、長曽祢虎徹の行方は杳として知れない。
「…………ふうん」
「なんだ?」
「――いや。あまり思い詰めないように、と思っただけだよ。そりゃ長曽祢君の行方は気になるだろうけど、でないと、堀川君に心配かけるよ」
 むしろ心配してるのは自分の方なのだが、とは流石に言わない。燭台切光忠も、自分達を純粋に心配してくれているだけなのだ。好意に水を差したくない。
「わかってるっつーの」
「それなら良いんだ」
 ようやく安心したように頷いた燭台切光忠の表情が、青空を写し取ったように憂いが晴れる。どうやらこの同志に、思った以上に心配をかけていたらしい。
「さ、朝餉にしよう。すぐに用意できるから、その身なりを整えておいでよ。格好良く、ね」
 お決まりの口癖を残し、燭台切光忠が台盤所へと去って行く。その背中に、応、と返した和泉守兼定は、燭台切光忠の言葉を思い返す。
「思い詰めないように、か」
 そんなつもりは無かったが、言われてみれば確かにこのところ、長曾祢虎徹のこととなるとつい、肩に力が入っていたかも知れない。もう少し程々に息を抜くか、と心に思いながら和泉守兼定は、衣服を正すべく自室へ戻った。


<続く>
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。