2014年12月14日

【第28回フリーワンライ】金糸雀 茜色に滲む視界 ラグナロクオンライン ブラックスミス

来週はいよいよジャンフェスですね! 物販やステージの詳細が続々出てきて、とても楽しみではあるのですが、年末ならではの忙しさで諸々大変な近況です。もう後半月ほどで今年も終わってしまうのかと思うと、まさに光陰矢の如し。

と、それは置いといて。
Twitterにてフリーワンライ企画様(@freedom_1write)が主催なさっていらっしゃる「深夜の真剣文字書き60分一本勝負」。主旨はこちらに詳しくありますが、簡単に言えば、直前に出された複数のお題を使って一時間制限で何か書きましょう、というもの。

と。またもテンプレ文章でお送り致します。
前回分なのですが、フリーワンライ企画に参加させて頂きました。

今回はRO、カプ要素は無しです。ブラックスミスとありますが、彼の出番はほぼないっていう。時間足らずで尻切れトンボというか無理矢理〆た感じになってしまったのが悔やまれます。これしっかり脳内で続いているので、機会があれば長編で書き直せたらなあ、なんて。
相変わらず推敲・読み直しの時間が無かったため、恥ずかしながら助詞不足や表現被りなのをそのまま載せております。

そんな感じで続きは折り畳みです。
「――ちゃんと、かえってきてね? やくそく、げんまん」
 幼い指が、少年の小指としっかり絡む。本来ならば柔らかく、ふっくらしているはずの年頃である少女の手は、栄養不足で骨が浮かんで見えた。だがここアインベフでは、そう珍しいことでもない。日々食べることでやっとの生活を送る中で、家庭に子供が二人いるだけで経済事情はいとも簡単に逼迫する。そんな家が殆どで、少年の家も例に漏れない。
 苦しい家計の中、自分を此処まで育ててくれた両親に孝行したい。未だ幼い妹に、辛い思いをさせたくない。
 先日十五になったばかり。まだ少年の殻を破ったばかりの彼が家を出て、冒険者を志した大きな理由だった。
 愛しい妹の手を包み込み、少年は力強く頷き返す。
「大丈夫。兄ちゃんが約束破ったこと、ないだろ。立派なブラックスミスになってくるから、良い子で待ってるんだぞ」
「うんっ!」
 晴れやかに喜ぶ少女の笑顔に見送られ、少年は一路、商人の街アルベルタを目指す。
 小さな革鞄の中には、コツコツ貯めた旅費。貧しい彼の家では、それだけ貯めるのも一苦労だった。鉱石拾いに街を訪れる冒険者や鉱山関係者の道案内。文字通り、塵をかき集めるように少しずつ、ここまで貯めた。
 冒険者となり、アインベフでもっとも有用になるであろう、鍛冶のスキルを磨いて、一財産築いて故郷に錦を飾る。
 アインブロックへと向かう汽車の中で少年は、強い決意を胸に秘め、窓の外をじっと見据えていた。



「……いっちゃった」
 ぽつん、と。少女の囁きが、ホームを舞うつむじ風に溶けて消える。
 今夜から大好きな兄はもう、家に居ないのだ。それがどうしようもなく、寂しい。
「おにいちゃあん……」
 じわじわと、少女の瞳に塩辛い涙が満ちていく。兄に見せたくなかった涙が、今更にようにあふれ出てきた。ぼたぼたと冷たいコンクリートを濡らして、少女は声もなくむせび泣いた。
 ひく、ひっく。
 小さな肩が痙攣を繰り返す。
(ぜったい、かえってきてね)
 子供心に、少女には兄が家を出た理由は何となく判っていた。ずっと兄の後に纏わり付いて、手伝いをしてきたのだ。一生懸命お金を貯めていたのも、その微々たる儲けを更に割いて、家の助けにしていたのも。
 だから応援したいのだ。立派になって返ってくる兄を待ちたいのだ。
「おにーちゃあん! まってるからねー!」
 薄汚れた服の袖で瞼を拭った少女が叫ぶ。ふんっと両手に腰を当て、ふうっと息を吐いた。真白い息が、この鉱山の街に冬の訪れを報せているようだ。じき、日が暮れる。両親に心配をかける前に、早く帰らなければ。勝手知ったる街とはいえ、ここは決して治安が良いわけでは無い。
 くるり、少女が身体を反転する。
 すると真後ろに、つまり反転した少女の目の前に、ぬぼおと大きな影が覆い被さって見えた。
「――っ、やあっ!」
「ごめん、驚かせちゃったな」
 頭を撫でられ、少女は影がただの人間だと悟り、ふるふると首を振った。
「……ううん。ごめんなさい」
「よかった」
 笑みを浮かべたのは、如何にも鉱山に向かう途中と言わんばかりの風体をした男が二人だった。二人とも父よりは若く、兄よりは随分上に見える。冒険者なのか坑夫なのか、少女にはそれだけでは判断が付かない。
「そうだ。お嬢ちゃん、ここの子?」
 無言で首肯すると、二人が何やら頭の上でぼそぼそと会話する。内容が良く聞こえず、一体何だろうと少女が不思議に思っていると、男のうち一人がしゃがんで目を合わせた。
「俺ら、アインベフの鉱山に行きたいんだけど、道を知らないんだ。案内してくれるかな」
「勿論お礼はするよ」
 穏やかな物言いは、どこか少女の父を思い出させた。けれどその声音が妙に優しく感じたのは何故だろう。初めて逢う人なのに、親しげなのが少女にはとても違和感だった。
(でも、お礼くれるって)
 男達の提案は、少女にはとても魅力的に思えた。兄がやっていたように、自分にもお金を稼ぐことが出来るかも知れない。
「おれいって、どんな?」
「受ける前に報酬の確認とは、しっかりしてるお嬢ちゃんだ。そうだな……危険度が上がれば上がるほど、良い物になるぜ」
「いいもの……うん、やる!」
 キラキラ瞳を輝かせ、少女が力強く頷く傍ら。一人がもう一人の腹を「おいっ」と肘で突く。が、少女と商談していた男は肩を竦めてにやりと笑んだ。
「良いだろ、ちょうど金糸雀探してたトコなんだし。何も無きゃないで終わるって」
「かなりあ?」
「君のことだよ、お嬢ちゃん。可愛い声した黄色い小鳥さ」
 少女には男の言っている意味がよく判らない。だが、可愛いと言われて悪い気がする女は居ない。それは少女でも同じ事だ。褒められたことで、少女の中でこの二人は「良い人達」に認定された。
「それじゃ、こっちね」
 二人を先導するように、少女は鉱山を目指して真っ直ぐ歩き出した。


「はー、ほんっと広いな此処。おい、ちゃんとマッピングしてるか?」
「してるよ」
「ならいいが――お嬢ちゃん、あんま先行きすぎるなよ。それとももう、帰りたいか?」
「ううん」
 おしごとだもん、とふるふると首を振って、男達の前を歩く。
 薄暗さにはだいぶ目が慣れてきたが、岩や石ころが転がった道を歩き続け、少女の足は限界を訴えていた。泣きたい。本当はもう、家に帰りたい。家に帰れば、豪華では無いが素朴で温かいご飯と、ふかふかではないがゆっくり休める寝台が待っている――だが。
(でも、お礼に石、もらえるもん)
 男達が提示した条件は、鉱山の前までだけではなかった。もしこの鉱山内で前を歩いてくれるなら、オリデオコンと呼ばれる高価な鉱石を、案内料とは別に十個もくれるというのだ。
 精錬には必ず、その鉱石が要るのだと男達からと聞いた少女の胸は躍った。晴れてブラックスミスとなった兄への、これ以上無いお祝いの品となるに違いない。
 一も二もなく了承し、そうして今も、少女は鉱山の中を歩いている。
 特に何があるわけでも無く、モンスター達が出るわけでも無く。疲れはするけれど、危ないことなど一つも無い。
 依頼を受けるとき、必ず内容と金額が釣り合うかどうか確認するのが大事なのだと、兄はいつも言っていた。耳にたこができるくらい聞いていたので、勿論しっかりそのことを覚えていた。
 だから少しばかり、この依頼について警戒していたのだ。けれど。
(おいしい話は、だめって言ってたけど。だいじょうぶだよ、おにいちゃん。いい人達だもん)
 自分にだって兄の代わりは務まる。両親を助けて、兄の帰りを待つことが出来る。だから心配しないで、立派なブラックスミスになって欲しい。鉄のカートを引き摺って、大好きな兄が帰ってくる日が待ち遠しい。
 ちゃんと良い子にしていたと言ったら、兄は少しくらいの我が儘を聞いてくれるだろうか。兄の引くカートに乗ってみたいと言ったら、乗せてくれるだろうか。
「……お、にい、ちゃ……」
「――っ、おい!」
 少女が兄を呼びきる前に、ぐらり、小さな身体が傾いでいく。慌ててマッピングをしていた男がその身体を支えようと手を伸ばした。が、もう一人に「待てっ」と引き止められて、少女の身体はあっさり地面に倒れ伏す。
「おまっ、何すんだよ!」
「バカ。ミイラ取りがミイラになりたいのかよ。いいからしゃがむな、判ってんだろ」
「――っ!」
「即効性だ。空気より重いお陰で俺らはまだ助かってんだ。イイから口塞げ、出来るだけ吸うな」
 頭上で男達が会話しているのだが、何故だか少女の頭には話の内容が入ってこない。何だか身体が重たくて、だんだん気が遠くなってきた、気がする。息をするたび、胸が苦しくなる。カンテラの明かりしかなかい薄暗さのはずなのに、少女には視界が茜色に濁って見えた。
(……うごけ、ないよ……おにいちゃん、たすけ……)
 それが自分の吐いた、血の色だとは気づけなかった。
「この子置いてくのかよ!」
「最初っからそういう約束だろ。金糸雀ってのは、そういうもんだ」
「だからってお前」
「出るぞ! 死にたいなら勝手に残れ!」
「――ごめんっ……」
 ばたばたと駆ける足音と共に男達の気配が遠ざかり、最後の慈悲に残されたカンテラの明かりが、少女を照らす。
(……なんだか、眠い……おにい、ちゃ……お、やすみなさ、い……)
 眩しい光の中に、大好きな兄の幻を見つけた少女は最期の笑みを浮かべ――瞳を閉じた。
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。